オリジンストーリー 真人

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■■年 開拓者新聞 特集インタビュー


――本日はインタビューを受けていただきましてありがとうございます。

近頃急速に発展する新島の開拓ですが、その最たる功労者として誰もが名が挙げる、リタ=エイロウ様(記載上敬称略)への独占インタビューを行わせていただきます。


リタ:

こちらこそ、このような機会を戴きましてありがとうございます。

そして、最大の功労者という点は訂正させていただきたい(苦笑)

私ではなく、アルコイリスが相応しいでしょう。なにせ、彼が居なければ私はここにはいませんからね。


――アルコイリス様と共に、共助ギルドを設立させられたとお聞きしました。今後の活動や展望などについて、お聞かせいただいても宜しいでしょうか。


リタ:

勿論です。共助ギルドは、新島の開拓を行う数多の探検家たちの為の組織です。

具体的には、危険度による推奨活動領域の勧告や、パーティやクランの斡旋、ひいては特に危険度の高い事象について、ギルド主導での作戦を展開する予定です。

死亡率の高い新島開拓をより安全に行うことが目的です。


――ありがとうございます。確かに、近頃は新規探検家の流入が進むとともに落命する人数も問題視されていましたね。今後はそのような/

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■■■年 イシュナ日報 インタビュー記事


――早速ですが先日のショッキングなニュースについて、お聞かせいただけますでしょうか。副ギルド長にして現人類最強とも謳われるリタ=エイロウ様が戦闘中に両目を喪失したと発表されましたね。


リタ:

あぁ………そうですね。少々情報に誤謬があるようですが……。

端的に言わせていただくなら、両眼りょうまなこが必要なくなったので――というよりは邪魔になったので、自分で抉りました。

これは再三皆様に伝えている事ですが、私の眼を奪えるほどの強力な魔物が発生した、などという訳ではないのでご安心ください。


――不勉強なもので大変申し訳ないのですが、私には目が必要なくなる状況が理解できません…もう少々説明していただいても宜しいでしょうか。


リタ:

えぇ、もちろんです(笑)

と言っても理解していただけるかは怪しいですが…なるべく簡単に申し上げますね。

この世界は無数の主観によって形成されています。

絶対の事象というものは存在しない――よく言われる例えではありますが、『誰も見ていない森で自然に倒れた木』は、音を発さないのです。

全ての事象が発生するには観測、即ち人の主観が必要である。ここまでは理解していただけましたか?


――なんとなくではありますが…


リタ:

なんとなくでも大丈夫です。簡単に言えば、私は主観を悪用する事で事象を観測する/しないを選択できるようにしたかったのです。

私自身が『誰も見ていない森で自然に倒れた木』になるように――例えば傷を受けたとしても、その『怪我』自体が観測されなければ、それは事象になり得ない。

実際はそう簡単にはいきませんが。第一歩、という事です。

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■■■年 パーニヴィエス会報 会見文字起こし


アルコイリス:

定例報告は以上となりますが、記者団の中に質問のある方はいらっしゃいますか?


――パーニヴィエス会報です。人類への敵対的な脅威、『魔将七星』が認定されましたね。ギルドとしての方針説明をお願いします。


リタ:

副ギルド長である私、リタ=エイロウより説明をいたします。

ギルドとしてはこれに対抗しうる人類側の組織として、『七英雄』制度を導入することといたしました。ギルドに所属する一定ランク以上の探検家の内、複合的な要因を鑑みて認定いたします。現在4名が内定しており、加え第1位として私が――


――(椅子を倒し立ち上がる音)そんなもので俺らの安全が守れるのかよ!こっちは高い金をギルドに払ってるんだから、未然に防ぐくらいはしてもらわなきゃ困る!

(椅子を壇上に投げつける音)


リタ:

(形容しがたい歪み)

主観時間15秒で34名——現実を引き戻します。

良かったですね、イゾムールさん。どうやら我々は、あなたが椅子を投げた事実を観測できなかったようです。中継でもされていたらこうはいきませんでしたよ。

質問がある様でしたら、手を挙げてくださいね?


――化け物が…!俺は降りる、あとは好きにやってくれ…!(逃げる様に退出)


リタ:

他に何か質問はございますか?

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■■■■年 ダレンツァイト海上要塞 観測者記録ログ


《真人》:

気分は如何ですか、カントのお嬢さん。落ち着きましたか?


レア・カント:

………えっと……はい…。使命は、分かっています。

この娘もきっと……。


《真人》:

カントの一族には助けられています。次代はついに人類の代表となりそうですね。

意識の底流、主観の行きつく先。神秘の寵愛を受けるに相応しい。


レア・カント:

……やっぱり、わからない…今日はその確認の為だけに、わざわざ…?

……人を守るって……そんなものの上に成り立っているんですか………


《真人》:

私はね、未来を観測しないことにしているんですよ。何故だかわかりますか?

簡単な話で、取りうる主観の数が多すぎる。主観時間が読めないんですよ。

あなたにもその片鱗をお見せしましょうか?


レア・カント:

な、何の話…ですか…?うっ…!?

 ―― 「分かりました…このまま続けます。きっとうまくいきます…きっと」

 ―― 「……もう少し考える時間をください。…それだけの時間はある、はず…」

 ―― 「…わからない!私は……どうしてもあなたを信用できません……」

…!?(不規則な呼吸音)


《真人》:

あぁ、また《恐慌》状態になってしまったようですね。

では、主観時間10分で1名——現実を引き戻しましょうか。


レア・カント:

いま、の、は…?


《真人》:

気分は如何ですか、カントのお嬢さん。落ち着きましたか?(巻き戻し)

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存在意義が挿げ替わっていることなど、分かっている。

私の人間性はきっと擦り切れていて、空っぽになってしまっているんだろう。

だが、仮にそうだとしても…私は進み続けなければいけない。

私の形をした空洞には、もはや何も満たされておらずとも。

始めたことには、終止符を打たなくては。


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■■■■年 パーニヴィエス環状島 アンハルトギルド支部 自動記録


リラ:

「……えっと、エイロウ…さん…?……よろしく、おねがい、します」


《真人》:

「……あぁ、ようやく…………」


リラ:

「……え、えっと……だ、だいじょうぶ…ですか…?」


《真人》:

「…失礼しました。少々呆けていたようで。よろしく、リラさん。今日から私たちと、人を守るために一緒に頑張りましょうね。」


リラ:

「……はい、人を…頑張って、守ります」

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IWATERNA RPG ストーリー @iwaterna

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