第7-2話 「よく分からないけどありがとう」
「なあ椎川、昨日のデートは楽しかったか?」
「急にどうしたの。新谷んの方から私に声をかけてくるなんて珍しいね」
私から唐突に新谷んに話しかけることはあっても、新谷んの方から私に声をかけてくることは滅多にない。
それどころか今まで1度も新谷んの方から声をかけられたことなどないのではないかと思うレベルなので、なぜ声をかけられたのか疑問に思った。
「お前も俺のデートの話よく訊いてくるだろ。それと同じだよ」
「ふぅーん。まあデートは楽しかったよ。朝から夜までずっと2人でいつも通り仲良くイチャイチャしてたし」
彼氏がいないのだからデートなどしていないが、適当に嘘をついておけば新谷んが深く訊いてくることはないだろうと考えて私は嘘をついた。
「……そうか。別にイチャイチャしてたって情報はいらなかったけどな」
「え、なに? もしかしてぇ、嫉妬でもしてるの?」
「……おまえなっ」
新谷んが私にデートが楽しかったかどうかを訊いてきた理由を考えると、やはり私に気があるからとしか思えない。
そうでもないと、他人にあまり興味のない新谷んがわざわざ私に話しかけてくることはないはずだ。
私が彼氏とイチャイチャしたとの話を聞いて嫉妬でもしたのではないかと思い新谷んを弄ってみたが、普通に考えれば新谷んには彼女がいるのだから私に対して嫉妬心なんて抱くはずがない。
「……はぁ。まあ彼氏と仲良くやれてるって言うならいいよ」
あまりにもうざい弄り方をしたので、怒られるかと思いきや、新谷んは私が彼氏と仲良くやれていることに安堵している様子だった。
「へぇ……。私に対してイラッとしても何も言わないし、それどころか私の心配してくれるなんて新谷んは本当に優しいんだね」
「別に優しくねぇよ。これくらい普通だ」
「はぁ……。新谷んが彼氏だったらなぁ」
彼氏がいる女子が言うはずのない心の声が思わず漏れる。
私には彼氏なんていないので、内面を見てくれて無条件で人に優しくできる男子と一緒にいたら好きにならないわけがない。
新谷んが私の彼氏だったらどれだけ人生が楽しいだろうかと思った私は心の声を漏らしてしまった。
まあ彼女がいる男子を好きにはならないけど。
「もしかして………」
「な、なによ」
新谷んはなにやら怪訝な顔でこちらを伺っている。
悠長に考えてはいたが新谷んが私のデートについて質問をしてくるとなると、もしかしたら私と彼氏の関係を疑っているのではないか?
何もないのに私と彼氏の関係を疑われるはずがない。
そう考えると、土曜日に私が1人でいるところを見られた可能性が浮かび上がってくる。
まずい、この状況で、「彼氏いないのか?」と訊かれたら何も準備のできていない私は思いっきり狼狽してしまう。
いや、彼氏に急な予定が入ったと嘘をつけばいいだけだ。
落ち着け私。落ち着けばこんなピンチ簡単に乗り越え……。
「彼氏と大喧嘩中なのか⁉︎」
まだ心の準備ができていないうちに新谷んは私に質問をしてきたので、もう逃げようがないと目を瞑って覚悟したのだが、新谷んから飛び出した言葉に思わず肩の力が抜けた。
確かに、デートの予定があった土日に1人で外出していれば彼氏と喧嘩したのかもしれないと勘違いするのも頷ける。
「……そ、そうなんだよ‼︎ 実はちょっとだけ喧嘩しちゃってて……」
「そうかそうか。それなら俺もこれ以上訊くのはやめとくよ。早く仲直りできるといいな」
「な、なんかよく分からないけどありがとう」
新谷んが頭弱くてよかったぁ‼︎
普通の人なら私が嘘をついていると勘ぐり始めてもおかしくはない状況で、新谷んは私にとって非常に都合のいい解釈をしてくれた。
喧嘩なんてしていないが、喧嘩してるってことにしたら心配されて質問するのもやめてくれたし。
とはいえ、嘘をつくことに慣れ始め少し脇が甘くなっていたようだ。
これからはもっと脇を締め気をつけて行動することにしよう。
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