第17-1話 「こんなこともできるぜ‼︎」
「だから私たちめっちゃラブラブだって何回も言ったでしょ? ねー楓ちゃん」
楓ちゃん……。
カフェを出た俺たちは、ショッピングモール内をカップル同士並んで歩いていた。
椎川は、手を繋ぐだけでは飽き足らず、松坂の腕にしがみつき、頬をすりすりとこすりつけるような仕草を見せる。
あまり男とつるまない椎川が、こうまでベタベタとできるということはこの松坂という男に相当気を許しており、本当の彼氏なのだろう。
まさか彼氏でもない異性にここまでベタベタできるわけがない。
「あ、あんまり引っ付くのはやめてくれよ」
「えー、私たちの仲なんだから恥ずかしがることなんてないよ。それより新谷んは? 手繋いだりしないの?」
……確かに‼︎ それは盲点だった。
付き合っているカップルといえばデート中は必ず手を繋いでいるもの。
それなのに、俺たちは手を繋ぐどころか若干距離を取って歩いていた。
手を繋ぐを通り越してしがみついている椎川からしてみれば俺たちの今の状況に疑問を持つのは当たり前のことだ。
「そ、そんなわけないだろ。椎川がいるのにあんまりベタベタすると恥ずかしいから繋いでないだけだ」
「なんだ。そんなこと気にしてたんだ。ほら、私も新谷んたちのことは気にせずこうしてベタベタしてるんだから、新谷んもうるはちゃんにベタベタしていいんだよ?」
ベタベタしろって言われたってそんなのできるわけないだろ……
うるはは俺の本当の彼女ではないので、手なんか繋いだらこのダブルデートが終わってから何を言われるか分かったもんじゃない。
こうなったら……。
「えっ、直生くん⁉︎」
「ほら、俺たちだってラブラブだよ」
「……確かに。仲良く見えるし、何よりお似合いって感じがするね」
すまんうるは、俺みたいな冴えない頼りない男とは手なんか繋ぎたくないかもしれないが、ここは耐えてくれ。
「でも私たちの方がもっとラブラブなんだから‼︎ ほら、私なんか楓くんの腕にしがみついてるし」
「な、何言ってるんだ俺たちの方がラブラブに決まってるだろ‼︎」
またも売り言葉に買い言葉で俺はうるはの肩を抱き寄せた。
「ちょ、ちょっと直生くん⁉︎ いくらなんでもそれは……」
お、俺だって椎川たちの前でこんなことは……というか前ではなくとも無理やりうるはの肩を抱き寄せるなんて申し訳ないのでやりたくない。
それなのに、幼馴染からこうして拒否されるってのは流石に辛いもんがある。
だが、ここまできたからには引くわけにはいかない。
「そ、そんなのまだまだだね‼︎ 私なんかほら、人前でもこうやってハグできるもん‼︎」
「ちょっ、流石に好き勝手しすぎ……」
「まだまだ甘いな椎川‼︎ 俺なんかこんなこともできるぜ‼︎」
「きゃっ‼︎ なんでお尻触ろうと……ってうぇ⁉︎」
「そ、それは……お姫様抱っこ⁉︎」
俺は無我夢中になってうるはお姫様抱っこした。
……あれ、なんか俺やりすぎてね?
よく見ると周囲の客からの視線も痛い。
「あ、あの……おろしてもらってもいい?」
「あ、す、すまん。ちょっと熱中しちまった」
「やっぱり新谷ん、本当に彼女さんと仲良しなんだね」
「前からそう言ってるだろ」
「それならよかったよ。……ちょっとお手洗い行きたくなっちゃった」
「あ、俺も行くわ」
勝負が終わって気が抜けたのか、尿意を催した俺は椎川と一緒にトイレに向かった。
そして小便をしながら考える。
あれ、なんで俺こんなに必死に椎川に嘘ついてるんだろう。
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