第4-2話 「好きじゃないっ……と思う」

 私と杏樹が新谷んを尾行し始めてから新谷んは5分程歩き続け、百貨店の入り口の前で立ち止まった。


 私たちは新谷んの視線に入らないようお店の影に隠れて新谷んを観察していた。


「新谷ん、お店の中に入らないね」

「あの様子だと誰かと待ち合わせをしているみたいね」


 新谷んは仕切りにスマホの画面を覗いており、誰かと連絡を取っていることが伺える。

 スマホの画面を気にしていたり百貨店の前で立ち止まっている状況を鑑みると、やはり彼女と待ち合わせをしており連絡を取り合っているのだろうか。


「待ち合わせってことはやっぱり彼女?」

「まあ望結に今日がデートだって言ってたくらいなんだし、目的地が変わっただけでやっぱり普通にデートするだけなんじゃない?」

「なんだー面白くないなー」


 デートをすると言っておきながら1人で歩いているところを遠目から撮影し、新谷んの弱みを握って弄ってやろうかと思ったが、やはりこれは普通のデートのようだ。


 弱みは握れなかったが、シンプルに新谷んの彼女を一度生で見てみたいとは思っていたので、新谷んの彼女が登場するのを楽しみにして観察を継続した。


 また5分程経過してから、百貨店の前で立ち止まっている新谷んの元に1人の女性が現れた。


 その女性は亜麻色の髪を肩下程度に切りそろえて清楚系の服を着ており、動きやすさを重視して服を選ぶ私とは違うお淑やかなタイプの女性だった。


 会話の内容は私たちが隠れているところまでは聞こえてはこないが、その身振りから新谷んのかのじょが、「ごめん、待った?」と言い、それに対して新谷んが、「全然待ってないよ」と言っているのが分かる。


「ほら、やっぱりデートだったみたい」

「そっか……。せっかく新谷んが彼女いるって言ってるのは嘘だって証拠をとって月曜日から弄ってやろうと思ったのに」

「へぇ……。なんか望結、ちょっと寂しそうな顔してるけど、新谷くんのこと、好きだったりするの?」

「な、何言ってるの⁉︎ す、好きじゃないっ……と思う。多分。だって新谷ん彼女いるし」


 普段彼氏がいると嘘をついている私に好きな人の話をしてくる人はいないので気を抜いていたため、杏樹からの質問に私は狼狽してしまう。


 新谷んは世間一般的に言うところのいい男だとは思うが、彼女がいるので恋愛対象として見たことはない。


「別に彼女がいるからって好きになったらダメってルールはないでしょ? 望結は今まで散々な目に遭わされてきてるんだから、そんな時くらい厚かましくいってもいいんじゃない?」

「ま、まだ好きとかじゃないからいいの‼︎」

「ふーん。"まだ"ねぇ」

「もう‼︎ 茶化さないでよ‼︎」


 そうこうしているうちに、新谷んは百貨店の前から姿を消し、どこに行ったのか分からなくなってしまった。


 目的地は水族館ではなかったようだが、新谷んは2人でデートをしていたのだから彼女がいることを疑う余地はない。


「ごめんごめん」

「新谷んどこ行ったか分からなくなっちゃったし、尾行は諦めて遊びに行こっか」

「望結がそういうなら私はそれで構わないわよ」


 こうして私たちは新谷んの尾行をやめて女同士のデートを楽しんだのだが、そのデート中なぜか気分が上がらなかったのは、別に新谷んには彼女がいないのではないかと期待していたからなんて理由ではないことだけは理解していただきたい。

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