第20-2話 「2人で遊んで行こっか」

「2人とも出てこないね」

「流石に遅すぎるな」

 

 トイレから出て辺りを見渡しても楓大とうるはちゃんの姿がなかったので、2人もトイレに入ったのだろうと私たちはベンチに座って2人が出てくるのを待っていた。


 しかし、10分以上経過しても2人が出てくる様子はない。

 たかがトイレをするだけにしてはいくらなんでも出てくるのが遅すぎるので、連絡を取ろうとスマホを開くと楓大からメッセージが入っていた。


『ちょっと体調悪くなったから先帰る。ごめん』


 ……は? 体調不良?


 今日楓大と一緒にいた感覚では体調が悪そうには見えなかった。流石に毎日一緒に過ごしている家族なので体調が悪いかどうかくらいは雰囲気で判断がつく。

 デートを始めた時は体調が良くて急に体調が悪くなったという可能性も考えられないわけではないが、そんな明らかな嘘を信じられるほど私の心はピュアではない。


 あいつ……。面倒くさくなって帰りやがったな。


 確かに今日の楓大へのお願いは滅茶苦茶な物だったとは思うが、その分アイスを買ってあげたり好きな漫画買ってきてあげたりと色々貢いだというのにこの仕打ちはないのではないだろうか。


 とはいえ、余りにも滅茶苦茶なお願いで楓大に申し訳ないという気持ちがなかったわけではないので、楓大のことは責められない。


 まあここからは新谷んカップルと3人で楽しむとしますか……。

 

「すまん。うるは、おばあちゃんの体調が良くないみたいで今日は先に帰るって」

「え? うるはちゃんも?」

「……も?」

「あ、いや、別にその、なんでもないんだけど……」


 うるはちゃんまで帰ったの?


 楓大も帰り、うるはちゃんも帰ったとなるとここに残されたのは私と新谷んの2人だけということになる。


「どうした? なんか声震えてるけど」


 新谷んはまだ楓大はトイレの中にいると思っているはずなのでまだ余裕を見せているが、私たちは2人きりになってしまったのだ。そんなのどうやって新谷んに伝えれば……。


 とはいえ、新谷んにそれを伝えないわけにもいかない。


「いや、えーっと、楓くんもちょっと大事な用事思い出したから先に帰るって……」


 想像はしていたが、新谷んは目を丸くして驚いている。


「どうしような……」

「ね、どうしようね……」


 私たちの間にはなんとも言えない空気が流れている。

 お互い頭をフル回転させてこの後どうするべきかを考えているのだろうが、最適解なんてそんなにすぐ見つかるはずもない。


 というか、この後どうするかと考えているが新谷んと2人になってしまったのだからこれ以上新谷んと一緒にいる必要はない。

 今日のお互いの目的は、お互いに間違いなく彼氏彼女がいることを理解させるという物だ。


 それならすでに目的は達成しており、きっと新谷んもこのまま帰宅してしまいたいと思っているはずなので、帰宅したところで何も問題はないだろう。


 ……それなのに、なぜ私は今、帰りたくないと思っているのだろう。なぜこのまま新谷んと2人で遊びたいと思ってしまっているのだろう。

 新谷んと休日に2人きりになれるチャンスなんてそうそうない。


 私の中で渦巻く新谷んに対するこの気持ちを、どう整理すればいいのか、私は分からなくなっていた。


「よし、それじゃあ……」


 ダメだ、このままだとここで解散することになってしまう。

 そう考えた私は、後先を考えるよりも先に、言葉を発していた。


「折角だし2人で遊んで行こっか」


 私の口からは自分でも予想外の言葉が飛び出していた。


「……え?」

「別にこの後お互い予定とかないでしょ? まあそれならこのまま帰っても暇だし、新谷んと遊んだから帰ろうかなーと思って」

「そ、それは別に構わないけど……」


 私はこのまま新谷んと2人で遊びたいと思っている。

 それなのに、新谷んが微妙に困った表情をしているのはなぜだろうか。


 --も、もしかして⁉︎ 私が新谷んのことが好きでもっと遊びたいと思ってるとか勘違いしてるの⁉︎


「べ、別に他意は無いからね‼︎ ただ暇だからってだけだから」

「そんなこと思うわけないだろ。お前彼氏いるんだし」


 新谷んに指摘され、そうだった、私には彼氏がいるのだから新谷んが私の想像していたような勘違いをするわけがないのだ。


「そうだよ。私には楓くんっていう新谷んなんかより全然格好いい彼氏がいるんだから」

「なんかその言い方は腹が立つが、まあ確かにお前の彼氏は格好良かったよ」

「でしょ。よし、それじゃあとりあえずはゲーセンでも行きますか‼︎」

「はいはい」


 こうして私は新谷との遊びを継続することになったわけだが、それを心の片隅で喜んでいる自分がいるのに、私は気づかないフリをした。

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