第21-1話 「私もそう思ってたから」

 俺がうるはさんに、帰りませんか、と提案したら、なぜ帰らなければならないのかと質問を受けると思っていた。


 それなのに、うるはさんの反応は予想外の反応を見せた。


「そうしよっか。私もそう思ってたから」

「……え?」


 嘘のダブルデートとはいえ、こうしてダブルデートをしにきているのだから俺が急に帰ろうと言えばうるはさんは驚いて拒否するはず。

 それなのに、そんな素振りを見せるどころか俺の意見に賛同されて僕は思わず呆気に取られてしまった。


 俺とうるはさんの考え方が完全に一致していると言うことなのだろうか。


「どうしたの? 自分で帰りませんかって訊いてきたのにそんなに不思議そうな顔されたら困っちゃうんだけど」

「あ、いや、まさかそんなにすんなりと僕の提案を受け入れてもらえるとは思っていなかったもので……」

「さっきも言ったけどね、私は自分が直生くんの彼女でありたいと思うよりも先に、直生くんに自分の殻を破ってもらいたいと思ってるんだ。直生くんは昔の酷い経験のせいで自分の殻に閉じこもってしまってるけど、いつまでもそんなんじゃ幸せにはなれないだろうから。弟さんもお姉ちゃんに対してそう思ってるんじゃない?」


 うるはさんの言葉は、俺が姉ちゃんに対して抱いている感情と全く同じ物だった。


 要するに、うるはさんの新谷さんに対する恋愛感情というのは最早、ただの恋愛感情ではなく家族と同等のものということになる。


 しかし、同じものではあったが、その大きさは全く違うもので、僕の疑問は考えるよりも先に口に出ていた。


「確かにうるはさんが新谷さんに抱いている気持ちと僕が姉ちゃんに抱いている気持ちは同じです。でも、なんで家族でもない新谷さんにそこまでできるんですか? 僕は本当の家族である姉ちゃんでもそこまで大きな感情を抱くことはできません」

「好きだから、って言う理由だけじゃ物足りないかもしれないけど、本当にただそれだけだよ」


 俺にも可愛くて優しくてずっと一緒にいたいと思える彼女がいる。

 そんな彼女のことを俺は大好きだと思っていたし、その気持ちは誰にも負けるものではないくらいの気合いだったが、この人の新谷さんに対する愛情にはとてもじゃないが叶いそうにない。


「僕もまだまだだってことですね」

「……え、なにがまだまだなの?」

「なんでもありません。2人がトイレから出てくる前に帰りますか」

「うん。そうだね。それじゃあ」


 こうして俺たちは2人を残して帰宅することになった。

 姉ちゃんが帰宅してきてから、何やら嬉しそうな表情をしていたものの、しっかり絞られたことは言うまでもない。

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