第22-1話 「卑怯じゃないか‼︎」

 ゲームセンターについた俺たちは、数多く設置されたゲームの中からどのゲームをして遊ぶか見て回っていた。


「折角来たんだから何かしたいよね〜」

「まあ何もせずに帰るってのは味気ないわな」

「あ、これなんかどう?」


 そう言って椎川が指さしたのはゲーセンにはどこにでも置いてありるエアホッケーだ。


「別にやるのは構わないけど。どうせ勝つのは俺だし」


 どうせやるなら面白い本気の勝負にしたいと、別段エアホッケーが得意でもないのにあえて椎川を煽る。


「何言ってるの? 勝つのは私なんですけど」

「女のお前に俺が負けるわけないだろ」

「へぇそうですかそうですか。そこまで言うなら負けた方が勝った方の言うこと聞くってのはどう?」

「望むところだ」 


 俺の煽りに乗せられて、椎川はとんでもない内容の賭けを提案してきた。


 気軽にその提案を受けはしたが、普通に考えると女子である椎川がその提案をするのはあまりにも安易なのではないだろうか……。

 なんでも言うことを聞くとなれば、あんなことやこんなことでも聞かせられるってことに……。


 とまあそんな内容が頭の中に浮かんではいるものの、なんでも、という言葉にも流石に限度はあるわけで、その限度を超えた馬鹿みたいな要求をするつもりはない。

 高校生の賭け事なんて自販機でジュース1本奢ってもらえればいいところだろう。


 俺は財布から100円を2枚取り出し、エアホッケー台に投入した。


「え、私がやりたいって言ったんだし私が払うよ」

「別にいいよこれくらい。気にすんな」

「あ、ありが……」

「スキアリ‼︎」


 俺は椎川が目線をエアホッケーの台から外した瞬間を見逃さず、見事にゴールを決めて見せた。


 見事、なんてことは全くなくてただ卑怯なだけど。


「--へ? え、はっ⁉︎ ちょ、ちょっとそんなのなしでしょ⁉︎」

「なしの意味がわかりませ〜ん。ゲームはもう始まってま〜す」

「ぐっ……。無性にイライラするなその言い方……」


 その後、エアホッケーに集中し始めた椎川に先程のような卑怯な手は通用せず、一進一退の攻防が続き、残り時間20秒で、スコアは5対5となっていた。


 いや卑怯なことしておいてこのスコアってダサすぎるだろ。


 まあエアホッケーなんて男女でそこまで実力差が出るもんでもないし、このスコアでも仕方がないのかもしれないけどな。

 でも5対5の引き分けじゃあ実質負けてるからな俺。


「中々やるな」

「新谷んもまさかここまでやるとは思ってなかったよ。まあ最初の1点はズルだから実質私が勝ってるみたいなもんだけど」

「ズルも実力のうちって言葉があるだろ」

「なんか微妙に違うと思うんだけどそれ」


 そして残り時間は5秒、お互い点が入らない状態が続いていた。


「新谷ん」

「なんだ。さっきの俺みたいに卑怯な手を使おうったってそうは……」

「好き」

「--え?」


 俺が椎川の言葉を聞いてエアホッケーの台から目を離した瞬間、気持ちのいい音と共に俺は椎川にゴールを決められていた。


「ふはははははは‼︎ やっぱり新谷んより私の方が強かったね‼︎」

「ちょ、ちょっと待て最後のはどういうことだ‼︎」

「どういうことも何も、新谷んを動揺させるための作戦だよ」

「そんなの卑怯じゃないか‼︎」

「おやおやぁ?  最初に卑怯な手を使って1点を取った君がそんなこと言える立場にいるのかなぁ?」


 それを言われてしまうともう反論することはできない。

 最初に卑怯な手を使ったのは俺なのだから、椎川が1度卑怯な手を使うことでこの戦いは平等なものになる。



「ぐっ……。分かったよ。なんでもゆうこと聞けばいいんだろ? 何すればいいんだよ」

「うーんそうだなぁ……。じゃあプリクラでも撮ろっか」

「プリクラ?」


 あまりにも意外な回答を聞いて俺は呆気に取られていた。

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