第四話〜第六話

第四話


 僕がこの妙(?)な力を利用して、悪に染まり、犯罪に利用すれば、それなりの成果も有るかも知れない。


 目を付けた人間に近づき、友好関係を築く。相手から気を使ってもらえる様になれば、その相手は時期に原因不明で他界する。


 又、これをビジネスに利用も可能だろう。


 だが、お人好しだった僕には到底無理な話だ。


 僕が消えさえすればそれで済む……が、きっかけも無く行動出来ない。自分で死を選ぶ選択肢が無いからだ。


 今までずっと、周りを避けて来た。ようやく何事も無く過ごせる様になった。


 何事も起こらなくなったのは良いが、誰との接点も無くなった。

 仕事も長く続けられない。趣味も、仲間と興味を共有する事も出来ない。


ここ最近はこの事で頭が一杯だ。でも死ぬ気は無い。


 ……待てよ……。やっぱり殺しのビジネスで使うのが1番良いかもしれない。……依頼相手は僕に対して報酬を出す。その事が僕に気を使っているのだとなった場合、依頼主は対象相手がく、前の日付や時間より先に依頼主が逝ってしまうかも知れない……。うーむ……それでは意味が無いな。


 別に、取引に余程信頼されない限りは、前金での契約などしないだろうから問題無いのだが……。


 それにこの謎の力がいつまで続くかも問題だ。


 僕が人知れず逝くのはいい。だが、親にはそれなりの金を残して逝きたい。


 やはり、この線で過ごしていって、親に幾らか金を残したら、キリの良い所で僕は他界する……これで良いだろう。僕の人生プランにしては上出来だ。


この妙な謎の力は、やっぱりあの祠のぼた餅を食べてからなんだと思う。他に何もやってはいない。大人しいもんだった。


 と、言う事は、あの祠に貼ってあったお札が、別の形になり、僕の中に取り込まれ、謎の力が生まれた……としか思えない。


 もう一度、あの祠に行ってみれば何かヒントが有るか?……あの祠、まだあるだろうか……。いや、この力を消す事は出来ないものか、それも自分の意思で。


 果たして出来るだろうか?


僕は別に憎んでる人がいるわけでもない。殺したいほどの憎悪の対象は僕には無い。


僕以外の人で、憎む人がいるだとか、殺したいほどの相手がいると言う人間は多いだろう。


僕と絡みが出来て、気を使ってもらえる様になればその人は必ず逝ってしまう。


ところが、憎む人がいる、殺したい人がいる。そんな人との絡みなんてキッカケすら見当も付かない。

依頼された相手が、僕に気を使おうとするまでの付き合いには、まず発展しないだろう。


どう利用していけば良い?利用……出来るのか?

 

以前までは、この謎の力で逝ってしまう人を考えて、僕の方から避けて過ごしてきたが、今はその逆。対象になる相手を探そうだなんて皮肉な事だ。


お人好しな僕だったから、避けてきた。これが悪い方向にばかり考えて過ごしてきたとしたらどうだったろう……。


やっぱり、もう一度、あの祠に行った方が良いかもしれないな……。何か分かるかも知れない。


小次郎は、翌日、例の祠に出掛けるのだった。




第五話


 午前中の事……。


小学校の頃の通学路。少し離れた所に、今も祠が建っている。

僕は10数年ぶりにここに来た。


祠の前に歩いて行くと、高齢の女性がお供物くもつを納め、拝んでいる。


 その祠には以前と変わらず、お札は無かった。


 近くに寄った小次郎に、高齢の女性が声を掛けてきた。


 「ちと尋ねるが、お兄ちゃんは10年程前にここのぼた餅を食べたろう?……どうじゃ?隠さなくても分かっておる。当時のぼた餅は、われが供えていた物じゃ。」


 (この高齢の女性があの時にもぼた餅を供えていたのか⁉︎……もしかすると、僕の謎の力も知っているのかもしれない。)


 「お兄ちゃんや。1つ聞いて良いかな?当時、お兄ちゃんがぼた餅を盗み食べた時の事。ここの祠のお札は覚えておるかの?」


 小次郎は、何年も前の話過ぎて覚えていなかった。

 ……が、お札が有ったのなら、あの時別の形となり、自分の中に入り込んだのは確かだろう。この事を伝えるべきか悩んでいた。


 小次郎は高齢女性に答えた。

「確かに、僕、ぼた餅食べちゃいました。……そ、その時、お札は有ったのかも。でも、煙の様に俺の中に吸い込まれたんです。それがお札なのかは分かりませんでした。」


 「ほう、そうだったか。それであの時からお札が見当たらなかったのじゃな。……ならばお兄ちゃんはもうお札に呪われておるわ。もう自分でも気が付いているのではないかな?……もうお兄ちゃんは救われない。お兄ちゃんのごうは一生消せない物になってしまった。可哀想じゃが仕方がない。」


 (この女性は全てを知っている様だ。ど、どうすれば。……それとも頼ってしまうか?)


 「お兄ちゃんは、長年気が付かずに過ごして来ただろう。そして今ここに居ると言う事は、この祠、それからお札に関して知りたくなったのじゃな?」


 小次郎はその通りの事を指摘され、黙ってうなずいた。


 「素直でよろしい。して、お兄ちゃんの名は何と言う?」


 「み、南沢小次郎です。」


 「南沢小次郎と申すか……。祠のお札……そしておぬし。……おぬしの身体に染み付いたお札の煙こそが呪い。過去の事で色々思い当たるであろう。」


 「ええ。僕に関わって、気を使ってくれた人……全て亡くなりました。」


 「おぬしが亡くなったなら、呪いは煙に返り、やがてこの祠に戻って来る。そしてまたお札に戻るのじゃ。」


 「僕が死ぬまで、ずっとこのままなんですか?」


 「おぬしは我のぼた餅を食べたであろう。お札はその為におぬしに煙となって取り込まれた。それはお札の呪いじゃ。」


 「あなたの呪いではないんですね?」


 「我には呪いは掛けられん。祠守ほこらもりは、ただぼた餅をそなえるだけの奉公ほうこう。それだけで祠は守られ、お札も守られる。そしてこの地も守られてきた。だが今は違う。……いずれこの地は祠ごと失われる。……あるいは、おぬしの命が失せた時、元に戻る。」


 「それなら、今僕が死ねば、元に戻る。」


 「いいや、もう遅い。それは無理じゃ。呪いを知ってから命を絶っても、お札は戻らん。元には戻れんのじゃ。」


 「それでは僕はこの先どうすれば元に戻れるんですか?教えてくださいっ。お願いします。」


 「小次郎と言ったな。切羽詰まってここへ来た様じゃの。……可哀想にの。……おぬし、ぼた餅を食べてしまった事をいているか?」


 「もちろんです。だから、だから自分の周りに起こった事が何なのか。それを知りたくてここに来たんです。一体どうすればいいんですか。」


 「我と同じ祠守は日本中にる。守師もりしとも言っている。守師の中でも、我と同じく、ぼた餅を供える祠守を中心に探す事じゃ。おぬしの呪いの煙を知る祠守に会えば、身体の煙を吸い出し、お札に戻してくれる。戻されたお札を、ここの祠に戻す事で呪いは解けるだろう。」


 「に、日本中に……。」

小次郎はガクッと膝をついた。


 「如何いかにも。それは容易では無いな。分かるだろう。そう簡単ではおぬしの試練にならん。お札の呪いはおぬしの責任。たとえ知らずにお供物くもつのぼた餅を食べたとて許されぬ。だから試練なのじゃ。」


 その女性は、祠に身を寄せると話を続けた。

「ぼた餅を供える祠守に伝えなさい。……呪いの煙をお札に戻したいと。」


 「お札に戻したいと話してどうなるんですか?」


 「どうなるかは知らん。身体から煙が出て、お札に変わるまで、ぼた餅の祠守に会う事じゃな。会ってお供えする前のぼた餅を分けてもらう事じゃ。必ずお供え前のじゃぞ。他の守師のぼた餅でも構わんが、まずお札は戻らんじゃろう。お札のしゅが違うからのう。今のおぬしの中の呪いの強さによっては、何人もの祠守に会わねばならん。我にはおぬしの呪いの強さは分からん。とにかく出掛けなさい。そうしなければ呪いは解けん。……もう一度言う。ぼた餅の祠守に、お供え前のぼた餅を頂く事。我はここでおぬしを待とう。小次郎、達者でな。」


 「分かりました。旅をして、ぼた餅を頂いて回り、必ずお札をここへ戻します。」




第六話


 (ぼた餅をお供えしている祠守を探せ……か。お供え前のぼた餅を分けてもらえばお札が戻る……。どこの誰が祠守なのか、探すのに苦労しそうだが……よし、とにかくチャリで出掛けよう!)


 都合の良い事に、小次郎の自転車はスポーツタイプ。通勤で酷使する為と、スポーツタイプが好みだった事で、チューブレスの細めのタイヤの自転車だ。

 

 タイヤがパンクして足止めを食らう事もない。サイクリング用のバッグも有る。


 小次郎は有り金全てとキャッシュカード、寝袋に、数着の着替え上下に肌着。折り畳み傘と普通の傘。買い置きしていたスナック菓子全部。洗濯洗剤の残り。


 自転車のバッグとリュックに荷物を詰めて準備を整えた。


 スマホで近場から検索している小次郎。


 (さすがにマップを調べても、祠なんて記されてる訳ないか……。古い寺社仏閣か?それとも古い歴史の有る町や村か。古くから残っている建物の周りだったり?……先ずどこに向かうか。本州の北の方から行こうか。その途中で見つかったりするかもだし。)


 小次郎はアパートを出ると北の方角へ自転車を走らせた。


 お寺や神社の近くでは、祠を探しながら進んだ。


 お地蔵さんの収まっている祠は多いが、お札がまつられた祠が無い。

 お供え物を置いてある祠も無かった。


 (これは探し当てるのにどれだけの時間が掛かるか分からないなぁ……。)



 福島県に入り、古いお寺に立ち寄った。

 お清め水が湧き出している岩で、水筒に水を入れている時、住職と話す機会が出来た。


 小次郎は、その住職に古くから有る祠が近くに有るか尋ねると、住職は1ヶ所教えてくれた。


 そこは、塔のへつりと言う場所で、奇岩の中に、虚空蔵菩薩こくうぞうぼさつが祀られていると言った。お札では無かったが、由緒ある場所で、決まった人物がお供物を収めに、吊り橋を渡るらしい。


 後で調べると、へつりとは、断崖絶壁を指す言葉らしかった。

 週に1度、お供物を収めに来る人がいるらしいから、聞いてみたらどうかと住職から勧められた。


 少し距離は有るが、何か得られればと考え、小次郎は塔のへつりへ渡る吊り橋を目指した。






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