第11話 ある魔王を倒した勇者のお話
「勇者よ、いや
思えば最初から仕組まれていた事なのだろう。
僕はあっという間に王城の衛兵に取り囲まれていた。
周囲の兵をざっと見渡した後、僕は王様の顔を
「王様、魔王を倒せば元の世界に帰してくれる約束は?」
「帰す方法など初めから知らぬ」
「魔王討伐のために別世界の無関係の僕を召喚しておいて、そんな勝手な……!」
「魔王が消えたのなら、使わない
「僕が魔王を倒したんだ!」
「証拠は無いのう」
何で王様が断捨離って言葉を知ってるんだよって思ったけど、それどころじゃない。
そうかこの世界は、まだ王様が絶対の専制君主国家ばかりの文化だった。
王様が白と言えば、黒いカラスも白くなるのが当たり前の世界。
正直、こいつらを皆殺しにして逃げる事もできるけど、それはやれない。
そんな事をしたなら、今度は僕が魔王と同じ存在になってしまうからだ。
出来るだけ道行く一般人に、憎悪の視線を向けられる暮らしは避けたい。
たとえ僕がチートと呼ばれる能力を持っているとしても。
「牢に閉じこめろ」
王を睨みつけながら、僕は黙って連行された。
*****
甘かった。
僕は自分の世間知らずさを……いやこの世界を、専制君主制社会の恐ろしさを分かっていなかった。
勇者だなんだと、おだてられ続けて分かる機会も無かったけど。
罪を確定させるために取り調べがあると聞かされて、つい日本の感覚で裁判で無実を訴えようなんて安心してしまった。
王様が僕を
僕が連れてこられたのは王様の前。
そこへ次から次へと「証人」が現れる。
僕が見たことも聞いたこともない人間が、全くやった覚えのない罪状で僕を訴えた。
その「証人」達の言葉を聞くたびに、ワザとらしく悲し気に首を振る王様。
僕は当然彼らのデタラメな「証言」を否定するが、誰一人として耳を傾けない。
当然だ、みんなグルなのだから。
ワザとらしくため息をついて「まさか勇者と呼ばれた男がこれほど下劣な人間とは思わなかった」と吐き捨てる王様。
そしておもむろに僕に死罪を告げた。
この時点でこいつ等を皆殺しにしたほうが良かったのかもしれない。
だけどその先の事を考えきれていなかったので、歯を食いしばって牢へと戻った。
この国を乗っ取るにしても逃亡するにしても、今の僕には味方がいない。
魔王を倒した仲間はこの国の人間……王様の手下だからだ。
いざとなったら、どちらに付くかは明白。
というか、すでに「証人」の中に仲間がいた。
くそっ、彼らの勝手な都合で呼び出されたのに、あんまりだ。
でも僕がチートを持っているからといっても、この世界で一人で生きるにはやはり
だけど処刑までには、さすがに少し日にちがある。
僕は焦る気持ちを抑えながら、思考をぐるぐると巡らせていた。
そんなある夜、牢屋で眠る僕の夢の中に神様を名乗るやつが現れた。
男か女か判然としない。
そいつは夢の中で僕に告げた。
『どうだ勇者よ、魔王の言葉通りだったであろう。人間など、この世界など滅ぼすのが得策ではないか?』
誰だ、と返そうとしたが声が出ない。
そのおかげで夢の中なのだと理解した。
しかし向こうは僕の思考を読み取ったように返事をしてきた。
『そう、我は眠るお前の意識に呼びかけている。声を出さずとも良い、思考するだけで我に伝わる』
夢の中のそいつは、得意げに僕に話しかけてくる。
男が女かハッキリしないのに、何故か腕組みしてニタニタ笑っているのが伝わってきた。
正直、到底信頼できそうには感じられない。
『我はこの世界の神をも超えた存在とでもいうべき者。そうだな、お前にも分かりやすく、超越神とでも名乗るか』
神をも超えた存在、超越神を自称する奴が僕に
しかし分かりやすいけどダサいな、超越神って。
『思考するだけで我に伝わると言っておろう。我にダサいとは良い度胸だ。だが我は寛大だ、人間如き
何が寛大だよ、めっちゃ気にしてるじゃん。
だけどさすがに今回は反応せずに話を続ける超越神。
『我の下僕となれ、矢間崎ヒビキ。我と共に人間を滅ぼしてやろうではないか。新たなチートも付けてやるぞ』
断る。
即答の思考。
そりゃ王様とその周囲の人間は超腹立つけど、それ以外の人間には恨みも何も無いからなあ。
僕が魔王になって魔族をまとめて人間を滅ぼすって事なんだろうけど、魔族だって大概どうしようもない連中だ。
弱肉強食で力こそ正義で弱い奴は死ね。
誰が弱いかは俺の気分次第。
うん、ただの
まぁそういう訳なんで超越神さんとやら、お呼びでないから帰っていいよ。
『貴様……後悔するぞ』
その時、夢の中ではなく寝ている僕の耳元でデカい声がした。
このうさん臭くてなんかムカつく超越神とやらに言い返そうとしたところだったので、少し腹が立つ。
「ストーーーップ! はい、その契約待っ……ありゃ、もう断ってたのか。さすがは矢間崎くん」
以前に聞いた声だ。
どこだったっけ。
寝ぼけ
そして僕の身体の周りを取り巻いていただろう超越神の気配。
舌打ちのような感情がそこから伝わると、奴の気配は消えた。
僕は牢屋の前に立つ人影の正体に思い当たると、不機嫌な声で人影に声を掛けた。
「なんで貴方がここに居るんですか、マロニーさん」
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