ぼた餅の祠守(ほこらもり)
ほしのみらい
第零話〜第三話
第零話
南沢小次郎、小学校の頃の下校途中の道端。
「おーい南沢―。何してんだよ!先に帰るからなー。」
同級生の下山君が大声で呼んでいたが、小次郎の返事が無いので帰ってしまった。
その時の小次郎は、道の隅にある*
『*=祠とは、神を
その祠は、地域の
お
祀られたお札は、まるで小次郎を手招きしているように見えた。
それに気付いた小次郎は、祠に吸い寄せられる様にして、更に近付いた。
つい、お
その時だった。
祠に祀られていたお札が
小次郎は、その煙に気付かず、すっかりぼた餅を平らげると、直ぐに気絶し、日暮れまで気が付かなかった。
それ以来、その祠のお札は、それっきり見かけなくなってしまったという……。
第一話
南沢小次郎は、茨城県水戸市にある、県立慶葉大学に在学。4年生に成長している。
僕があの事について、気が付いたのは、ごくごく最近の事だ。
それは大学の帰り道によく
帰りにこのコースで帰るつもりの時は、野良猫達の為に、ビスケットを幾つか持って来ていた。相手は野良だし、会えない事も有ったが、今日は上手く対面出来た。
野良猫は、何故か会う度に違う猫の様だった。
今日も路地の隅で、持ってきたビスケットをあげていると、近所の人らしき女性が声を掛けてきた。
「お兄さん、今あげてるのは、まさか毒入りの餌じゃないわよね?」
僕は、思いもしない事を言われて、眉間にシワを寄せてその女性に答えた。
「見ての通り、お菓子の封を切ってそのままあげてますが、何か有ったんですか?」
「この路地の周りで、最近何匹もの野良猫が倒れているのよ。誰かが毒入りの餌を与えたりしたんじゃないかって、保健所の人が言ってたから。」
「そんな事があったんですね。可哀想に……。僕が疑われるのも嫌ですから、野良猫にビスケットあげるのは、今後控えます。すみませんでした。」
僕は立ち上がり、その女性に一礼してその場を去った。
実は、野良猫に餌をあげていたのは、大学帰りのコース以外に、自宅の最寄り駅から自転車で帰る途中の公園でも、時々野良猫に餌をあげていた。
大学帰りに野良猫に会わなかった時だけ、地元の公園のベンチに座って、野良猫にビスケットをあげていたのだった。
今日はまだ少し残っていたので、公園に立ち寄った。
ビスケットを開ける音に気が付いたのか、野良猫が寄ってきた。普通に細かく砕いて、
ここの野良猫も、何故かいつも違う猫の様だった。
すると、ここでも近所の人らしき女性が声を掛けてきた。
「最近、
今日、これで2回も同じ様な事で注意された。
僕が猫達に餌やりを始めたのは大学3年の頃だっただろうか……。成績不振と就活が上手くいかなかったので、気を紛らわす為に始めた。
もう1年近く餌やりをしていた。
猫達がビスケットを食べているのを見ていて、少なからず癒されていたのだった。
その2ヶ所で、野良猫達が多く死んでいると聞くと、心が傷んだ。
僕は公園を出て家に向かった。
実は今日以外にも、あれだと思わせる事が何度も有ったのである。
それは野良猫に餌やりを始める随分前の話、僕が20歳を迎える前の事。バイト先での事だった。
新人で入ってから、直ぐに気が合って仲良くなった2人のバイト仲間。歳は上だがバイトに入ったのは同じ頃。
仕事に慣れてきて、その2人に気を使う事も無く過ごせる様になった頃。突然起こった2人の死。
前日まで一緒にバイトでバカな事を話しながら気楽に仕事に従事していたのに……。
1人は自宅の浴槽に沈んで溺死。もう1人は、家でつまずき、椅子に胸を強打、その衝撃で心停止。帰らぬ人となった。
あまりにも身近で起こった急な事で、それからはバイトが手に付かず、僕はまもなくそこを辞めた。
それから、1ヶ月位経っただろうか。駅前の、いつも自転車を置く駐輪場で顔を合わせる駐輪場管理の人。
今まで話など無かったにも関わらず、今日の人に限って声を掛けてきた。いつもと違う人だ。
僕は大学に電車で行く為、この駐輪場には通学当初から来てるのを話した。その人は、前の人が辞めたから、他の場所から移ってきたのだと話してくれた。
僕とその人は、その日から顔を合わせる度、挨拶を交わす様になった。
その人の側に自転車を停めると、キチンと並べて置いてくれたりした。ちょっとした気遣いのつもりなのだろう。どの自転車もそうして並べている。
それから数日後、駐輪場管理の人が、また新しい人に変わった。
僕は気になり、新しい人に事情を伺うと、どうやら心筋梗塞で突然倒れたらしく、そのまま意識が戻らなかったそうだ。
第二話
過去を振り返ってみると、不審な事象が多々有った事が思い返される。あれのせいだろう。
今まで、自分が気が付いていないかというと嘘になる。
何となく自分のせいなのか?とか、僕がここに居なければ起こらなかった?とか、僕が手を貸さなければ何も起こらなかったのかも、とか……自分のあの疑問は、中学辺りから感じていた。
小学校の頃に、祠のぼた餅を食べてしまったことなど、とっくに忘れてしまっていた。ましてや、祠のお札が煙の様になり、自分に入ってきた事など全くもって忘れている。
だが、徐々に不審に思う事が重なって、自分の事なのではないかと感じ始めた。
中学高校と、ずっと考えていた。確かめもしたが、どう考えてもおかしい。自分の何かのせいで、何かが起こる……。
それは大学受験と共に忘れ去っていた。
……が僕は、再び思い出してしまった。
先の野良猫達の事が発端で……。
しかも祠のぼた餅の事までも思い出した。
僕が相手に何かすれば、必ず相手は突然他界する事が確認できている。それが確証に変わった瞬間だった。
自分には関わらない方がいい。
当然ながら、僕は人に関わらないよう努めた。
大学では、ネガティブな人間だとか、コミュニケーションの取れない人間だとか言われてきた。
(しょうがないじゃないか!関わりが強くなれば皆んな死ぬよ?理由はどうかは僕にも分からないんだ。でも間違いなくこの世からいなくなっちゃうんだよ。いいの?)
それは自分にとって辛いことだった。
友達とコミュニケーションを取りながら、楽しく過ごしたかった。20歳も過ぎて、酒飲んで騒ぎたかった。優しく誰かと触れ合いたかった。好きな人を作って一緒に過ごしたかった……。
でも全て避けて通る事に決めた。誰に何と言われようと。
第三話
ある時は、大学の同じ文学部で、友達になろうと声を掛けてくれた同級生がいたが、「僕には関わらない方がいいよ。ロクな事にならないから。」そう言って避けてしまった。
また大学の同じ学部の女子から、消極的なんだねと言われ、「何で消極的かって?それは知らない方がいいよ。知ったらどうなるか分からないよ?」と、脅し半分に答えたものだ。
また、大学内で知り合った女子に好意を持たれていた事があったが、その時にも、「頼むから僕に気を使わないでくれ!このままじゃ、君に迷惑が掛かる。」と一方的に避けて、その子から逃げた。
バイト先でよくしてくれた会社の社長さんにまでも
家に仕事を持ち帰ってパソコン処理をよくしていた。が、家のパソコンが古くなり、会社のスペックに追いつかなくなってしまったのだが、その会社の社長は新しいハイスペック機を買い与えてくれると言ってくれた。
仕事ぶりを評価してくれた結果なのだが、この時も丁重に断った
「お気遣いありがとうございます。ですが、これ以上はもう干渉しないで下さい。お願いします。」
「社長……。これ以上の待遇は自分の重荷になるだけなんです。このまま下っ端で働いていて十分です。」
会社の上司や社長さんには精一杯の断り方をした。大学を出たら就職を勧められたりもした。
変わり者だと思われていた様だった。
それでも、結果しばらくバイトしていたが、やがては辞めてしまった。
大学進学で実家を離れた時には、両親に話せるだけ話したつもりで家を出た。
「父さん、母さん。僕、ヤバいのが憑いてるのかも……。もう2人と離れて暮らそうと思ってる。住所は伝えるけど、仕送りとか要らないから。ホンっトに僕には関わらない方がいいんだよ。今までありがとう。ホントに分かってください。」
またある時は、公園でよく顔を合わせる子が居て、その子があまりに人懐っこくて、僕は自分を忘れて少しその子の遊びに付き合った事がある。
でも最終的には、「ごめんね。お兄ちゃんにはこれ以上仲良くならない方がいいよ。もちろん、あまり近付かない方がいい。……ほら、ママに怒られるから。早く行きな。」
理由は何にせよ、人との別れを切り出すのは辛い。でも今までに数え切れない程やってきた。
その中で自分は、変に思われたし変わり者だと
好意を抱いてくれた女子。実際付き合う事になった彼女……。全て別れを告げてきた。
自分の親にさえも同様の事をしている。親心で、最初は荷物を送ってくれたりした。でも、それも要らないからと言って送り返した。
物事を否定するより、相手の好意を断る事は、とても辛い事だ。
相手の意思を尊重しない。相手と同調しようとしない。協調しようと思わない。
自分の中だけで過ごしていかなければ……。
もう、いっそこのまま死んでしまった方が話は早いんだろう。
きっと周りの人間は、僕に対して死んでしまえと思っているに違いない。
さて、これからの僕は、今後どうしよう……。
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