第3話 女神は駄女神、駄目な神
「はい、そういう訳で〜これからあなたは〜『リル・ネムレス』に行って〜世界を救ってもらいま〜す」
「帰れ。いや帰せ、元の世界に。何が世界を救えだ」
何もない真っ白な空間。
俺の前方でマロニーのオッサンが誰かと話していた。
光り輝く女性の人影。
えーと、もしかしてあれは。
そしてもしかして
「何を言ってるんですか〜マロニーさんは〜。心臓発作でぇ死んでるんだから〜帰すも何もないですよ〜」
「またかよ! トラックぶつけたり通り魔に襲われて殺されたりの手間まで省くようになりやがって!」
地面から小さな円柱が突き出てきた。
マロニーのオッサンはそこに腰かける。
随分と手慣れた態度だ。
「あ〜、この空間でなーに勝手にしてるんですか〜! そもそもぉ、ここ、神様じゃないと〜空間操作できないんですよ〜!」
それを
なんかスローな話し方が凄いイラっとくる。
アニメだとあんまり気にならないのに、実際にやられると受け付けないのは何故だ。
しかしやっぱりここは神様の空間で、目の前にいるのは女神様か。
なんかトロい喋りしてるから、イマイチ実感が湧かないけど。
マロニーのオッサンも、間延びした口調に
「何回もお前に呼び出されとったら少しはやり方覚えるわ!」
「そんな事をされたらぁ〜、神様の
うーわー! めっちゃイライラする!
神様の空間にいるせいか、マロニーのオッサンが標準語になってるのが救いだ。
そのマロニーのオッサンも俺と同じくイライラしながら話を
「うるせえ! 威厳がどうこう言うならもっとしっかり話せ! そもそも世界を救うったって、元々はお前の不手際のケツ
不手際? この女神様の?
疑問が頭に浮かんだが、目の前の二人は当然俺をそっちのけで話を進める。
「あ〜! オトメの前で「ケツ」とか〜下品な言い方、や〜め〜て〜く〜だ〜さ〜い〜!」
「何が乙女だ! 最初に出てきた時はふんぞり返った中年男の姿だっただろうが!」
前言撤回、全然進んでない。
そうか、中年のオッサン姿でも出てくる事があるのか。
当然と言えば当然だが、意外な発見だ。
「神様は〜決まった姿が無いんだから〜いいでしょ〜」
「そのイラつく喋り方もやめろ!」
うん、そこはマロニーのオッサンに激しく同意する。
「そもそもなんだ? 『世界を救う』って、目的が
「も〜! なんでマロニーさんは〜そんな私の上司みたいな〜、イヤぁーな言いかたするんですかぁ〜!」
女神様にも上司がいるのか。
なんか世知辛いな。
この女神の性格だと上司の心労も酷いだろうし。
「うるせえ。だいたいコレも何度も言ってるけどな、俺に依頼するなら正規の手順を踏めよ!」
「なんでですか〜。あんなの面倒くさいじゃないですかぁ〜」
「決まった形式の儀式でないと呼び出しに応じない神のお前が言うなボケええェェ!!」
……随分と面倒くさい女神様のようだ。
これ、話長くなるかなぁ。
しかし秘書さんの言ってた「また」の意味がようやく分かったよ。
本当に何度も同じ事があったからなんだな。
「も〜。いちいち細かいなぁ〜マロニーさんは〜」
「儀式の細かい手順まで合致しないと呼び出しに応じないお前に言われたくないわ! 大事な事だから二回言いました!」
このオッサン、異世界のエルフのくせにネットスラングに詳しいな。
ゲームアプリに重課金とかしてるのかな?
「あ〜も〜。そんな事よりぃ、マロニーさんチートはぁ〜ど〜しますか〜?」
「アホか。その前に状況! 達成条件! そして報酬!」
「せっかちだなぁ〜マロニーさんは〜。えーとぉ、世界存続の為の人柱として呼ばれた〜日本人男女を〜、召喚した人たちがぁ〜その二人を〜生贄にしよーとしてますねぇ〜」
「世界存続の生贄? じゃあ『世界を救う』んだったら、むしろ手出ししない方が良いんじゃねえのか? 正直、胸糞悪いけどよ」
腕組みをして、顔をしかめながらそう言うマロニーのオッサン。
オッサンの合理的だけど外道な発言に俺は思わず声をあげた。
「いやなに言ってんだよオッサン!?」
「うお、君は洋児くん!? 何故ここに?」
心底驚いた顔で俺に振り返るオッサン。
ま、当然と言えば当然か。
とりあえずここに来る前の状況を伝える。
「なんか突然オッサ……マロニーさんが胸を押さえて死んで、その後に俺の胸にも痛みが走って目の前が真っ暗になった。気がついたらここに居た」
マロニーのオッサンは女神様へ振り向く。
女神様はわざとらしく顔をそむけて口笛を吹いていた。
「……おいポンコツ」
「あ……あははは。私の〜『死亡した人呼び寄せビーム』が〜彼にも〜当たっちゃったみたいですねえ〜」
「何がビームだ! お前が心臓発作で殺して無理矢理呼び寄せているだけだろうが!!」
「も〜、細かい事は〜いいじゃないですか〜」
「よくねえよ!」
いや本当、よくないんだけど来ちゃったからな。
どうしたもんかな、うーん。
「せっかくだから〜その男の子もぉ〜連れて行ったらどうですか〜? 勇者としてぇ召喚された〜素質ある子〜みたいだし〜」
「あ、それいいな。行く行く俺いく!」
「馬鹿なに言ってるんだ! 経験無いのに軽く考えてるんじゃねぇ!」
渋るマロニーのオッサン。
女神様は相変わらずスローな話し方で、オッサンに提案。
いいぞ女神様、もっと言ってくれ!
「危ないと思うなら〜マロニーさんが〜守ってあげたら〜どうですか〜?」
「アホか何を言ってるテメェ!?」
「それから〜、世界存続の為の生贄と言っても〜『自分たちだけに都合の良い』歪んだ世界のためですね〜。今回の首謀者以外の〜世界の一般の人は〜、みーんな彼らの〜犠牲者にして〜養分です〜」
ここでひと呼吸おいた後、女神様は少しドヤった顔で付け加えた。
「それに〜生贄の二人は〜若い学生で〜、二人とも両親から〜ずいぶん酷い扱いを〜受けていたみたいですね〜」
オッサンの態度があからさまに変わった。
さっきまでの依頼拒絶の雰囲気が綺麗さっぱり無くなったんだ。
女神様のドヤ顔といい、何かあるのか?
「……チッ、俺の過去を知ってて余計なこと言いやがって、このクソ駄女神が! それで報酬は!?」
「ちょっと〜時間が無いので〜、終わってから〜その件は話し合いましょ〜」
「くそっ、それもまたかよ! でも洋児くんは置いてくぞ!」
女神様は耳に手を当てて、聞き逃したジェスチャー。
あ、ワザとだなアレは。
でもいいぞ、今度こそ俺は異世界で冒険できるぜ!
女神様はそのまましれっとした顔でマロニーさんに告げた。
「あっ、転送魔法陣が起動しました〜。起動の音で〜ちょっとマロニーさんが〜なに言ってるのか〜聞こえませ〜ん。二人で〜なんとか〜頑張ってくださいね〜」
「あっコイツてめえ覚えてろよ、この駄目神がぁぁ!!」
エルフのオッサンと俺、二人の足元に魔法陣が現れる。
そこから発する光に俺たちは包まれ、視界が真っ白になった。
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