小笠原で触らないで。
きょうじゅ
第1話
夏であった。俺たちは夏していた。場所はどこかというと、東京都の最果て、小笠原諸島・父島である。さすがに八月は日差しがきつすぎるので外したが、大学が夏休みであることに変わりはなかった。メンバーは俺こと
え、後輩二人はともかく大学四年生が二人も揃って夏休みに、就職活動はどうしたって? 実は尾花のコネで、尾花の親父さんがやってる会社に入れてもらえることになっている。尾花自身は当然として、俺も。というわけで、やつと俺との付き合いは幼稚園から始まり、この調子だと会社を定年退職するまで続くことになるかもしれない。まさに刎頸の交わりというやつだ。鶏姦の交わりでもあったりなかったりするが、そのことはお互い忘れたことになっている。少なくとも与那国島の一件より後は、何も起きていない。お互い、お互いの恋人とちゃんと関係を続けている。向こうのことは知らないが、俺はもちろん、自分の彼女に向って「お前よりも幼馴染の男の方が口唇愛撫が上手かった」なんてことを口が裂けても言ったりはしない。
さて。話がそれまくったが、海である。父島は飛行場を作るのにも難儀するような小さな島だが、それでも美しいビーチがいくつもあって、シュノーケルに向いたところもあるし、もちろんダイビングだってできるし、俺たちは堪能しまくった。この島に一度来てしまうと帰るのはだいぶ先になるので、一泊や二泊ではないが、とにかく今日は宿だ。投宿だ。晩飯は島寿司なるものを食べた。ワサビの代わりに練りからしを用いた、珍しいタイプの寿司だ。本土ではまず見られないが、八丈島や小笠原の名物なのだという。
で。夜。
宿は今回はペンションで、もちろん二部屋取っていて、俺とほとりの部屋、そして尾花とミサキの部屋で、どっちの部屋もどでかいベッドが二つ並んでいるのでどっちか片方の部屋に四人で寝ることも何なら可能、という塩梅になっていた。
そして、結論を先に言ってしまうと、実際にそれに近いことをする事態になった。それがなぜそうなったのかということを説明すると長いのだが、まずは端的な事実を一つ述べよう。
飯を食って戻ってきて、なんとなく四人で俺とほとりが使う予定である方の部屋に集まっていたのだが、そのときほとりの口からこんな発言が飛び出したのである。
「ところでさ惣也先輩。これ、ミサキ先輩からきょう昼間、海で泳いでるときに聞かされたんですけど」
「なに? どうかした?」
「ボクよりも白神先輩の方が、お口でするのが上手だって白神先輩本人に言ったって、ホントーですか?」
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