仏蘭西

フランス共和国(フランスきょうわこく、フランス語: République française、通称:フランス、France)は、西ヨーロッパ、カリブ、太平洋およびインド洋に位置する共和制国家。首都はパリ。


フランス・メトロポリテーヌ(本土)は地中海からイギリス海峡及び北海へ、ライン川から大西洋へと広がる。この他世界各地に海外地域および領土を有する。


(wikipediaより引用)


「ジィドは私の原言語であり、私の《原スープ》、私の文学のスープである」


フランスの哲学者・批評家であるロラン・バルトの言葉である。彼は偏愛する作家であるアンドレ・ジットに向けた言葉であるらしい。なぜこの言葉が今回の冒頭に書いてあるのか。それは私の昔話に関係する。


知っての通りいつも道理の自己語りの幕が開く。今日のアリスはどこへ向かうのか。暖炉の上の鏡だろうか。あべこべな世界に導かれ、彼女は何を見たのか。あぁ、勘違いしないで欲しい。私はアリスではない。アリスを見ている俯瞰者、と思い込んでいるだけの人間である。


「破壊された原スープ」という話をご存じだろうか。知らない人の方が多いだろう。とある週刊誌で読み切りで掲載された漫画だからである。話の内容としては、あぁここからはネタバレ注意だが、兄を何者かに殺害された弟は、地獄にいるとされるアルルカンに頼み、兄の復活を願う。それを聞き入れたアルルカンは犯人の命と引き換えに兄の命を現世へ戻すことに決めた。猶予は一日。その中で弟、ロランはアルルカンと共に家の使用人たちにアリバイ調査を行った。結局、メイドが犯人で、犯人は簡単に見つかってしまう。ロランはそのメイドを殺し、大好きな兄を生き返らせる………それが本来ロランが描いていたシナリオであった。そう、あった、のだ。


途中で、兄の人柄についての描写がある。ロランは「兄さんはいい人だ、自分をほめてくれ、とても感動的な劇小説を書くのだ」という。しかし使用人たちは「坊ちゃまはああは言っていますけど」と口を濁す。親が消えたロランを守ってきた兄、使用人たちから見た口を濁すような兄、どちらが正解だろうか。アルルカンは「作品で人柄は評価できない」と言う。


結論としては、メイドを殺してよみがえらせた兄は、とんでもない屑だった。弟のロランを実の母と重ね、体を強要した。両親が消えていた理由である母の顔の火傷も、全て兄の仕業だった。結局ロランは兄を近くの瓶で殴り殺した。殺したはずのメイドはまだ息があり、アルルカンが「間違えちゃったよ!」と部屋に飛び込んで来たときには、全てに片がついていた。最後にはアルルカンがこう話すのだ。


「君の原スープは、跡形もなくなっちゃったねぇ」


と。


私の拙い語彙力では表せないほどいい作品だった。だからこれほどまでに脳に鮮明に覚えている。かなり前に掲載された読みきりだったが、今でもロランの顔、アルルカンの顔を鮮明に思い出すほどに衝撃的だった。


さて、前座はここまでにして、本題に入ろう。私もそうであったのだ。かく言う私も、昔、と言っても近く一年前まではまさにこのロランと同じであった。私の初めての恋人は、そういう人だった。とてもいい人で、良く褒めてくれ、素晴らしい小説の書き手であった。今となっては素晴らしいと言えるのか危ういが、その時はまさにそうだったのだ。使用人たちの声が届かないロランと同じく、私も周りの声が聞こえていなかった。結論を言おう。捨てられたのだ。私がそう思っているだけかもしれないが、少なくとも私からすればそうだ。あれが言うには、私には非は無いらしい。私には非がないが、興味を失った。他の人と話している方が楽しいと、他人伝えで聞いた。あれとは最後の四か月、全く話さず仕舞いだった。私が話したくなかったのではなく、相手が話すことを拒否したのだ。私からの謝罪文を見ても尚。


別れた時、アルルカンが私に言うのだ。「君の原スープは、跡形もなくなっちゃったねぇ」と。今までの自分の立場を理解した。私はロランと同じ立場にいた。俯瞰できたはずなのに、しなかった。できなかった。そう思うと同時に、自分の労力の限界を感じた。あれに話しかけるのは、労力の無駄遣いだったのだと。


さあ、過去の話はこれでおしまい。まとめ?そんなものはない。最初に書いてあるだろう、私の自己語りだと。何かを警告したいわけじゃない。原スープについて、話したかっただけなのだ。まぁ、一ついうなれば、最近は人を見るようにしたということだけだろうか。


おやアリス、どうしたんだい?…そうか、喉が渇いたと言ったらクッキーを渡されたのか。それは大変だったね。ほらこのスープをお飲み。……喉が渇いて行くだって?ははは!私もあべこべだったとは!やはり俯瞰するというのは難しいものだな。さて、家への帰り道を時計ウサギに聞こうか。

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