第10話 タダほど高いモノはない

「今のでさっきの此方こちらの要求は呑んでもらうからな」



 ありや、マロニーさんさっきのは優しさではなくて、交渉条件だったのね。

 でも女神様は当然不満をぶつけてきた。



「ええー!? 要求と〜対価が〜全然〜見合って〜ないんですけど〜!」


「さっきやってたゲームの『パズルアンド竜の群れ』で、以前フレンド招待特別報酬キャラが欲しいからって俺にアカウント作らせてフレンド登録までさせたよな?」



 や、やっぱりマロニーさん優しくて付き合い良いよな?

 『パズ竜』……懐かしいなあ、俺が小学校の時にやってたっけ。



「うう〜、それとこれとは〜……。この子たちを〜異世界から〜帰す時に〜午後8時までに〜なるように〜時間の流れを〜調整して〜ズラすなんて〜すごい〜労力〜なんですよ〜!?」


「別のイベントで新規フレンド招待特別報酬ウルトラレア装備が欲しいからって、ブランにもアカウント作らせたよな?」


「うう〜……その節は〜……お世話に〜……なりました〜……」



 この女神様、結構なヘビーユーザーだな!

 友達招待とか普通できねーよ!

 他のクラスメイトは先に始めてる連中ばかりだったからな。

 だけど俺は新しく出てきた名前に反応した。



「マロニーさん、ブランって?」


「俺が面倒見てるエルフの女の子」


「へ、へぇ、なるほど? モテモテですねうらやましい」


「彼女はその手の興味の範囲外だ。妹みたいなモンだよ。……さて」



 そう言って少し強引に話を女神ポンコツ様に戻すマロニーさん。

 今さっきのフレンド招待の件で、すっかり狼狽うろたえているポンコツ様。

 うむ、『タダほど高いモノはない』をここまで分かりやすく体現してる人(神様)も、そうは居ないだろうな。



「彼等が日常生活をつつがなく送ってもらうため、夜八時から朝五時までの間および学校ですごす時間の呼び出し厳禁。そして向こうでトラブルが起こって帰還が遅れても、午後八時までには帰宅させる事。まだ学生だからな、彼等は」


「うう〜……。はぁい……」



 その時、チイさんの声が聞こえた。

 マロニーさんが呼んでないのに声が聞こえるのは、やっぱりドラゴンだからだろうか?



主殿あるじどの、話は終わったかえ?」


「チイか? そういえばポンコツに何か報告するって言ってたな、よし出ろカーネイハ・チイ」



 地面に光る円が現れると、その中にはさっきの着物姿のチイさん。

 光が消えると彼女は、女神ポンコツ様に頭を下げた。

 女神様はその姿を見て喜びの叫び声。



「あら〜! カネハっちゃんじゃ〜ないの〜! 無事に〜契約〜できた〜みたい〜ね〜」


「カネハ……できればチイと呼んで頂けるとありがたいのだが、女神ポンコツ殿」


「チイちゃんね〜、了解よ〜カネハっちゃ〜ん」


「いや、だから……」



 女神様、さっきのオロオロぶりが嘘みたいに大はしゃぎだ。

 だけどここでサラっと爆弾発言をポンコツ様はカマしてくれた。



「あ〜思い出すなぁ〜最初に〜死んだ〜チイちゃんが〜私の所へ〜転生に〜来た時を〜」


「トラックにかれて死んだ前世のわらわを転生させてくださり、その節はお世話になり申した」


「チイ、おまえ転生者だったのか!?」



 驚くマロニーさん。

 いや、俺たち全員もだけど。

 そんな俺たちの様子に、ドヤ顔で胸を張るチイさん。



「さよう、妾も元は日本人であった。縁あってこの女神ゲレゲレ・トンヌラ・ド・ポンコーツ3.5世DXデラックス殿と出会い、リル・ネムレスへ転生させていただいたのじゃ」



 女神様のフルネーム、やっぱり強烈すぎて頭に入ってこない件。

 だけどそっかあ、ドラゴンに転生する事もあるんだ。

 スライムとか蜘蛛は聞いた事あるけど。


 すると突然チイさんは態度を変えた。

 具体的には両手の指をワキワキと動かし、頬も赤く火照ほてらせ息もハァハァ荒くして。



「女神ポンコツ殿、この主殿は良いぞ! わらわ以外の契約した魔物に、クラーケンも居るのじゃ。エロ触手プレイをやり放題じゃ!!」



 ゴッチン!


 鈍い音が聞こえるとチイさんが頭を押さえてうずくまった。

 マロニーさんが呼び出した紅乙女で殴ったからだ。

 向きから見て峰打ちだな。



「お前は契約して早々、何を言い出すんだチイ! クラーケンのキリーちゃんが真っ赤に恥ずかしがって、必死に『ボクそんな事しないよ』って抗議してるだろ!!」



 確かに、マロニーさんの左手から少しだけ伸びた触手が、あわてたようにブンブン振られている。

 ちょっと可愛い。

 チイさんは涙目でマロニーさんを見上げた。



「ちょっとしたブラジリアンジョークではないか、主殿! もう、タコの触手と言えば葛飾北斎も認めるエロイメージであろうに……。あ痛たたた」


「キリーちゃんはまだ純真じゅんしん無垢むくな男の子クラーケンだ、変な事を吹き込むな! あとブラジルにそんなジョークは無い!!」



 な、なんかマロニーさん大変だな。

 右手の刀の紅乙女も、面倒臭そうにマロニーさんに提案した。

 


「ご主人様、もうコイツ斬っちゃいます?」


「良い考えだ」


「すみません調子に乗って申し訳ありませんでした。許してください紅乙女先輩殿、主殿」



 それはそれは見事なジャンピング土下座をかまして謝罪したチイさん。

 さっきマロニーさんと契約した時の気高けだかさなんて、毛ほども感じない。

 ミコトさん与志丘さんが冷たい目で呟いた。

 声を揃えて。



「「……最低」」



*****



「うう〜、時間の〜件は〜了解しました〜。でも〜せめて〜この〜私の〜依頼と〜引き換えに〜して〜く〜だ〜さ〜い〜」


「依頼するなら正規の手順で……と言いたいがこんな状況だ、今回は特別だぞ。受けるかどうかは内容しだいだが」



 しぶとくなおも食い下がる女神ポンコツ様。

 あくまで強気のマロニーさん。

 そんなマロニーさんの態度に不満気ながらも、依頼内容を話しはじめる女神ポンコツ様。



「実は〜例の〜矢間崎くんが〜国王に〜幽閉〜されちゃった〜んですぅ〜。それで〜闇堕ち〜する前に〜助けて〜もらえないかと〜」


矢間崎くんが!? くそ、ウチの依頼だったら国を滅ぼしてるところだぜ……!」



 おろ? マロニーさんの知り合い?

 ていうか発言がさっき言ってた魔王そのものなんですけど!?

 思わず俺はツッコんでいた。



「マロニーさんその言い方、めっちゃ魔王のセリフじゃないですか!」


「正当な言い分だ。『神の怒りに触れた』ってヤツだよ」


「なんかヤクザの論理ぃ!」


「こういう事態も結構多いんだよ。もこの会社を立ち上げた大きな理由だ」



 あ、ミコトさんマサルくんに与志丘さんまで頷いてる。

 そ、そうかミコトさんマサルくんも味方に裏切られたんだもんな。

 与志丘さんも心当たりがあるのか。



「苦しんでる他人のために頑張ったヤツが酷い目に遭うなんて、間違ってるだろ」



 マロニーさんが腹にえかねたように呟いた。

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