34.君との恋の終わりは、もう見えない。


「怪我とかない?」


 僕は先に起き上がり、手を差し伸べる。


「大丈夫。えっと……とりあえず、助けてくれてありがとう」


 七里さんが僕の手を取って立ち上がった。


「……うん」


 ぎこちないやり取りだった。


 何か、話さなくてはいけない。そのことはわかっていたけれど、どう切り出せばいいのかがわからなかった。


 ――好きだよ。


 勢いでそんなことを言ってしまった。


 もちろんそれは嘘なんかじゃなく、僕の心からの本音なのだけれど。


 あと二十分ほどで日付が変わろうとしている。


 僕たちはどちらからともなく歩き出した。手はつながれたままで、七里さんの体温を感じる。


 再び、沈黙が漂う。


 隣から、鼻をすする音が聞こえた。


「七里さん?」


 七里さんは泣いていた。


「やっぱり、どこか痛い?」


「ううん。……違うの」


 溜めていた何かがあふれ出したような、そんな泣き方だった。さっき、事故に遭いかけた驚きが引き金になったのだろうか。


 初めて見る七里さんの泣き顔に、僕は困惑していた。


「私、橘田くんに嫌われちゃったのかと思って……。どうしようって思って……。ここ最近、ずっと不安だった」


「嫌ってなんかない!」


 思わず、大きな声が出てしまう。


 七里さんのことを嫌いになんか、絶対になっていない。これからも、ならない。


「さっきも言ったけど、僕は七里さんのことが、その、好きで……。むしろ、僕の方が嫌われてるんじゃないかって思って……」


 そこからは、つかえがとれたみたいに、するすると言葉が出てきた。


「それで、色々あって逃げちゃってたけど、すごく自分勝手だったって思ってる。本当にごめん」


「ふふ。また、ごめんって言った」


「だって……」


 どれだけ僕が勝手なことをしていたのか、どれだけ七里さんを不安にさせてしまったか。今になって、改めて思い知らされている。


「でもさ、ちゃんと来てくれたね」


「え?」


「橘田くんと連絡が取れなくなっちゃって、でも、あの場所で待ってたら会えるかもしれないって思った。星がすごく綺麗で、橘田くんと一緒に見たいなって思って、ずっと眺めてた。そしたら、橘田くんが本当に来てくれて、嬉しかった」


「七里さん……」


「これからも、ずっとそばにいてくれますか?」


 僕は、最愛の人とつながっている手をギュッと強く握って、言葉にして誓う。


「うん。もう二度と、勝手にいなくならない。これからは、ずっとそばにいるから――」


 君との恋の終わりは、もう見えない。

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