嘘その2
第5-1話 「彼氏と上手くいってないのか?」
「ねぇ新谷ん、やっぱり私と付き合わない?」
今日も今日とて、隣席のイケメン彼氏持ち美少女が俺に付き合わないかと訊いてくる。
その質問に対して、俺は何の捻りもなくいつも通りの返答をした。
「いや、だからお前彼氏いるだろ。何回このやりとり繰り返したら気が済むんだよ」
「まぁねー。でも彼氏がいなかったら新谷んと付き合うのもありだなーって思うんだよ」
「じゃあ彼氏がいるんだからナシだろ」
「もうっ。なんでそう冷たい反応しかできないかなー」
なぜこいつは彼氏がいるのに何度も何度も告白をしてくるのだろうか。
イケメン彼氏持ちの美少女にはそのイケメン彼氏を失うリスクを負ってまで2人目の彼氏を作るメリットはないはずだ。
椎川が何人も彼氏がほしいっていうクズ女なら分からなくもないがそうは見えないし……。
というか実はもう複数人彼氏がいたりして?
まあそれは流石にあり得ないか。ただ俺を揶揄うのが楽しくて毎日冗談で告白をしてきているだけなのだろう。
いや、彼氏がいるのにも関わらず、俺にここまで絡んでくるとなると……。
「……もしかして彼氏と上手くいってないのか?」
「べ、別に⁉︎ 彼氏とはめちゃくちゃ上手くいってるよ‼︎ 今度の土日もデート行こーって話してて朝から晩までずっと一緒の予定だし」
上手くいってる、と言う割にはその返答に焦りが見え隠れした気がするが、椎川の言葉を疑うつもりはない。
「そうか。まあそれならいいけど」
「私が彼氏と喧嘩してるように見えたんならもう少し優しくしてくれてもよくない? 私泣くよ?」
「俺が椎川を泣かせたって思われないよう誰からも見えない場所で1人で泣いてくれ」
「私が泣くことに対する心配よりも保身の方が大切なの⁉︎」
「そりゃそうだろ」
「もう……。まあ新谷んらしくっていいけどさ。新谷んも彼女さんと仲良くね。もし別れたら慰めてあげるから報告よろしく」
「何言ってんだ。別れるわけないだろ。だって俺の彼女は……」
「……俺の彼女は?」
やばいしくった。
勢いで、『俺の彼女は実在しないんだから』って言いそうになった。
ギリギリでその言葉を口の中に収めた自分を褒めたいところだが、それよりもこの場を誤魔化す方法を考えることが先だ。
この場で椎川を誤魔化せる最適な言葉は……。
「……めちゃくちゃ可愛いんだから」
「……へ? 今なんて?」
「だ、だから、俺の彼女、め、めちゃくちゃ可愛いんだから……」
「ふははははははっ‼︎ 新谷んってそんなこと言うキャラだったの⁉︎ ていうかそれ、別れない理由になってなくない?」
「な、なんでもいいだろ‼︎」
「本当新谷んは面白いなぁ」
「面白くないよりマシだろ。お前の方こそ本当に彼氏と喧嘩とかしないように気をつけろよ」
「新谷んと付き合えてる彼女さんは幸せだね。心配してくれてありがとう」
椎川が俺に対してお礼を放った際の表情を見て、顔の温度が上昇していくのが分かる。
柔らかくニコッと笑うその表情に、俺は心を奪われそうになった。
その後、直ぐに我に帰った俺は顔が紅潮していると気付かれないよう椎川の顔から視線を外した。
別に椎川が好きというわけではないが、仮に彼女がいると嘘をついていなかったとしたら、椎川と俺が付き合う世界線もあったのだろうか。
なんて柄にもなく考えさせられるくらいには椎川の微笑んだ表情は魅力的だった。
俺はうるはの次に……いや、うるはと同じくらい椎川に心を許しているのかもしれない。
でもまあ、俺に彼女がいなかったとしても俺と椎川が付き合う世界線は存在しなかっただろう。
俺に彼女がいなかったとしても、椎川には椎川が愛してやまないイケメン彼氏がいるのだから。
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