第33話 結果にコミットする(?)企業ブラック
パキャッ!
手をかざしていた水晶玉が砕けた。
それを見た受付の女の人が、すごく驚いた表情を浮かべる。
そしてその光景を眺めていた冒険者ギルドのロビーにいたメンバー全員も。
「測定の水晶玉が砕けた!? な、何てこと……ちょ、ちょっとお待ちくださいね!」
受付の女の人は、慌てたように2階に登って行った。
ロビーにいた人間も、ヒソヒソと
その割には、周囲に聞こえる大きさの声で。
「お、おい見たかよ今の? あの水晶玉って砕けるものなのか!?」
「バカ、俺だって良く分からねえよ。ただひとつ言えるのは、普通の奴じゃねえって事だ」
受付でメンバー登録をしようとしてた少年は、戸惑って不安そうな表情を浮かべている。
良くも悪くも、いわゆる「俺、なんかやっちゃいました?」の表情。
ざわつくロビーの空気。
それを見ながら、俺は隣に立っているマロニーさんへ、少し興奮気味に話しかけた。
「マロニーさん見ました? あれって測定不能なぐらい潜在能力があるって事ですよね!? あんなラノベみたいな事が本当にあるなんて……」
「落ち着け洋児くん。黙ってもう少し様子を見るんだ」
俺たち2人が話してる間に受付の人が……与志丘さんが2階から降りて来た。
隣には、質素な見た目ながらも身分の高さを感じさせる服を着た、ギルドマスターっぽい人。
だけど俺たちは知っている。
この人はお飾りのダミーだって事を。
まだ若すぎる自分では、対外的に
何も知らない人からしたら、まさか受付やってる人が本当のギルドマスターだなんて想像だにしないだろう。
「貴方が新たに冒険者登録を希望されている方ですね。少しギルドマスターが内密にお話がありますので、2階へ来て頂けますか?」
与志丘さんが重々しく緊張した口調で話しかける。
結構ハマってきてるな。
とか思ってるうちに新規登録の人は、与志丘さんとギルマス役の人と一緒に上に登っていった。
「すげえ! めっちゃラノベみたいだ! ギルドを立ち上げたばかりであんな人材をゲット出来るなんて、
「ん、まぁ……な」
なんだか曖昧な返事が返ってきたので、隣のマロニーさんを見た。
そこにはこの片目エルフが時々見せる、ちょっと悪い笑顔。
あ、なんか嫌な予感。
しばらくしてから新人冒険者が、受付役をやっている与志丘さんと降りてくる。
ざわつくロビーを、肩で風を切るように歩く新人。
受付で与志丘さんから冒険者証を受け取ると、自信に
マロニーさんの顔をチラ見すると、口元をピクピクさせながら笑いを
「はーい皆さん、ご協力ありがとうございました! それでは協力費を支払いますのでこちらに一列に並んでくださいね〜!」
与志丘さんの声が
一体なにが始まったんだ?
協力費!?
「あの水晶玉は、誰がやっても砕けるように作ってある。あとは、周りの人達がそれっぽく驚いてみせれば良いだけさ」
「はい?」
「与志丘さんのアイディアだよ。洋児くんの言うラノベと、結果にコミットする例のエクササイズを参考に思い付いたそうだ。あれ、とにかく褒めちぎって自信をつけさせるらしいから」
「はぃい?」
「このギルドに登録している冒険者の決まり事だ。新人が登録する時には必ず水晶玉が砕けるから、それを見かけたら派手に驚いてくれ、まるで
「はいぃぃいい!?」
「で、派手に驚く演技をしてくれたお礼に、安酒一杯分ぐらいのお駄賃を渡しましょうって事だよ、あの行列は」
「詐欺じゃねえか!」
「最初の一歩ぐらい気分良くやってもらおうって事さ。どのみち誰しも、いつかどこかで壁にぶつかるものだしな」
あまりの事に、俺はマロニーさんの説明から現実逃避。
天井をぼんやりと見つめて独り言を
「はあぁぁあ……。そういえば最近その結果にコミットする会社の広告、あまり見なくなったなあ」
「あ、このカラクリは最初のクエストをやり終えた報酬支払い時に、ちゃんと本人に説明されるから。以後はそいつもサクラ要員だ」
「知らねーよ!」
こうして俺は、安多馬洋児は、またひとつ賢さが上がった。
それと同時に、世の中の仕組みと世知辛さを思い知ったのだった。
「他の街に支店ギルド作る時は、もっと安い材料で“判定道具”を作るべきかなぁ」
「もっと知らねーよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます