第20回 ミコト編⑦


 ――【試しの森】、鬱蒼と覆い茂った森に囲まれた場所であり、出立の草原の隣のエリアである。出現する敵は、先のフィールドよりも強力でそれ故に必然的に攻略難易度が上がっている。



「さて、リベンジ開始ぃーーー!!」



 拳を高らかに突き上げ、前回の雪辱を果たすべく試しの森へと侵入する。



 ここでフィールドとエリアについての説明をする。フィールドは街から街の間にあるすべてのエリアを指すもので、私がいる試しの森と出立の草原は第一の街に属するエリアとなっている。



 エリアとは特定のフィールド内に所属している場所のことを指し、試しの森を住所のような表現にすると【第一フィールド 試しの森】という感じになる。



 そして、今私は試しの森を入ってすぐの場所にいるわけだが、さっそく招かれざる客がお出まししたようだ。



「……これって、イモムシよね?」



 目の前に出現したのは、見た目が完全にイモムシの姿をしたMOBだった。【フォレストキャタピラー】という名前らしく、某有名育成RPGに登場するあの緑色のモンスターを彷彿とさせる。



 動きは鈍く緩慢だが、こういったタイプのMOBは防御力が高いのがセオリーだったりするので、私は油断せずに腰の剣を抜き放つ。



「くらえ【ダブルスラッシュ】!」


「ピギィー」



 出立の草原で行ったレベル上げによって覚えた初級剣術のアーツである【ダブルスラッシュ】を放つ。実を言えば、覚えたことは覚えたのだが、もはや通常攻撃一発で沈んでしまう出立の草原のMOB相手に使うのはどうかと思い、今まで使う機会がなかったのだ。



 二筋の剣戟が閃光のように光り輝く、それを受けた相手苦しむような悲鳴を上げた。相手HPバーが一気に減少し、残りは一割程度といったところだ。



 言い忘れていたが、初級鑑定がレベル10に上がった時に相手の細かい情報がわかるようになっていた。それにより、相手の残り㏋がどれくらいあるのかメーター表記でわかるようになったのだ。



「うーん、やっぱり硬いわね。あれだけレベル上げしたのに、一撃で撃破できないなんて」



 相手がまだ倒されていないことに少し驚きながらも、試しの森にリベンジする前にレベル上げをしておいた方がいいという自分の判断が間違っていなかったことに安堵する。



 追加で止めの一撃を加え、弱々しい声と共にフォレストキャタピラーが完全に沈黙する。手に入れたドロップアイテムは【モンスターの甲殻】と【モンスターの体液】がそれぞれ一個ずつだった。……モ〇ハンかよ。



 それから森を進んで行くと、次に登場したのは【パワーマッシュルーム】というMOBだった。姿形はキノコ型のMOBで、名前にある通り体当たりによる物理攻撃を仕掛けてきた。



 しかしながら、動き自体は素早いわけでもなく攻撃の軌道も直線的であったため、相手の攻撃を躱しその隙を突いて攻撃するという方法で簡単に撃破することができた。



 ちなみにドロップアイテムは【キノコの粉末】と【キノコの傘】というアイテムだった。おそらくは調合系の素材と調理系の食材ではないかと当たりをつける。



 順調に進んで行くことさらに五分後、途中何匹かのフォレストキャタピラーとパワーマッシュルームを相手取りながら戦っていると、初見の相手が出現する。



「おお、ここでこいつが出てくるか」



 その姿はまさに醜悪という言葉が相応しいほどに醜いものだが、不思議と嫌悪感はあまりない。ファンタジーの代表的モンスターであり、こいつを知らないやつはにわかとさえ言われるほどの超有名モンスター。その正体とは――。



「ゴブリンだな」



 緑色の肌に一メートル前後の小柄な体格、口には鋭い牙が生え揃っており、その手には棍棒が握られている。



 服などは着ておらず、薄汚れた腰みので大事な部分だけを隠しているといった感じだ。これがリアルであれば、臭いがきつくて顔を顰めてしまっていただろうが、ゲームの世界なのでそういった臭いは何も感じない。



 そういう所がゲーム仕様で良かったと内心で安堵していると、いきなりコブリンの方から襲い掛かってきた。



「ギャギャー」


「ふん、そんな大振りが当たると思ってるの? これでもくらいなさい」


「ギャッ」



 相手の攻撃を躱しその隙を突いて反撃を試みたが、今までの敵と違いすばっしこい動きでこちらの攻撃を躱して致命傷を避けたようだ。それでも、ダメージ判定はあったようで、牙を剥き出しにしながらこちらを威嚇するように唸っている。



「ギャギャギャー、ギャギャー」


「うん? なにかしら」



 今までと鳴き方が違うことに警戒しつつ攻撃を仕掛けようとしたその時、新たなゴブリンが乱入してくる。どうやら先ほどの鳴き声は仲間を呼ぶ声だったらしく、一匹だったゴブリンが三匹になってしまう。



「まだなんとかなる……かな」



 相手の戦力を推し量りながら逃げるかどうかの判断をしていたが、それを相手が待ってくれるわけもなく徒党を組んで襲い掛かってきた。



「うわ、はっ、さ、さすがに三匹になると仕事量が増えて大変だわ」



 このままでは数の優位に押し切られてしまうと焦ったが、まだ余裕を残していたので今から集中モードに移行することにした。



「すぅー、ふぅー、いくわよ」



 そう宣言すると、私は一匹のゴブリンに向かって突撃する。そのまま相手の側面に回り込み、横薙ぎに放ったスラッシュをお見舞いする。ゴブリン自体の防御力は、フォレストキャタピラーやパワーマッシュルームの二匹よりも脆く、アーツを駆使すれば今の私なら一撃で撃破することは難しいことではない。



 ただ俊敏性が高いので、相手よりも早く動けることがゴブリン攻略の鍵だったりする。



 仲間の一人がやられたことで怯むかと思いきや、逆に激昂し襲い掛かってきた。一匹目はなんとか躱したが、二匹目が放った棍棒の一撃を躱しきれずにその身に受けてしまう。



「ぐ、でもそれほどダメージがあるわけじゃない!」



 ダメージは今の私の最大㏋の5%程度実数で言えば5か6ほどなので、大したことはないといえばそうなのだが、連続でくらうとまずいのは確実なので油断は禁物だ。



 さきほどのお返しとばかりにダブルスラッシュを叩き込み、これで残りは一匹のイーブンにまで戻った。



「ギィ」


「さあ、覚悟しなさい。あとはあんただけよ」


「ギャギャ、ギャブッ」


「同じ手が何度も通用するとは思わないでちょうだい」



 再び仲間を呼ぼうとしたゴブリンにショップで購入した【石のクナイ】を投げつけた。狙いすましたクナイがゴブリンの喉元に突き刺さり、ゴブリンの声を遮る。そこに生じた隙を見逃すことなく、最後の止めの一撃を加えゴブリンを倒した。



「ふう、なんとか勝てたけど。また仲間を呼ばれていたら、わからなかったわね」



 意外と苦戦したものの、ゴブリンをすべて倒すことができた。今回の戦闘リザルトを確認したあと、私はとあることを思い出す。



「そういえば、あのときは抵抗するのに必死だったけど、あの暗闇で襲ってきていたのはこいつらだったのね」



 前回の挑戦で死に戻りの原因がなんだったのか考えてもわからなかったが、今回の戦いで謎が解き明かされた。どうやらあの暗闇で私のことをいいようにボコってくれたのは、ゴブリンだったみたいね。じゃあ、これで一応リベンジは果たしたってことだね。



《特定条件を満たしました。プレイヤー【ミコト】は【初級投擲術】を獲得しました》



 いろいろと頭の中で考えを巡らせていると、インフォメーションが表示される。どうやら石のクナイを投げたことで、スキル修得条件を満たし新たに【初級投擲術】を獲得したようだ。



「まあ、確認しなくても投げるときに命中率に補正が掛かるっていうスキルなのはわかるわね」



 新しいスキルを手に入れたことで、調子づいた私はそのあと試しの森のMOBたちを狩りまくった。鉄の剣以外にも武器を使って戦いスキルの経験値を稼いでいく。



 ちなみに新しく買ったトンファを実戦で使った時に【初級殴打術】というスキルを手に入れることができた。



 あまりエリアの奥地に入らないよう気を付けながらそのまま狩り続けたが、空が赤く染まり始めたので今日はこのくらいにして街へと帰還することにした。



 エリア内であればメニュー画面から操作して街に帰還することができるので、とても便利だ。ちなみに街からエリアに行くには、一度そのエリアに足を踏み入れているという条件付きで、指定したエリアの入り口まで飛ぶことができる仕様になっている。



「ああ、疲れたー。今日はこのくらいにしておきましょう」



 そう言って手に入れたドロップアイテムを売り払い、今日はそのままログアウトすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る