第5-2話 「心配してくれてありがとう」
「ねぇ新谷ん、やっぱり私と付き合わない?」
今日も今日とて、私は隣席の彼女持ちイケメン男子に声をかけて……いや、告白していた。
そんな私の告白に、新谷んはいつも通りのテンションで、お決まりのセリフを放つ。
「いや、だからお前彼氏いるだろ。何回このやりとり繰り返したら気が済むんだよ」
「まぁねー。でも彼氏がいなかったら新谷んと付き合うのもありだなーって思うんだよ」
毎回同じ返答ではなく少しは捻りを入れてほしいと思ってはいるものの、新谷んに彼女がいなかったら付き合いたいとの発言は決して嘘ではない。
私の彼氏の存在を知っている以上新谷んがその言葉を本気と捉える可能性は皆無だが、先程の告白も、彼氏がいなかったら新谷んと付き合うのがあり、との発言にも嘘は微塵も含まれていない。
どちらも本当の言葉ではあるが、本気の言葉ではないだけである。
「じゃあ彼氏がいるんだからナシだろ」
「もうっ。なんでそう冷たい反応しかできないかなー」
「……もしかして彼氏と上手くいってないのか?」
「べ、別に⁉︎ 彼氏とはめちゃくちゃ上手くいってるよ。今度の土日もデート行こーって話してて朝から晩までずっと一緒の予定だし」
「そうか。まあそれならいいけど」
私が新谷んに対して放った言葉に本当の気持ちを乗せすぎたせいで、新谷んに今の彼氏との仲を疑われてしまった。
今の彼氏との仲とは言っても、本当は彼氏などいないのだから、彼氏との仲が悪くなるわけないんだけどね。
「私が彼氏と喧嘩してるように見えたんならもう少し優しくしてくれてもよくない? 私泣くよ?」
「俺が椎川を泣かせたって思われないよう誰からも見えない場所で1人で泣いてくれ」
「私が泣くことに対する心配よりも保身の方が大切なの⁉︎」
「そりゃそうだろ」
冗談とは言え毎日のように告白しているのだから私に対して少しは優しくしてくれてもいいのではないかと思うが、まあそれも新谷んらしいところか。
「もう……。まあ新谷んらしくっていいけどさ。新谷んも彼女さんと仲良くね。もし別れたら慰めてあげるから報告よろしく」
「何言ってんだ。別れるわけないだろ。だって俺の彼女は……」
「……俺の彼女は?」
「……めちゃくちゃ可愛いんだから」
「……へ? 今なんて?」
新谷んの口から、新谷んが言いそうにもない言葉が放たれて私は思わず訊き直してしまった。
「め、めちゃくちゃ可愛いんだから……」
「ふははははははっ‼︎ 新谷んってそんなこと言うキャラだったの⁉︎ と言うかそれ、別れない理由になってなくない?」
「な、なんでもいいだろ‼︎」
「本当新谷んは面白いなぁ」
新谷んは顔を赤くさせながらでも自分の彼女をめちゃくちゃ可愛いと言える程、彼女を愛し大切にできる人なのだと、私の新谷んに対する好感度はさらに上がった。
「面白くないよりマシだろ。お前の方こそ本当に彼氏と喧嘩とかしないように気をつけろよ」
「新谷んと付き合えてる彼女さんは幸せだね。心配してくれてありがとう」
嘘で彼氏がいると言い続けている以上、私と新谷んが友達以上の関係になることはないのだろうけど、もし私が彼氏がいないと言って新谷んにアタックし続けていたら、私と新谷んが付き合う世界線もあるのだろうか。
……いや、それはないか。
私が別れたところで、新谷んには誰かに自慢できるくらい可愛い彼女がいるのだから。
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