第8-3話 「どうかしたの?」

 嫌がらせで倉庫に閉じ込めるだけでなく、淡い希望を抱かせた上でそれを砕くなんてどれだけ性根が腐っているのだろうかと私を陥れた生徒の人間性を疑うが、疑うまでもなく性根が腐っているのだろう。


 先程までは、ここから出られる、と希望があったのでこの狭い空間でも耐えられたが、再びこのままここから出られないのではないかと恐怖を感じ、扉を叩いて人を呼んだ。


「誰かいませんか!! 助けてください!! 誰か‼︎」


 手が痛くて怪我をするのではないかと思う程に強く扉を叩くが、体育の授業もないのに体育倉庫にやってくる人はいないので、中々気付いてもらえない。


 私の身長では届かない程の高さに窓があるので、いくら倉庫内の道具を駆使したとしてもそこからの脱出は不可能だと思われる。

 とはいえ、その窓から差し込む陽の光が倉庫内を明るく照らしており、私の恐怖心は最大値には達していなかった。


 しかし、仮にこのまま誰にも見つけられず夜になってしまったら、辺りは暗くなり倉庫内は暗闇に包まれる。

 スマホもないのでライトで辺りを照らすわけにもいかず恐怖で気を失ってしまうかもしれない。


 不安と焦りから思考はみるみる内にネガティブになっていく。


 私は何もしていないのに、なぜ理不尽に皆んなから嫌われなければならないのだろうか。容姿がいいというだけで、なぜ嫌われて仲間外れにされなければならないのだろうか。


 嫌われるくらいなら、いっそ自分の顔に傷でも付けて綺麗ではなくなれば仲間外れにもされないのかな……。


 いや、どれだけ抵抗したところできっともう私に存在価値なんてない。私を必要としてくれる人なんて誰1人として存在しない。私なんてこの世界にいない方がいいんだ。私なんていなくなってしまった方がみんな喜ぶはず……。


 孤独感に苛まれ自分の存在意義すら疑わしくなり始め、このまま次の体育の授業が始まる明日まで外に出られないのではないかと諦めかけたその時だった。


「どうかしたの?」


 倉庫の外から聞こえたその声は私にとって最後の希望だった。


 誰とも分からないその声に縋るように喰いついた。


「あ、あの‼︎ 閉じ込められて出られなくなっちゃって……」


 藁にも縋る想いで助けを求めたが、私の中にはある恐怖が芽生えた。


 この男子生徒も、先程の女子生徒の仲間で私に希望を抱かせようとしているのではないかとかんがえたのだ。


 懸念があるとはいえその男子に縋る以外この倉庫から脱出する方法は思い当たらず、助けを求めようと思ったが、更なる恐怖心が芽生えてしまった。


 今まで私に言い寄ってきた男子は、全員私の外見を好きになって言い寄ってきていた。

 そうなると、こうしてお互いの顔が見えず私の顔が分からない状態でこの人が私を助けるメリットなんて1つもない。


 そうなったら、この人は私を助けてくれないのではないか、と、ネガティブな思考になっていることもありそう考えてしまった。


「閉じ込められた? なんで?」

「そ、その、クラスメイトに少しちょっかいをかけられてて……。ご、ごめんなさい。見返りもないのに助けてくれなんて厚かましいですよね……」


 仮にこの男子生徒が先程の女子生徒と仲間ではなかったとしてもきっと今までの男子と同様、人を外見で中身を判断するような人で顔の見えない私を助けてなんてくれないのだろう。


 そう諦めながら会話をしていたのだが、その男子生徒は意外な返答をしてきた。


「じゃあ職員室に鍵を取りに行ってくるから。少し待ってて」

「……え? 助けてくれるんですか?」

「まあそりゃ閉じ込められて困ってる人がいるんだから助けるでしょ」


 普通に考えれば当たり前の発言なのかもしれないが、これまでの経験で思考回路がおかしくなっていた私はその言葉を聞いて驚いた。

 外見を知らなくても、メリットがなくても私を助けてくれる人がいるのだと。

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