第17-2話 「仲良しなんだね」

「だから私たちめっちゃラブラブだって何回も言ったでしょ? ねー楓ちゃん」


 楓ちゃん……。


 自分で言っていて反吐が出そうになるが、これくらい振り切ってやらなければ弟を彼氏だという嘘を貫き通せるわけがない。

 

 私の嘘の彼氏は弟なので顔が似ているというハンデも背負っており、最初からアクセル全開でいかなければいつ私たちの関係に気付かれてもおかしくはないのだ。


「あ、あんまり引っ付くのはやめてくれよ」


 必死なお姉ちゃんを見る弟の視線が痛いよ……。そんな哀れみの目を向けられたらお姉ちゃん泣くよ? こっちだって必死なんだから、もっと優しくしてくれてもいいんじゃないかい弟よ。


 というか、普通彼氏がそんな目線彼女に向けないんだよ。


「えー、私たちの仲なんだから恥ずかしがることなんてないよ。それより新谷んは? 手繋いだりしないの?」


 あまりにも弟にベタついている自分が情けなくなってきたので、話を新谷んたちに振ることにした。


「そ、そんなわけないだろ。椎川がいるのにあんまりベタベタすると恥ずかしいから繋いでないだけだ」

「なんだ。そんなこと気にしてたんだ。ほら、私も新谷んたちのことは気にせずこうしてベタベタしてるんだから、新谷んもうるはちゃんにベタついていいんだよ?」


 最初は恥ずかしそうにしていた新谷んだったが、吹っ切れたのか顔を紅潮させながらもうるはちゃんの手を握った。


「えっ、直生くん⁉︎」

「ほら、俺たちだってラブラブだよ」


 な、なんだよその初々しさはよ……。見てるこっちが恥ずかしくなってくるぜこんちくしょう。


 確かに人前で彼氏彼女とイチャイチャするのって恥ずかしいけどさ。そんな初めて手を握りましたみたいなウブな反応されたら軽々しく人前で彼氏の腕にしがみついてる私が軽い女に見えるからやめてほしいんだけど。


 こちらまで恥ずかしくながらながらも、なぜか私の中には対抗心が芽生えており、新谷んたちに徹底抗戦することにした。


「……確かに。仲良く見えるし、何よりお似合いって感じがするね。でも私たちの方がもっとラブラブなんだから‼︎ ほら、私なんか楓ちゃんの腕にしがみついてるし」

「な、何言ってるんだ俺たちの方がラブラブに決まってるだろ‼︎」


 そう言って新谷んはうるはちゃんの肩を抱き寄せる。

 その姿を目撃した瞬間、私の心に芽生えたのは対抗心ではなく、謎の嫌悪感だった。


「ちょ、ちょっと直生くん⁉︎ いくらなんでもそれは……」


 なんで? なんで新谷んがうるはちゃんと仲良くしてたら嫌な気持ちになるの?

 新谷んはうるはちゃんが彼女なんだからあれくらい当然だ。


 それなのに、なぜ私はこんなに胸が苦しくなっているのだろうか。


「そ、そんなのまだまだだね‼︎ 私なんかほら、人前でもこうやってハグできるもん‼︎」

「ちょっ、流石に好き勝手しすぎ……」

「まだまだ甘いな椎川‼︎ 俺なんかこんなこともできるぜ‼︎」

「きゃっ‼︎ なんでお尻触ろうと……ってうぇ⁉︎」

「そ、それは……お姫様抱っこ⁉︎」


 お姫様抱っこ。


 それは女の子なら誰もが憧れるシチュエーションだ。


「あ、あの……おろしてもらってもいい?」

「あ、す、すまん。ちょっと熱中しちまった」


 本当に愛している彼女さんでもないのに、あんなこと人前でできるはずがない。

 やはり新谷んは潔白だ。うるはちゃんのことが好きな気持ちがヒシヒシと伝わってきて、疑う余地なんてない。


「やっぱり新谷ん、本当に彼女さんと仲良しなんだね」

「前からそう言ってるだろ」

「それならよかったよ。……ちょっとお手洗い行きたくなっちゃった」

「あ、俺も行くわ」


 そう言ってトイレに向かい、お手洗いに入りながら私は考える。


 あれ、私ってなんで新谷んに、彼氏がいるって嘘ついてるんだろう。

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