第7-1話 「もしかして……」
「なあ椎川、週末のデートは楽しかったか?」
「急にどしたの? 新谷んの方から私に声をかけてくるなんて珍しいね」
椎川が指摘してきた通り、俺の方から椎川に声をかけるのは珍しい。珍しいを通り越して初めての可能性すらある。
そんな俺の方から椎川に声をかければ違和感を持たれる可能性もあったが、椎川が彼氏と2人ではなく、1人で出歩いていた理由について詮索せずにはいられなかった。
「お前も俺のデートの話よく訊いてくるだろ。それと同じだよ」
「ふぅーん。まあデートは楽しかったよ。朝から夜までずっと2人でいつもどおり仲良くイチャイチャしてたし」
椎川は当たり前のように、あたかも本当に彼氏とデートに行っていたかのような雰囲気で嘘をついた。
俺が椎川を見かけたのは昼過ぎなので、昼過ぎには少なくとも彼氏と一緒にはおらず1人でいたのは間違いないし、午前中だけ彼氏と遊んだいたとも考えづらい。
昼過ぎに椎川を見かけてから尾行したが、誰とも合流せずそのまま帰宅してしまったので今の話は嘘になる。
一緒にいなかったのだから、いつも通りイチャイチャしてた、なんて話は真っ赤な嘘だ。
「……そうか。別にイチャイチャしてたって情報はいらなかったけどな」
「え、なに? もしかしてぇ、嫉妬でもしてるの?」
「……おまえなっ」
こいつ、人が気を遣って椎川を目撃しているのを黙っておいてやったら調子に乗りやがって……。
したり顔でこちらを見つめる椎川に、昨日俺が1人で歩いている椎川を見かけたことを伝えてやろうとも思ったが、それを伝えると気不味い空気が流れそうな上に俺が尾行していた事実にも気付かねてしまいかねないので黙っていることにした。
自分が危機的状況に陥っているとも知らずによくもまあ自信に満ち溢れた顔で俺を煽れたもんだ。
「……はぁ。まあ彼氏と仲良くやれてるって言うならいいよ」
「へぇ……。私に対してイラッとしても何も言わないし、それどころか私の心配してくれるなんて新谷んは本当に優しいんだね」
「別に優しくねぇよ。これくらい普通だ」
「はぁ……。新谷んが彼氏だったらなぁ」
本当に土日デートに行き、椎川がついていた嘘のように彼氏とイチャイチていたのだとしたら、俺が彼氏だったら、なんて言葉は口にしないはずだ。
そんな言葉が口にでるとなると、やはり彼氏と喧嘩でもしているのか?
それともそもそも彼氏の存在自体が嘘なのか?
……流石にそんな俺みたいな嘘をつく奴が同じ学校に2人もいるわけないか。やはり彼氏と喧嘩をしているのだろう。
しかし、椎川からは彼氏と喧嘩をしているような雰囲気は感じられない。
彼氏と遊ぶ予定があったのに、その予定がなくなってしまう程の喧嘩をしているのなら、多少は落ち込む様子を見せてもいいはず。
それなのに、椎川は落ち込む様子を一つ見せず、それどころか調子良さげに俺を煽っている。
となると喧嘩の線も考えづらいのだろうか。
……こうなったら椎川に直接、訊いてみるしかない。
もし喧嘩をしているという俺の考えが間違っていれば椎川の機嫌を損ねるかもしれないし、この質問をするリスクは極めて高い。
しかし、椎川が嘘をついていることに疑いの余地はなく、何かしら問題が発生しているのは目に見えている。今更後になんて退けるはずがない。
「もしかして………」
俺は一度言葉を詰まらせながらも、そのまま質問を続けた。
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