第9話 ポンコツ様が本当にポンコツだった話

「そりゃ〜多少の〜時間操作は〜出来ますよ〜。でも〜与志丘さんだけでも〜大変なのに〜三人も〜、今の〜私には〜限界ですぅ〜」


「知るか、やれ。お前自身の問題でもあるだろ」


「ひ〜ど〜い〜! 女の子を〜酷使なんて〜最低ですぅ〜」


「都合良くオッサン、ジジババに変身する奴に言われても知らん」



 相変わらず間延びした話し方で、聞き取るのが大変な女神様のセリフ。

 おかげでマロニーさんの言葉がとっても聞きやすい。



「洋児さん、あちらの……マロニーさん? が、急に標準語になったのは……」



 ミコトさんが俺にそう聞いてくる。

 だけど先に与志丘さんが答えた。



「ここの会話はテレパシーみたいなものよ。だから標準語に感じるの」


「すごいですね」


「あとマロニーさんは関西しか知らないから、関西弁が標準だと思ってるの」


「や、ややこしいですね」


「以前、関東の番組を動画サイトで見せて勉強させたら、無理に『◯◯……じゃん? ダヨネー』とか妙に腹の立つ言い方になって諦めたわ」


「納得です」



 納得していいんだろうか。

 とか思ってる間に勇者やってたマサルくんが女神ポンコツ様とマロニーさんに質問していた。



「あの、マロニーさんでしたっけ。女神様の問題とはどういう意味なんでしょうか?」



 そうだ聞きそびれてたけど、それも訊ねたかったんだ。

 勇者くんナイス!



「あ〜それは〜……」


「黙れポンコツ。お前の説明は分かりにくいんだよ」


「うう〜、分かりましたぁ〜」



 マロニーさんすごい堂々としてるなあ。

 さっきまで笛藤さんにめられていたのに。

 マロニーさんはこちらを向くと、腰に手を当てて胸を張った。



「君たちはここ最近、異世界へ行く人間が増えてるのは気付いているな?」



 与志丘さん以外の新参者の俺たち三人は、黙ってうなずく。

 みんな異世界に召喚された人間だ。

 一人だけなら珍しい例外だと思えるかもしれないけど、ここに三人……いやたぶん与志丘さんもだから四人か。

 それだけこの場にそろえばマロニーさんの言葉も頷けるというものだ。



「正直な、君たちが思ってる以上に異世界への転移転生者ってのは激増してるんだ。基本モラルが上昇して、善人が増えたからだろうな」



 え? なんか意外。

 テレビのニュースや学校の先生からは、政府が無茶苦茶やってて若者の犯罪者が激増してるって話ばかり聞かされてるけど。



「完全無欠のユートピアなんて言うつもりも無いし、そうでないのは君たちが一番良く知ってるだろう。だけど転移転生する資格を持つ人間が増えてるのも事実なんだ」



 マロニーさんの説明に女神様が何度も口を挟もうとしているが、そのたびにマロニーさんに睨まれている。

 今度は女神様がさっきのマロニーさんみたいだ。



「……で、正直コイツ含めた神様連中は業務がパンクしかけたんだよ。神様にとって転移転生は、片手間にやる仕事だからな。そこでコイツ含めた一部の神様連中は一計を案じた」



 女神様の表情が不機嫌なものになった。

 いよいよ核心に入るみたいだ、分かりやすい。



「転移転生の手続きは誰が相手でも大して変わらない。ラノベと似たようなモンだ」



 そういやそうだ。

 トラックにかれて、女神様がここで死ぬはずじゃなかったのに申し訳ないとチートをくれて、異世界に送り出す。

 だいたいがこのパターンだしな。



「やる事が決まってるなら、機械で代行しちまえって考えたんだよ、コイツらは。そして実際に作った。転移転生機を」



 神様が機械を作った!?

 あ、でもこの女神様は携帯端末でマロニーさんの報酬振り込んでたな。



「有資格者にランダムにチートを与えて異世界の危険でない場所へ転移、あるいは適当な母親の元へと転生させる。だけどな、やっぱり出たんだよ、初期不良が」


「チートをランダムに? それはちょっとひどくないですか?」



 思わず俺は口を挟んでしまった。

 だけどマロニーさんはさとすように俺に言った。



「どんな能力だって結局は使い方しだい。そういうのは、むしろ君たちの方が知ってるんじゃないのか? 外れ能力の◯◯で世界最強とかな」


「いや、そうかもしれませんけど」


「それよりも問題は初期不良のほうだ。今はもう一個ずつになってるが、最初は複数の強力なチートを持ってしまう者が続出した。まぁそれはまだ良いんだ。不公平だが」



 マロニーさんは振り向いて、後ろの女神ポンコツ様をにらんだ。

 女神様は顔を横に向けて口笛を吹いている。

 それを見て、マロニーさんはため息をついて話を続けた。



「本当の問題は、資格を持たない奴も転移転生させた事だ。極悪人や凶悪犯罪者が大量にチート転生者になっちまった」



 ……え?

 最後の話がちょっと頭に入ってこない。

 だけどさっきのマロニーさんが倒した連中を思い出す。



「あの、もしかしてさっきの三人も……」


「ご名答。そしてそういう連中のやる事は一つ、世界を自分の玩具オモチャにしてメチャクチャにする事だ。そう、魔王になっちまうんだよ」



 ようやくマロニーさんが言っていた『女神様オマエのケツ拭き』『女神様オマエの問題』の意味が飲み込めてきた。

 という事は、マロニーさんのやっているのはつまり……。

 俺の考えを裏付けるようにマロニーさんは続ける。



「俺はもともと、そういった連中を狩る仕事をしていた。後ろのポンコツが悪党転生者を見つけてな。かなり減ったはずだが」



 後ろの女神ポンコツ様は、顔をしかめてブーイングしてる。

 うん、マロニーさんの態度がどう考えても正解な気がしてきた。

 マロニーさんが右目を指差し、義手を外した左手を上にあげる。



「ちなみに俺の弟も、その悪党転生者だった。この目と手は昔、弟にやられたものさ」


「もしかしてマロニーさんが僕たちの世界に来たのって……」


「たぶんその機械の動作不良に巻き込まれたんだろうな。俺は転移や転生できる善人じゃない」



 マロニーさんは初めて見せる、寂しそうな表情でそう笑った。

 でもたぶん「善人じゃない」ことはないと思う。

 ダーティーエルフらしいけど。

 そのマロニーさんの背後で電子音が聞こえる。



 て〜んてれれれ〜ん♪



 女神様がタブレットでゲームアプリを遊んでいた。

 マロニーさんがジト目で女神様を睨む。



「何やってんだ、お前」


「『パズ竜』ですぅ〜。マロニーさんの〜話が〜長いから〜待ちくたびれました〜。この期間限定ダンジョンを〜クリアしたら〜10連ガチャサービスチケットが〜貰えるんですぅ〜」



 マロニーさんがパァンとはたいて女神様のタブレットを叩き落とした。

 あ、額にめっちゃ青スジたってる。

 女神ポンコツ様が泣きながら落とされたタブレットにかじりつく。



「あ〜!! このダンジョン〜期限が今日までなのに〜! 最近仕事が忙しくて〜全然できなかったんですう〜。見逃してくださ〜〜〜い(泣)」



 涙どころか鼻水までたらして、女神ポンコツ様がマロニーさんに懇願。

 神様の威厳ってなんだっけ。

 マロニーさんは腕組みして思い切り渋い顔をしながら、しばらく沈黙してから言った。



「………………チッ、さっさとクリアしろ」



 あ、マロニーさん優しい。

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