第19-1話 「あれ、2人は?」

 小便をしながら俺の頭の中には一つの疑問が浮かんでいた。


 それは、なぜ俺が椎川に彼女がいると嘘をついているかというものだ。


 そもそも俺は自分の身を守るために、彼女がいると嘘をつき始めたわけだが、購買での経験もあったように椎川が人を外見だけで判断するような人間ではないことを俺は知っている。


 もし俺がそれを知らなかったのだとしたら、毎日のように教室でダル絡みをしてくる椎川とはいち早く縁を切りたいと思うはずだ。

 それなのに、縁を切ろうとしたり下手に遠ざけたりはしないのは購買での椎川とのエピソードがあったからである。


 それなら椎川には、彼女がいる、なんて嘘をつかなくとも今まで通りの心地よい関係を保てるのではないだろうか。


 俺が彼女なんていないと伝えたら、椎川はどんな反応をするのだろうか。冗談とはいえ、何度も何度も俺に告白をしてきているくらいなので、少しは喜んでくれたりするのだろうか。


 いや、もし仮にそれで椎川が今の彼氏よりも俺のことが好きになるなんてことがあったら……って流石に自分の外見を高く評価しすぎなのは理解しているが、これまでの経験上そう思うのも仕方がないだろう。


 いや、でも椎川なら俺に彼女がいないと知っても今の彼氏を無碍にすることはないだろう。

 それに、俺にとっても橘以外に自分の事情を理解してくれている奴がいるのはプラスになるはずだ。


 それならもう椎川に彼女がいるなんて嘘をつく必要は……。


 って何考えてるんだよ俺……。もし椎川に俺には彼女なんていませんと話をしたら、椎川が俺に対しての態度を改める可能性もあるし、椎川が友達に言いふらすことで学校中に俺には彼女がいないと気づかれてしまうかもしれない。

 そうなったら、やっと手に入れた今の生活は失われ昔に逆戻りしてしまう。


 それに、彼氏がいる椎川からしてみれば俺が急に、俺には彼女がいません、と伝えれば、何か自分に対して気があるのではないかと思うのが自然だ。

 そんなことを思われたままでは今後の学校生活もやりづらくなってしまう。


 そんなリスクを負うくらいなら、やはり椎川にもこの嘘はつき続けたままにするのが良いだろう。


 でもなぁ。椎川にこれからもずっと嘘をつき続けるのは難しいだろうし……。


 まあ何はともあれ、今はうるはもいるし椎川の彼氏だって一緒にいる。今それを伝えるのは流石に無理がある。


 とりあえず今日は事実を明かすことはせず、嘘を貫き通して過ごすことにしよう。


 小便を終えた俺は手を洗い、濡れた手で軽く髪型を整えてからハンカチで手を拭きトイレから出た。

 トイレを出たところで俺はあたりを見渡し、声を出す。


「「あれ、2人は?」」


 辺りを見渡しても誰もいなかったが、トイレから出てきた椎川と、俺は顔を見合わせた。

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