第6-2話 「1人って楽だなぁ」

 今日は彼氏とデートだと新谷んには大見えを切ったが、彼氏がいない私がデートなんてするはずも……いや、できるはずもなく、私は1人でショッピングへとやってきていた。


 彼氏がいると嘘をつき始めてから、以前と比較して周囲の人たちといい関係を築けているとは思うが、私が心の底から友達と呼べるのは杏樹だけ。

 

 心の底から友達と呼べるのが杏樹だけとなると、休日杏樹に予定が入っていると他に一緒に遊びに行く人に当てはなく、自動的に1人で遊びに行くことになる。 


 1人なんて寂しくないのかと思われるかもしれないが、誰にも気を遣わずに済むので微妙な関係の同級生と遊びに行くよりよっぽど気が楽である。


 1人で街に繰り出した私が初めに立ち寄ったのは本屋だ。


 本屋に立ち寄った目的は最新のファッション誌の購入である。

 女子高生たるもの、常に流行をチェックしながら時代に乗るのが鉄則である。


 まあわざわざ本屋まで出向いてファッション誌なんて購入せずとも今の世の中ネットを開けば流行なんて直ぐに確認できるんだけど。


 それに、彼氏がいると嘘をつき始める前はファッションについて詳しくなり、可愛くなれば可愛くなる程周囲から嫌われ溝が開いて行った。

 そのせいでファッションの勉強なんて必要ないのではないかと思った過去もあるが、彼氏がいると嘘をつく以外、私らしく生きるというポリシーを崩すことはなかった。


 本屋に来ると昔の出来事を思い出す。


 友達を本屋に誘うと、「本屋なんて面白いか?」と言われ本屋には行けなかった。

 自分は本に興味がなくて本屋に行くのが面白くなかったとしても、人に合わせて行き先を選ぶのは所謂処世術だとは思うのだが、私だけが楽しめる場所に行くのを強要するわけにはいかない。


 それ以来、私は杏樹の前以外で自分の願望を口にすることはなくなった。


「……1人って楽だなぁ」


 話す相手は誰もいないのに、本屋の中でファッション誌を物色しながら思わず小さな声で独り言を呟く。

 何のしがらみもなく自分の行きたい場所に好きな時に好きなように行けるのはやはり1人の醍醐味だ。


 その後も、靴屋に服屋、最後にはスーパーマーケットなど自分が行きたいと思っている様々な場所に足を運ぶが、それを、「面白くなさそう」と拒否する人はいない。


 誰にも気を遣わず自分の好きなように行動できる1人は最高だ。


 ……なんていうのはやっぱり強がりなのかもしれない。


 外見が人より優れてるというだけで仲間外れにされて、軽いイジメにあってきたこれまでの日々。

 そんな荒んだ日々が私をこんな捻くれた性格に仕立て上げたのかもしれない。


 本当は私だって新谷んについた嘘みたいに彼氏と一緒にデートで仲良くどこかをぶらついたりだってしてみたい……。

 あわよくばその相手が、新谷んだったらいいな……なんて思ってはいけないし、思うはずがない。


 だって新谷んには可愛い可愛い彼女がいるのだから。


 なんて感傷に浸っていると思わず涙が出そうになるので、悲しい過去は忘れて周囲には聞こえないくらいの小さな音で鼻歌を歌いながら帰宅した。

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