第29-3話 「ほんっとうにごめん‼︎」
どれだけ意気地なしの俺でもファミレスを立ち去ってしまったうるはを追いかけないなんて馬鹿なことはできるわけもなく、俺はうるはの後を追って席を立った。
うるはとの距離はそこまで離れておらず、男の俺が全力で追いかけるとすぐに追いつき俺はうるはの腕を掴んだ。
「おい、どこ行くんだよ」
そう問いかけると、うるははこちらに視線を向けず進行方向を向いたまま返答した。
「……やめてよ。追いかけないでよ」
その声は依然として震えている。
「そんなことできるわけないだろ」
「追いかけられたって辛いだけだよ。だから早く手を離して。そうしてくれればまた明日から直生くんに会った時は笑っておはよっていつも通りに声をかけるから。直生くんって笑って喋りかけるから」
そうは言っているが、今ここで手を離して明日うるはが普段通りに振る舞える確証なんてどこにもない。
こういう場合、普段通りが何よりも難しいのだから。
今ここで手を離してしまったら俺とうるはの関係が崩れ去ってしまうような気がして、もう元には戻れないような気がして俺がうるはの手を離すことはなかった。
「離さねぇよ」
「なんで……なんで綺麗に終わらせてくれないの? 私、自分なりに綺麗に終わらせられるようにって思って頑張ったのに……」
うるはが俺のことをどう思っていてくれたのかも、自分よりも俺の気持ちを優先してくれたことも、俺に迷惑をかけないように自分の中だけでその気持ちに終止符を打とうとしてくれていたことも、全て分かっている。
仮にうるはの気持ちに応えてやることができないとしても、その気持ちに対して返事をしないのはあまりにも無礼だ。
自分を好きになってくれた子に、自分の気持ちに向き合わせてくれた子に、応えることができないなんてどれだけ自分が最低なのかは考えるまでもない。
今の俺にできることは、うるはの気持ちにうるは自信ではなく俺が終止符を打ってやることだ。
「うるは」
「なに……?」
「ほんっとうにごめん‼︎ 俺はうるはの気持ちには答えられない‼︎」
「……へ?」
俺が自分の気持ちを伝えると、うるははキョトンとした顔で俺の方を見た。
「いや、あの、だから、要するにうるはとは付き合えないってこと」
「え、いや、そんなこと言われなくても分かってるよ?」
「俺の気持ちをうるはが理解してるってのは分かってる。それでも俺からちゃんと伝えないとダメだと想ったから」
「え、なにそれ傷口に塩塗り込まれてる気分なんだけど」
「ぐっ……。そう言われるとそうなんだけど、俺に好意を抱いてくれてたうるはに対して俺から答えがないなんてダメだとおもったから……」
傷口に塩を塗り込むような形になってしまうのは理解している。
それでも、うるはが俺に対する好意を捨て去って、次に進むためには伝えなければならないと思った。
「……ありがと。返事くれて」
「……え?」
うるはの気持ちに応えられなかったというのに、なぜかうるはは俺に対して礼を言ってきた。
罵られたり頬を引っ叩かれるくらいは覚悟していたのに、その回答は俺の予想とは全く異なるものだった。
「確かに私、自分一人で自分の気持ちにケリをつけようとしてた気がする。もっとショックを受けるのかなって思ってたけど、今直生くんに言われてスッキリしたよ」
そう俺に伝えるうるはの顔は、先ほどよりも晴れやかな表情をしているように見えた。
「……こちらこそありがとう。俺のことを想ってくれて」
「あーあ。なんか慣れないことしたからまたお腹空いた。夜は直生くんの奢りね」
「寿司でもステーキでもなんでもこい」
そして俺はうるはに回るタイプの寿司を奢ってから帰宅した。
まだ高校生なので奢ったのが回るタイプの寿司だったのは容赦していただきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます