第13-2話 「廊下に立っとけ2」
今は物理の授業中。
先生が黒板に化学式を書き連ねているが、そんなことはどうでもよくて私は杏樹が言っていた、新谷んの彼女、について考えていた。
新谷んの彼女についても気にはなるが、まず杏樹に彼氏がいたという事実に驚かされ、しかもその彼氏が新谷んの親友である橘くんだったことに私は驚きを隠せなかった。
深掘りしようとしても杏樹は詳しく話そうとはしなかったけど……。
これに関してはどうでもよくはないけど、それ以上に驚きの事実を伝えられたので私の興味はそちらに移ってしまった。
新谷んが嘘をついているかもしれない、という話だ。
そんな突拍子もないことを言われてもにわかには信じ難いが、杏樹はそんなくだらない冗談を言う人間ではない。
杏樹の言葉を信じるとしたら、新谷んの彼女さんは本当に新谷んの彼女なのかどうか疑わしくて、新谷んは彼女がいると嘘をついていることになる。
頭の中で整理をしようとしても内容が内容なだけにそう簡単に整理できるようなことではないけど、一つ一つ確認していくしかない。
まず新谷んの彼女さんがなぜ新谷んとは付き合っていないと言っていたのかだ。
もし今新谷んが彼女さんと喧嘩中なのであれば、その言い方にも違和感はない。
新谷んと喧嘩中で、新谷んのことなんて今は好きではない、という意味でその発言をしたのかもしれない。
しかし、新谷んの彼女さんが、付き合っている、と言い直したことを考えるとその線も薄い。
いや、そもそも都合良く考えすぎなのか?
いくら喧嘩をしていても、付き合っていない、とまでは言わないのではないような気がする。
新谷んと彼女さんがまだ付き合っているのか、そもそも本当に付き合っていたのかどうかを確認する方法はないので、どうしたって答えを知ることはできないけど、このままどうでもいいと投げ出せるほど簡単な問題ではない。
仮に新谷んには本当に付き合っている人はいなくて、今の彼女さんだと言い張っている人が彼女ではないのだとしたら、どんな理由があって彼女がいると嘘をついているのだろうか。
もしかすると私と同じような理由で彼女がいると嘘をついているのか?
……というか、ここまで深く考えてはいるけど新谷んが彼女がいると嘘をついているからと言って別に私には関係なくない?
なぜ私が新谷んのことでここまで頭を悩ませる必要があるのだろう。
私は新谷んの彼女が嘘の彼女だと暴いてどうしたいの?
新谷んの嘘を暴いたからといって喜ぶのは私だけで、新谷んが嫌な思いをするだけじゃないの?
「……わ」
それならもうこれ以上頭を使うのは……。
「……いかわ」
新谷んのためではないのだろう……。
「椎川‼︎」
「は、はい⁉︎」
「何ボーッとしてるんだ。早く答えを言え」
「あ、その、えーっと……」
「物理の時間に考えるのは物理のことだけにしてくれよ……。廊下に立っとけ」
「はい……すいません……」
授業に全く集中できていなかった私は先生から出された問題に答えることができず、廊下に立たされることになった。
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