第2話
事実を言ってしまえばそれは確かに本当なのだが、前述したように俺は自分の恋人に対してそんな事実を口が裂けても告げたりはしないのである。
「あ、ホントーやで。そう言ってた。春休みにな。与那国島で」
尾花のバカたれが簡単にウタったので、それも台無しであるが。
「春休みには先輩たち二人とも、東京の学会に行っていたはずなのでは? なんで与那国島にいたんですか?」
ほとりからの更なる追及。
「ちょっと、二人ともいろいろ疲れててん。ほら、どんな馴染みの酒場でも、たまには河岸を変えたくなるときってあるやん? それと一緒や」
あれはそういう話だったっけ? なんかビミョーに違くない?
「とにかく。惣也先輩はあたしに内緒で男と旅行に行って、それはいいですけどその男と旅先で寝ていたと。そういうことでいいんですね?」
「いやそれは違う。寝てはいない。口でってだけ。それだけ。それで全部。全部だから」
「へー。『それだけ』。『それだけ』、ねえ。ボクが同じことを他人にしたとして、それでもそれを『それだけ』って言えるのかな、先輩は」
むしろ墓穴を掘ったようだった。騙るに落ちる、とはこういうのを言うのか。まあ、めちゃくちゃ勝手なことを言うようだが、同じ春休みにほとりが別の男とどこぞに泊まりに行っていて、そんでもってお口でご奉仕などもしていた、などと聞かされた日には俺は死ぬほど落ち込むことになるわけではある。勝手な男の理屈だというのは分かってはいるが。さて。俺はどうしようもないので、ここまで黙っている四人目に話を振ってみた。
「ミサキからは何かないのか? 恋人の不貞行為に対するあれこれとか」
「いや、だってあたしは、当時からちゃんと尾花先輩から一通りのことは説明されて、一通りのことを知ってますから」
「……そうか」
そういうプレイなんだろうか。俺には理解できない世界だ。
「とにかく、だな。ほとり—―」
とりあえずほとりの方に手を伸ばしたら、その手を思いっきり跳ねのけられた。
「触らないで」
ああああああああああ。もしかして、俺たちの関係、このまま破局までまっしぐら? と思ったのだが。
「ボクに触る前に。もっかい、白神先輩とやったことを、もっかいやってみせて。ボクの前で。そうでないと許しません」
よくわからないというか無茶苦茶な理屈だが、逆に言うとそれは、それをやってみせたら浮気的な何かを許してくれるということなのか?
「やるの? やらないの?」
「俺は別に、やって構わんで?」
「あたしも別に、好きにしてもらっていいけど。あ、あたしもここで見てますし」
なんか判断が俺に委ねられた。
「……じゃあ、尾花。頼む」
「あ、一番最初にやったことから、一回ずつ全部ですよ。つまり、まずは最初は、おててで一回です」
「……マジかよ」
本当にそうすることになった。
「まず、脱ぎなさい。いつまで浴衣なんか着ていられる立ち場のつもりでいるんですか?」
シビアな要求が来たので、俺はやむを得ずその場で全裸になった。
「ほな、いくで」
俺は衆人環視の場で、五歳の時からの刎頸の友であり、そして将来的には自分が勤めることになる会社の次期社長候補である人物から、手淫を受けることになった。またすぐイってしまった。
「ほら、ぐずぐずしないの。綺麗にしてあげて」
と、言うのはミサキ。口の中に含まれて、また大きくなる。もう一発発射。で、嚥下。
「実際にやったことはここまでだ。この二つだけだ。これで勘弁してくれるか? ほとり」
「そうしようかと思ってたけど、気が変わりました。そこで最後までやって。その男を犯して」
「は?」
「だって、ムカつくんだもん。それに、見ていて楽しいんだもん」
ほとりの目に宿っている光は紛れもなく、獣性の欲望だった。何度も見たことがあるから知っている。
「あー、準備ならしてあるさかい、別に構へんで。どうする? 俺、うつ伏せでいいか?」
「……ああ」
そこから先、具体的に行われた行為の詳細については少し割愛させてもらう。で、その後。
「はい、よくできました。じゃ、シャワー浴びてきて。それで、次はボクを満足させてね。一晩中付き合わせるから」
「待ってくれ。今出したのが三発目なんだが」
「だめです。許しません」
ちなみに、さすがに尾花とミサキの二人はもう部屋を出て行った。自分たちの部屋で、まあ俺たちと同じ、やるべきことをやるのだろうとは思うが。
「先輩。ボクの後ろでもしてみたい?」
「いや……それは別にいいかな……」
俺は正直なことを言う。
で、二日目以降は似たような無茶なことは起こらなかった。俺たちは夏を堪能して帰り、そして平穏な大学生活の中へと戻っていった。
小笠原で触らないで。 きょうじゅ @Fake_Proffesor
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