エルフ達との邂逅

 惑星開拓事業がたった一人で行える事業になったのは、様々な技術の恩恵を受けての結果だが、その中でも取り分け重要な技術があった。

 それは、機械知性体の誕生だ。

 量子脳や培養脳等の人工的な頭脳を持ち、自然の中から誕生し進化してきた様々な種族の演算能力を凌駕するスペックを叩き出す存在。

 この技術によって生み出された存在によって、ピオニア達知的生命種はたった一人で惑星開拓事業を行えているのだ。

 なので、正確に言えば一人ではない。

 国によっては、機械知性体の人権がない為に、一人として数えられていないだけで、彼等は一個の歴とした知性体である。


 高額な使用料を支払い購入した機械知性体のBPのインストール率が上がっていくデヴァイスの表示を眺めながら、どの様な設計で機械知性体を造り上げるのかを考える。

 まず、男性型は無しだ、女性型が望ましい。

 性格はこれからずっと一緒に生活することになるのだから優しいのが好いな。

 これから先、機能を拡張する事も視野に入れて冗長じょうちょう性も持たせて、頭脳ユニットも増設出来るようにハードの設計をしないといけない。


 ピオニアは、今後のパートナーとなる存在を想像する。

 その様はまるで理想の女性像を造り上げるかのような作業だった。

 機械知性体のBPがインストール完了すると、待っていましたとばかりに設定項目を入力していく。

 建てたばかりの本拠点中心に存在する、住居兼HQとなっている地下部分に、大規模な頭脳ユニットを増設し、それを頭脳としHQを肉体として彼女はこの世に誕生した。

 彼女の名前はネート・イディアール。

 名付け親は勿論ピオニアで、理想の優しさと言う意味合いの名前である。


「お早う御座いますマスター」

「お早うネート、此方で確認する限り問題はなさそうだが、君自身の判断はどうかな?」

「はい、マスター。セルフチェック実行、完了しました。

 現状全てのチェック項目はポジティブです」

「それは良かった。

 さて、早速だが仕事だ、今まで私が手動で行っていた、諸々のコントロールを引き継いでおこなってくれ。

 方針は今から渡す今までの行動データを参考にして判断をするように」

「畏まりました」

「また、定期的にデータの確認はするから、こっちに提出出来るデータの整理も怠らないように。

 じゃ、データを渡すから細かいところの摺り合わせをやっていこうか」


 二人は今後の方針を決定した後、更なる惑星開拓をする為の行動に移行する。

 ネートは現状の把握を行い、それまでのデータを元に拠点の大型化計画を立案。

 地上部分の拡大計画と、地下を掘削して出来た空間を利用する計画を打ち立てた。

 ピオニアは惑星開発ギルドとの折衝を行いながら、本格的な周辺地域探索の為の準備を進めていく。

 ネートが日々蓄積していく各種データを元に周辺の情勢を把握している中エルフ達は現れた。

 壁の外側で口を開けて、壁の威容を眺めるエルフ達を画面越し見るピオニアとネート。


「エルフ系種族か」

「ドローン等を使った遠距離からの観測では、この森の中で慎ましやかな生活を営んでいるようです。

 また、文化様式は氏族単位で部落を形成しています。

 森の外の勢力との交易の痕跡も見受けられ、明らかに異文化の道具を使用する様も確認出来ています」

「なる程、森の中で生活しているだけで、そこまで極端に閉鎖的な性格ではなさそうだね」

「はい、そうです。

 それで、どういたしますか?」

「そうだな…、まずは近い場所から直に観察した映像を見たいから、不可知化偵察機を投入しよう」

「解りました。

 現在ロールアウトした子は一人のみです」

「了解。

 他の子達も順次分化させておいてね」

「はい」


 機械知性体の分化。

 機械知性体の性格や経験を引き継いで誕生させる子供の様な存在。

 その生まれたばかりの機械知性体を搭載した、汎用人型不可知化偵察機が壁の向こうにいるエルフ達を追いかけて行く。

 これがピオニアがこの惑星で接触する初めての知性体との邂逅の一幕であった。

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