第8-2話 「誰かいませんか‼︎」

 あの日、私は体育の授業終わりで体育倉庫に授業で使用した走り高跳び用の道具をしまいに行っていた。


 体育係は私の他にもう1人いるのだが、仲間外れにされている私と一緒に道具を片付けてくれるはずもなく私は1人で片付けをする羽目になっていた。


 重たい道具を持ちながら体育倉庫の中に入り道具を置くという作業を1人で行うのはかなりの重労働ではあったが、親友の杏樹は1年生の時は別のクラスだったので頼れるはずもなく、仲間外れにされている私を助けてくれる人は誰もいなかったので1人で片づけをするしかなかった。

 

 時間をかけてやっとの思いで最後の道具を倉庫にしまった私はフーッと息を吐いて額の汗を拭った。


 次の瞬間、大きな音と共に倉庫の扉が閉められてしまった。


 あまりにも突然の出来事に最初は何が起こったのか状況を把握できず、誰かが倉庫の中にいる私に気付かずに扉を閉めてしまったのかと思ったが、外から聞こえてきた女子生徒の声で私は全てを悟った。


「平野くんを振ったんだから、椎川さんにはこれくらいの目にあってもらわないと困るわよね」


 私を倉庫の中に閉じ込めたのは私に対して妬みを持っている女子生徒の仕業だったのだ。

 普段から教科書を隠されたり筆箱の中身がなくなっていたりと手出しされてはいたが、ここまで直接的に手出しはされていなかったので油断していた。


 倉庫内はそこまで狭い空間ではなく、普通の人なら焦らずに助けを待てばいいのだろうが、閉所恐怖症の私は鍵を閉められて外に出られない状況に酷く恐怖感を覚え、次第に呼吸が早くなっていく。


「だ、誰か‼︎ 誰かいませんか‼︎」


 体育の授業にスマホを持っていっているわけもなく、連絡を取る手段のない私は扉を叩きながら近くにいるかもしれない誰かに声をかけてみるが、その声は誰にも届かない。

 仮に声が届いていたとしても、仲間外れにされいじめられている私を助けてくれる人はいないだろう。

 

 それでも、諦めてなるものかとしばらく扉を叩きながら声を出していると、近くを通りかかったと思われる女子生徒の声が聞こえてきた。


「どうしたの? 大丈夫?」

「あ、あの‼︎ 閉じ込められちゃって……」


 倉庫の外から声をかけてくれたこの生徒も、私に対して何か妬みを持っているかもしれない。

 それでも、目の前にある脱出の可能性に縋らずにはいられなかった。


「閉じ込められた? それなら早く出してあげないと……。ちょっと待ってて、鍵を持ってくるから」

「ありがとうございます……‼︎」


 よかった……。この生徒は私に対して妬みを持っている生徒ではなかったんだ。

 ようやく外に出られる。そう思った私は人を呼ぶのをやめ、倉庫の中にしまわれていた高跳び用のマットの上に座り込んでいた。


 その間も狭い空間への恐怖は消え去らず、目を瞑って耐え忍んでいた。


 しかし、10分、20分、30分、1時間と時間が経ってもその生徒は戻ってこない。


 職員室に行って鍵を借りてくるなら数分でここに戻ってこられるはずだ。

 職員室に鍵が無かった可能性もあるが、無いなら無いで、1度その旨を私に伝えにきてくれたっておかしくない。


 それなのにここに戻ってこないとなると……。


 私は気付いてしまった。


 先程私に声をかけてきたのは、私に希望を持たせるための嫌がらせだったのだと。

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