2章 気になる理由

椎川の理由

第8-1話 「椎川の昔話」

 高校生の私、椎川しいかわ望結みゆうには彼氏がいる。


 顔面偏差値は控えめに言って上の下といったところで、彼氏がいなかった頃は学校中の男子が私に好意を寄せていたと言っても過言ではなく、そんな私に彼氏がいるのは不思議なことではない。


 彼氏がいるという事実は私が通っている高校の中でも周知の事実となっており、学校内でこの事実を知らない者は存在しないだろう。


 彼氏の名前は鈴木すずき しん


 SNSで知り合い連絡を取るようになり、そこから関係を深めて付き合うに至った。

 SNSで彼氏を見つけたと聞くと軽い女だと思われるかもしれないが、私は彼氏を愛している。 




 というのは真っ赤な嘘である。


 私は自分に男子が寄ってこないよう彼氏がいると嘘をついたのだ。

 彼氏がいると嘘をつき始めたのは高校に入学してから半年が経過した頃。


 私の外見は控えめに言っても上の下。


 自分で自分の外見を上の下と言えば嫌味に聞こえるかもしれないが、嫌味でも自慢でもなく客観的に見て上の下と判断できるからこそ自信を持ってそう言えるのである。


 とはいえ、それは私にとって喜ばしいことではなかった。


 自分でも控えめに言って上の下と言えてしまう程の外見目当てで言い寄ってくる男子は中学の頃から両手では数えられない人数に上っていた。


 内面は全く見ず外見だけを見て言い寄ってくる男子を私が受け入れるわけもなく、毎度の如く拒否していたのだが、そうする度に男子生徒の間でも女子生徒の間でも私の評判は急速に悪化していった。


 別に私は何も悪いことをしていない。


 私は私なりに言い寄ってくる男子の内面と外見の両方を見て、その上で受け入れるか拒否するかを決めるようにしていたし、好きでもない男子の好意を無理に受け入れるべきではないはずだ。


 それなのに、年頃の女子とは酷く面倒くさい生き物で、自分が好きだった男子が私に好意を向けると私に嫌がらせをするようになったし、その男子からの好意を私が受け入れないなら受け入れないで、なぜ受け入れないのか、と問い詰められて仲間外れにされた。


 何人もの男子からの告白を断っていたことで、あまり調子に乗るなよ、と釘を刺された経験もある。


 そんな風に女子生徒から仲間外れにされる私を見て、手を差し伸べてくれる男子は1人もいなかった。

 一度は好きになった私のことを助けてくれる男子が1人くらいはいてもいいのではないかとは思ったが、結局みんな私の外見だけを好きになり、心の底から私を好きになってくれる人なんていなかったのだろう。


 男子生徒の間でも自分を可愛いと思っている自意識過剰な女だと噂が広まり、私を取り巻く環境は最悪の状態となっていたが、高校生になれば何かが変わるのではないかと中学卒業時は淡い期待を抱いていた。


 しかし、結局は何も変わらず中学と同じ苦い経験を高校でも経験することになる。


 高校生になっても同じことが繰り返されるのかと絶望した私は少しずつ学校を休むようになり、不登校になりかけていた。


 ここで私が不登校になったら負けたような気はするが、このまま学校に行かないようにするのが1番楽で最善の解決策なのではないかと考え始めていた。


 しかしあの日、そんな私の人生を大きく変える出来事が起きたのである。

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