第20話 変身する時の掛け声はとっても大事

「とりあえずの問題は、魔族のタカ派なんです……あ、口調が。えーと、タカ派……なのだ」



 魔王の黒澄さんが、笛藤フェットチーネさんを見ながらそう切り出す。

 ここは例の辺境プラガットなんちゃら伯の屋敷。

 屋敷に入って早々マロニーさんが、貴族のオッサンや使用人にトイレの場所をやたら聞いてたけど。


 あまりにもしつこいんで、貴族のプラガットさんは使用人の一人に押しつけて放置してしまった。

 残った俺たちの、居心地の悪いことといったら……。

 俺や与志丘さんは頭を抱えて顔を下に向けっぱなしだった。

 


「ではそのタカ派の中心人物をなんとかしたら、王子を頭にえる事が出来る、と」



 そう貴族のプラガットさんが黒澄さんへ確認。

 言いながら王子様へ目を向けた。

 椅子に腰掛けた笛藤さん……フェットチーネさんの膝の上に座った例の無愛想な子供を。


 いや、無愛想さは無くなってるな、どちらかと言うと困惑気味だ。

 笛藤フェットチーネさんがしっかりと腕を回して抱きしめているからな。

 もう彼女、話を聞いている様子も無くニッコニコよ、ニッコニコ。


 そんな風に考えてる俺をよそに、黒澄さんとプラガットさんが話を続ける。



「その通りですね〜っとと話し方……。その通りだ」


「ではヤマザキ殿と一緒に魔族領へ向かってもらい、そのタカ派のトップを始末するのがこれからの行動指針になるか」



 そのプラガットさんが発した言葉の理解が追いつかなかった俺。

 思わず口から呟きがれる。



「始末って……」



 プラガットさんは握りこぶしに親指を立てると、黙って自分の首の前でそれを横に動かした。

 それって、つまり殺……。


 そこまで考えかけた俺は、あの森での死体……人間の「破片」を見た光景が脳裏によみがえった。

 思わずこみ上げる吐き気。


 与志丘さんが「どうしたの? 大丈夫?」と声をかけてくる。

 俺は口元を押さえて吐き気をこらえるので精一杯。

 とても彼女に返事をする余裕が無かった。



「どうした洋児くん。気分が悪いならトイレ行くか? 今なら俺が案内できるぞ」



 遠くから声が掛けられる。

 頭を上げて俺がそちらへ顔を向けると、この部屋の入口にマロニーさんが立っていた。

 口元は笑っているが、目は真剣そのもので俺を見ている。



「だ……大丈夫です」


「そうか」



 こちらに歩いて近づいたマロニーさんは、俺の肩を軽く叩くととなりの椅子に腰掛けた。

 顔はプラガットさんに向け、視線はこちらに固定したまま発言する。



「すまんね。彼はつい最近はじめて死体を見たばかりで、殺すとか死ぬって言葉に過敏かびんになってるんだ」



 そう前置きした後、マロニーさんは黒澄さんへと質問を向けた。



「黒澄ニチカさん……と言ってたかな、そういうキミはどうなんだい。他人の命を奪う事に抵抗感は無いの?」


「無いです。いえ、あんな外道を生かしていてはいけないと思います」



 即答する黒澄さん。

 何かを魔族の側で見てきたみたいな口ぶりだ。

 彼女は無意識に、両手の拳をギュッと握りしめている。



「ふむ、何やら一筋縄ひとすじなわではいかない相手のようだけど、黒澄ニチカさんのチートでなんとかならなかったのかな。召喚勇者なんだろ?」


「ニチカで良いですよう、マロニーさん。……って、チート!? あ、そ、そうか異世界に呼ばれたならチート貰えるのは定番じゃない!」



 そう叫ぶと、あわてて空中に指を走らせる黒澄さん……じゃないニチカさん。

 俺も解析チートを呼び出して確認した。



「あった! 『変身:可愛い癒し(初代)』だって。うわ〜実は日曜朝の女の子向け変身バトルアニメ、憧れてたんだぁ〜! でも(初代)ってなんだろ?」



 俺の目にもウィンドウが現れて、黒澄ニチカさんのチートの詳細が表示される。

 一方の矢間崎くんは、指を動かしながら首を傾げている。

 どうやら向こうの解析チートには表示されないみたいだ。



変身:可愛い癒し(初代)……信頼するパートナーを確保した状態で実行可能。「月の水晶の力でメイクアップ!」の掛け声で発動する。身体能力が爆発的に上昇し、必殺技も使用可能となる。



「でも黒澄さん……ニチカさん大丈夫? そのチート、パートナーが必要みたいだけど」



 俺はその黒澄……ニチカさんのチート解析結果を読みながらたずねる。

 ニチカさんは隣に立っていた、蝙蝠こうもりの羽根が生えた女性に抱きつきながら即答。

 なんかSM女王様みたいな格好だけど、ニチカさんを見る目は凄く優し気だ。



勿論もちろんよ! 私のパートナーはこの小梅姉さん! 改めてよろしくね!」


「フフッ、了解よニチカちゃん。後で詳しく教えてね」


「とりあえず変身の掛け声は『月の水晶の力でメイクアップ!』だからね」


「なんで日本語と英語の混成? 全部を英語で言えば良いのに。『ムーンクリスタルパワー……』」


「止めろ!!」



 マロニーさんが青ざめて叫び、矢間崎くんが慌てて小梅と呼ばれた女性の口をふさぐ。

 うわ、笛藤さんまで腰を浮かせて動きかけてたよ。



「何でか知らんが、それ以上言わせたら駄目な気がする!」



 必死の形相ぎょうそうで叫ぶマロニーさん。

 何をそんなにあせっているんだこの人たち。

 魔王のニチカさんも首をかしげている。

 まぁ博識はくしきっぽい矢間崎くんも慌てているから、何かあるんだろうけど。


 そんな時、屋敷のすぐ外で落雷が起こる。

 同時に凄まじい地響きが起こった。

 揺れが治まると同時に、その屋敷の外から怒鳴り声。



「出てこい黒澄ニチカ! この俺様とどちらが魔王に相応しいか勝負だ!!」

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