第42話 男を見せろヴァーミリオン!

「ええとまずは自己紹介だな、俺はヴァーミリオン。こっちの魔法使いがマゼンタ、こちらがセイルだ」


「ヴァーム、流石さすがにそれは少しおざなり過ぎませんか!?」



 神官っぽい服を着た、セイルと呼ばれた男の人が、ヴァーミリオンと名乗る戦士の人に苦言をていした。

 青い髪色で女性的な顔立ちの人だ。

 声を聞かなければ男だと分からなかっただろう。

 マロニーさんが苦笑しながらフォローをしてくれた。



「洋児くんとブランなら、見た感じでだいたい判別できるな? 彼が神官のセイル・リアン。彼女がヴァーミリオン最愛の人、魔法使いマゼンタ・モーヴだ」


「い、いや違うってマロニーさん。最愛って……」



 片目のエルフの言葉に、慌ててヴァーミリオンさんが弁解し始める。

 マゼンタと紹介された魔法使いさんは、とんがり帽子を目深まぶかにかぶって真っ赤な顔を隠した。

 ニヤニヤと素敵スマイルを浮かべたマロニーさんは、ヴァーミリオンさんへツッコミ。



「ん? でもさっき、マゼンタを大事に守ってるって言ってたなかったか?」


「あ、あれは……。っていうか、それ聞いてから急にきしだしたなマロニーさん!?」


「人の恋路は応援しないといけないからな。馬に蹴られて死にたくないし。素直に認めて腹を決めなヴァーム」


「ちくしょおお! 今まで見た中で最高の笑顔で言いやがってええええ! ああもう分かったよ!」



 真っ赤な顔のヴァーミリオンさんは、ツカツカとマゼンタさんの前に移動した。

 上半身を前に倒して右手を彼女へ突き出す。

 そして上擦うわずった声ながらもはっきりと叫んだ。



「マァズ、お前が好きだ! 魔王を倒したら、お前と一緒に暮らしたい!」


「ば、馬鹿こんな人前で! ……ちょ、ちょっと待ってよヴァーム。せめて魔王を倒すまで考えさせ……」



 こちらも真っ赤な顔で帽子を目深にかぶりながら、マゼンタさんはそう返事をしかける。

 だけどすぐに顔を出すと彼女もヴァーミリオンさんへ手を出した。



「いえ、貴方がそこまで決意して断言してくれたのだから、こちらもちゃんと返事しないとね」



 と言いながらヴァーミリオンさんの差し出した手を握るマゼンタさん。

 顔を上げた戦士の目を見つめ返して続ける。



「魔王を倒してお互い無事に生きていたら……貴方の気持ちに応えさせてください」



 途端に再び巻き起こる、冷やかし混じりの周囲の歓声。

 良かった、マゼンタさんが「ごめんなさい」って返事しなくて。

 実は俺、内心ドキドキしていたんだよ、魔法使いさんが「私、実はセイルさんが……」って言うんじゃないかってさ。



「……あ~オホン。いまの2人の言葉は、王都のギルドマスターであるこの私が証人になろう」


「「あっ」」



 机に座っていた身なりの良いオッサンが咳払いしながら言った言葉に、ヴァーミリオンさんとマゼンタさんがハモりながら反応。

 その光景に片目のエルフも口に指を突っ込んで、甲高かんだかい口笛を鳴らしてはやし立てていた。


 マロニー! オッサン! めっちゃ満面の笑顔だな!

 すごく性格悪そうだけど!!







「それでは改めて。私は、このパレット王国の首都で国直営の冒険者ギルドのマスターをさせて頂いている、グレイという者です」



 さっきの騒ぎが収まって、俺たち全員が机の周りの椅子に腰かけた時に、身なりの良いオッサンがそう自己紹介した。

 グレイ……そんだけ?

 なんか結構な肩書きの割にはシンプルな名前というか。



「名前はグレイだけですかね? 国直営のギルドマスターなんだから、家名苗字や二つ名があっても良いと思うんだけど」



 俺の疑問を読み取ったかのようにマロニーさんがギルドマスターさんに質問。

 彼の方へ顔を向けると、向こうも俺を見ていた。

 どうやら本当にこちらの疑問を読み取って、代わりに質問してくれたみたいだ。



「グレイ……です。



 と、こちらも俺を見ながら返答してくれる。

 2人とも、若くて経験不足・理解不足のこちらを気遣ってくれているらしい。

 つまりグレイは表向きの名前。

 本当の身分と名前を隠している……隠さざるを得ない立場の人間って事か。


 こちらを見ながらやり取りしていたって事は、本当はわざわざ聞かなくても分かってる前提なんだろうな。

 悔しいけど経験不足は急には解消できない。

 それを補う知識もそんなに持って無い。


 そして気がつくと、机の周囲に座っているメンバー全員が俺の顔を見ている。

 くっそおお! 俺以外は皆、言わなくても分かっていたって事か!

 マロニーさんがニヤッと笑って俺へ話しかけてきた。



「と、言う事だ洋児くん。今のでギルドマスターの事はある程度分かってくれたかい?」


「……ええ、はい」



 理解は出来たが、少し不貞ふて腐れた反応になったのは大目に見て欲しい。

 あ、ヴァーミリオンさんとマゼンタさんが、手を繋いだまま机の上に置いている。

 くっそう! さっきのである意味、開き直ったなこの2人!



「さて、世間話もここまでだ。ちょっと情報を整理したい。俺は……こちらの洋児くんとブランもだが、この国の状況が分かってない事も多い」



 表情を引き締めたマロニーさんが机のメンバーを見回す。

 近くを通りがかった冒険者が、手を繋いだままのヴァーミリオンさんとマゼンタさんを見て「お熱い事で」とニヤつきながら呟く。

 陽に焼けた赤い髪の毛の戦士は「うるせえ、あっち行け」と小声で返した。



「まずは教えてくれ。『スキル』ってなんだ?」



 マロニーさんがそう言って瞬間、ギルドマスターと他3人のマロニーさんの仲間は唖然あぜんとした表情になった。

 信じられないといった態度を隠そうともせずに、ギルドマスターが片目のエルフに聞き返す。



「え……と……。からですか?」


「そうだ、からだ」



 肘を机に突きながら両手を組み、それで口元を隠すように少しうつむくマロニーさん。

 俺とブランさん以外の皆は一瞬、馬鹿にしたような憐れむような表情を浮かべた。

 でもそれもすぐに、マロニーさんの真剣な顔に真顔になる。


 しかしその彼の言葉に、俺も内心首を捻っていた。

 今まで特殊スキルチートを持った転移者や転生者なんて、何人も相手にしてきたじゃないか。

 なぜ今さらそんな基本的な事を聞こうとするんだろう。



「俺も、こちらの2人も、元いた場所では『スキル』なんてものは存在しなかった。この国が初めてなんだよ、『スキル』なんてものがあるのは」



 疑問を浮かべながら、質問を続ける片目のエルフを見つめる俺の方へ、視線だけを向けるマロニーさん。

 その顎がかすかに上下すると、「黙ってろ」と口の動きだけで言った。

 口元を隠した手で、その動きは他には見えない。



「そもそもスキル『勇者』ってなんなんだ?」



 ギルドマスターを含めたこの世界の人たち4人は、お互いに顔を合わせあった。

 やがて、おずおずとした様子でギルドマスターが口を開く。

 ものすごく困惑してるのが、こちらに痛いほど伝わってきた。



「分かりました、ご説明しましょう。しかしどこから話をしたら良いものか……」

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