第19-2話 「あれ、2人は? 2」

 トイレの中で私の頭の中には一つの疑問が浮かんでいた。


 それはなぜ私が新谷んに、彼氏がいる、と嘘をついているかだ。


 そもそも私は自分の身を守るために、彼氏がいると嘘をつき始めたわけだが、体育倉庫での一件もあったように、新谷んは人を外見だけで判断するような人間ではないと知っている。

 その時は新谷んを恋愛対象として見ようとしてしまう程に新谷んに魅力を感じていた。


 もし私が新谷んに助けられておらず新谷んの内面を知らないとしたら、毎日のように教室で自ら新谷んにダル絡みをしにいこうとは思わないだろう。

 まあ新谷んが良い人だと知った上でダル絡みをすることでしか関係を持つことができないのは私の性格上の問題だ。


 とはいえ、嫌いな人にわざわざダル絡みなんてしないし話しかけようとは思うはずがない。

 それなのに、私がダル絡みをするのはやはり体育倉庫での一件があったからだ。


 それならば、新谷んにはもう、彼氏がいる、なんて嘘をつかなくとも今まで通りの心地よい関係を保てるのではないだろうか。


 私が、本当は彼氏なんていない、と伝えたら新谷んはどんな反応をするのだろうか。毎日ダル絡みをしても、なんだかんだ言いながら相手をしてくれているくらいなので、少しは喜んでくれたりするのだろうか。


 いや、もし仮にそれで新谷んが今の彼女よりも私のことが好きになるなんてことがあったら……って流石に自分の外見を高く評価しすぎなのは理解しているが、これまでの経験上そう思うのも仕方がないだろう。


 いや、でも新谷んなら私に彼氏がいないと知っても今の彼女を無碍にすることはないだろう。

 それに、私にとっても杏樹以外に自分の事情を理解してくれる人が増えるのはプラスになるはずだ。


 それならもう新谷んに彼氏がいるなんて嘘をつく必要は……。


 って何考えてるんだよ私。


 もし新谷んに、私には彼氏なんていません、と話をしたら、新谷んが私に対しての態度を改める可能性もあるし、新谷んが友達に言いふらして、学校中に私には彼氏がいないと気づかれてしまうかもしれない。

 そうなったら、やっと手に入れた今の生活は失われ昔に逆戻りしてしまう。


 それに、彼女がいる新谷んからしてみれば、私が急に、私には彼氏がいません、と伝えれば、自分に対して気があるのではないかと思われてしまう可能性とある。

 

 そう思われてしまえば新谷んとの関係を保てないどころか、今後の学校生活に支障が出るのは避けられない。


 そんなリスクを負うくらいなら、やはり新谷んにもこの嘘はつき続けたままにするのが最善策なのだろう。


 でもなぁ。嘘をつき続けるか否かは別問題として、新谷んにこれからもずっと嘘をつき続けるのは難しいだろうし……。


 まあ何はともあれ、今はダブルデートの最中で陽彩もいるし新谷んの彼女だって一緒にいるので、彼氏の存在が嘘だと伝えるのは今日ではない。

 とりあえず今日は事実を明かすことはせず、嘘を貫き通して過ごすことにしよう。


 用を足し終えた私は手を洗い、濡れた手で軽く髪型を整えてからハンカチで手を拭きトイレから出た。


 トイレを出たところで私は辺りを見渡し、声を出す。


「「あれ、2人は?」」


 辺りを見渡しても誰もいなかったが、同じタイミングでトイレから出てきた新谷んと私は顔を見合わせた。

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