てれてりててれ

江田真芽

第1話



 アラームを止めてカーテンを開ける。

今日は天気がいいらしい。朝日を浴びると途端に眠気が覚める。

 さて、今日の朝ごはんは何を食べようか。昨日は目玉焼きを食べたから‥今日は卵かけご飯にしよう。


 ーーこんな風に僕の1日は幕を開けるんだ。




 僕はしがない大学生だ。

田舎から出てきて、質素かつ地味な生活を繰り返す日々。


 講義を終えて荷物をまとめる僕の耳に、派手な集団の大きな声が届く。


 集団は5人。

5人だけが聞こえる音量で話せばいいのに、きっと彼らは周りを一切気にしていないのだろう。


 集団の中の1人、里山さんという女性が手を叩きながら脈略もなく言った。



「てれてりててれ!!」



 ーーーは?

てれてりててれ‥?


 なんだその言葉は。‥聞いたことないぞ。流行りの歌?新種の若者言葉?

 思わず荷物をまとめる手が止まる。いや、盗み聞きをしたいわけじゃない。否応なく聞かされてるんだ。


 その言葉の意味なんてどうだっていいんだけど、でもなんだか妙に耳に残る。


「はぁ?!やめろよそれぇ!!」


 里山さんの彼氏という噂の山崎くんが里山さんを咎めた。


 なんだ?呪いの言葉か何かなのか?


「きゃはは!ビビりすぎぃ」


「いやいやまじ白けるんだけど」


 5人のスピーカーモードの会話は延々と続いていたものの、【てれてりててれ】の話はすぐに終わってしまった。


 ‥‥えぇ‥なんだよ‥。気になるじゃないか‥。




 消化不良を抱えたまま僕は学校を出た。


 駅までは商店街を通る為、結構な人通りがある。


 クレープ屋の前でクレープを頬張る女子高生たちは今日も今日とて可愛らしい。

 

 そんな彼女たちの横を通り過ぎようとしたその時のことだった。



「てれてりててれ」


 ーーーーえ‥?


 僕の足が思わず止まる。

女子高生たちが2人、「いやだぁ」とか「えへへ」とかそんなことを言いながらキャッキャとはしゃいでいる。


 いや、なんなんだよ。てれてりててれ‥。


 足を止めていた僕を不審に思ったのだろうか、女子高生の1人と目が合う。


「‥‥‥あ、聞こえちゃいました?」


 キョロキョロと辺りを見渡すが付近に僕以外の人間はいない。僕は小さく頷いた。


「すみません~!‥まだ大丈夫ですよね?」



 ーーーーまだ???



「え‥‥ごめん、何が‥‥?」


「あっ」


 女子高生たちは顔を見合わせて困ったような表情を浮かべている。



「‥‥その、てれてりててれって何‥?」


「「ひっ!!!」」


 女子高生たちは途端に表情を歪めて耳を塞ぐ素振りを見せた。


 えぇ‥。

今日何故か2回もその言葉を聞かされたのに、僕が口にするとそんな反応するの‥?



「も、もう口にしちゃダメですよ!!その言葉は聞くのも話すのも1日に2回までなんです!!」


 女子高生のポニーテールが揺れてる。

僕、そういや‥黒髪の可愛い女の子と会話してるじゃん‥。いい日だな‥。


 って、そうじゃなくて。


「2回‥?」


「はい!3回聞いたり話したりすると、明日は二度と来ないらしいですよ!」


 女の子は頬にクリームをつけながら怖い顔をしていた。熱弁だ‥。


「そうなんだ‥。教えてくれてありがとう」


 僕はやっと消化不良を解消できて、そのうえ可愛い女の子と会話ができて、一瞬で満たされた気になった。


 爽やかに見えるように小さく笑ってその場を後にする。



 明日は二度と来ない、か‥。

まぁよくある怪談のうちのひとつだな。


 ‥むしろ、そんな話を信じる人が結構いるのが驚きだ。だってそれが本当なら、一体誰がその話を世に広めたんだよ。



 僕はこの日、ベッドに横になりながら【てれてりててれ】のことを思い出していた。


 スッキリできてよかった‥。

 そうして僕は目を瞑り、今日を終えるために眠りについた。



 ーーーアラームを止めてカーテンを開ける。

今日は天気がいいらしい。朝日を浴びると途端に眠気が覚める。

 さて、今日の朝ごはんは何を食べようか。昨日は目玉焼きを食べたから‥今日は卵かけご飯にしよう。


 ーーこんな風に僕の1日は幕を開けるんだ。

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