第4-3話 「彼女できた?」
予定していた集合時間よりも5分ほど早く集合場所に到着した俺は、待ち合わせをしている人物と連絡を取りながらその人物の到着を待っていた。
繁華街なだけあって人が多く、誰かが自分を監視しているような感覚に陥ってしまうが、そんな感覚に陥ってしまうのは自業自得でもある。
「ごめ〜ん。遅くなっちゃった」
「いや、全然待ってないよ」
俺の元に現れたのは俺の彼女……ではなく幼馴染、中条うるはだ。
うるはは家が近所で昔から仲良くしている所謂幼馴染で、小学校、中学校は同じ学校に通っていたのだが、進学して別々の高校に通うことになった。
「直生くんのそうやって相手に気を遣えるところ、昔から変わってないね」
「別に昔から気を遣えた記憶なんてないけどな」
「もう彼女できた?」
「な、なんだよ急に。彼女なんているわけないだろ。うるはだって俺が彼女作らない理由知ってるだろ」
うるは俺と同じ中学校に通っていたこともあり、俺が彼女を作らない理由も知っている。
しかし、俺がうるはを彼女だと偽っている事実は伝えていない。
うるはには内緒で、勝手にうるはを彼女だと言い張っているのである。
この事実に気付かれたら絶交なんて生やさしい仕打ちでは終わらないかもしれないな。
「ふふ。まあそうなんだけどね。直生くんくらい格好よかったらいつでも素敵な彼女さんができるのにもったいないなと思ってね」
「できるかできないかじゃねぇよ。俺に作る気があるかないかだ」
「じゃあまだしばらく彼女はできなさそうだね」
「悪かったな」
「彼女に困ったらいつでも私が付き合ってあげるから」
どこかで聞いたことがあるようなセリフだな……。
毎日毎日冗談で告白されてると、もう冗談での告白には慣れてしまい動揺のどの字も出てこない程に冷静でいられる。
「お前な……。冗談でもそういうことは軽々しく言うもんじゃないぞ」
「冗談じゃないんだけどな……」
うるはとは長い付き合いなので、素を出して会話できるのは非常に楽だし、会話をしていて楽しいとも思う。
うるはが俺を好きになってくれるのなら、うるはとならもしかしたら俺が嫌で嫌で仕方がない恋人なる関係にもなれるのかもしれない。
「それで、今日はなんで急に一緒にショッピングに行こうなんて言い出したの? 普段は絶対そんな誘いしてこないのに」
「そ、それはまあ気分だよ。誰だって気分が乗る日と乗らない日はあるだろ」
自分でも苦しい言い訳であることは理解しながらも、それ以外本当の理由を誤魔化す術はなかった。
今日が新作ゲームの発売日でゲームを買いに行きたかったが、デートに行くと行っておきながら1人で出歩いているところを万が一椎川に見られたら何を言われるか分からないので、そうならないためにうるはを誘ったとは口が裂けても言えるわけがない。
まあどれだけ偶然が重なったところで俺がゲームを買い求めていたこの場所で椎川と遭遇するなんて奇跡、起きるはずもないんだけどな。
念を入れておくに越したことはない。
「私は嬉しいけどね。久々に直生くんと2人きりでデートできて」
「デ、デートじゃないだろ。別に付き合ったりしてるわけじゃないんだから」
「男女が2人で遊ぶのは付き合ってなくてもデートって相場がそう決まってるの」
「なんだその相場ってのは……」
こうして俺は無事、うるはに疑惑の目を向けられることもなく、椎川に見つかることもなく目的のゲームを手に入れた。
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