05話.[物理的に支える]
「冷えるな」
「うん」
確かに今日は特に寒かった。
でも、もう二十四時近くだから仕方がないという見方もできる。
ちなみに一緒に来ている花帆は既に和が背負って歩いていた。
触れていると暖かいというのと、意外にも夜ふかしはしないみたいだから辛いみたいだ。
「日付が変わったら私の家でいいのだな?」
「うん、いつも来てもらってばかりだと申し訳ないから」
「それなら早く変わってくれた方がいいな、花帆は重すぎる」
もう、なんでそんな言い方をしてしまうのか。
言うことを聞いているくせにそんなことをする必要はないだろう。
彼女の場合は花帆が寝ているときでもこれだから徹底していると言えばしているんだけど、こっちからすればもったいないとしか言いようがない。
だってふたりは普通に仲がいいからだ。
ふたりが仲良くなかったら私は花帆と出会うことすら不可能だったんだから余計にそう感じてくるわけで。
「素直になろうよ」
「え? あ、私がか?」
「うん、本当は花帆のことが好きなのになんで意地を張っちゃうの?」
「確かに嫌いではないが……」
「私、ふたりが仲良くしているところを見られるのが好きだから直してほしいな」
繊細な子だということは分かっているから怖いんだ。
仮に冗談のつもりでも突き刺さって来なくなる可能性がある。
そうなったら途端につまらなくなるからやめてほしかった。
まあ、自分のためにそうしてほしいと言ってしまっているわけだからあれだけど。
「私は真由の方が好きだぞ」
「そんなこと言わないであげて」
年内最後の日にわざわざ空気を悪くする必要はない――って、私が出したのか。
やっぱりこういうことが多くなるとあのときの選択が正しかったんじゃないかという気持ちになってくるわけだけど、結局こうして一緒に過ごしてしまっている時点で説得力がないから~ということになってしまう。
つまり、なにもかも私が悪いということで片付けられてしまうというわけで。
「ごめん」
「いや、謝らなくていい」
そんな会話をしている内にとうとう今年が終わるときがやってきた。
すやすや寝ている花帆を起こしてそのときを待つ。
とはいえ、もう何時間も待たなければならないとかではないからそれはすぐのことだった。
「変わったな」
ただ翌日になったというだけなのに不思議な気分になる。
「今年もよろしくね」
「ああ、よろしく頼む」
「よろしく~……」
留まり続ける必要もないから早速移動を開始した。
その際、彼女にばかり任せるのは違うから帰りは私が花帆を背負った。
よく親戚の子をこうして運んでいたから慣れているつもりだったけど、さすがに同級生を運ぶのはそこそこ辛かった。
「わーい、ベッドだー」
「やれやれ……」
彼女の家に、部屋に着いた途端にこんな感じで私も笑うことしかできなかった。
もう寝るみたいだったから私達は客間まで更に移動。
「お疲れ様だ」
「和もね」
寝ること大好き人間の私がこの時間まで起きているのは奇跡に近い。
が、大晦日から元旦までの時間は毎年何故か眠くならないからこれもちょっと不思議だったりもする。
だけどお昼ぐらいになったらそれはもう酷いことになるので、本当なら初日の出の時間まで寝ておくのがいいのかもしれなかった。
「和はこれからどうするの?」
「六時ぐらいまで寝るのもいいかもしれないな」
「あ、じゃあ交代交代で寝ようよ」
ふたりで寝たら間違いなく初日の出のことがどうでもよくなってしまう。
その点、交代制にしておけば万が一ということもなくなることだろう。
その際の問題は片方が退屈になってしまうことだけど……。
「それなら私が先に寝てもいいか? あ、その際は真由を抱きしめながらだが」
「分かった」
風邪を引いてもあれだからとちゃんと敷布団を敷いて寝ようとしていた。
敷き終えて彼女が寝転ぶと、ちょいちょいと誘われたから私も寝転ぶ。
そうしたらかなり優しい力で抱きしめられてなんかやばかった。
……これは頑張っていないと寝てしまいそうだ。
ちなみに彼女はすぐに寝息を立て始めてしまったからなにかを言ったところで意味がない。
「やっほー、起きていますかー――って、あれ」
無警戒に花帆が近づいてきたからその足を掴んだらかなり驚いていた。
いつも振り回されている分、こうやって遊んでもたまにはいいだろう。
いやでも寝返りがうてる程度の緩さでよかったかな。
「なんで捕まえられてるの?」
「最近の和はすぐにこうするんだよ」
「へえ、もう離れてほしくないんだろうね」
もう新しい年になったことよりもあともう少しでまた学校に通わなければいけないことの方が気になっていた。
今年の冬休みはあんまり楽しく過ごせている感じがしないから正直、延長したいところだ。
が、そんなことを考えたところでどうにもならないというのは分かっている。
だからいまからでも後悔しないようなそんな時間を過ごしたかった。
「ね、手を繋ご」
「それなら花帆も入りなよ、風邪を引いてほしくないから」
「はーい、じゃあ入らせてもらおうかなー」
ほとんど入れていないけどこれならまだマシなはずだ。
「今年の目標はね、真由ちゃんにうざ絡みをしないことだよ」
「それなら大丈夫だね」
「んー、どうかなー」
そうやって意識していれば変えられるから大丈夫だ。
私の場合は意識をしていても結局こうしてふたりを巻き込んでしまうからできないけど。
そう考えると、なんかそれがずるいことのように感じてくる。
なんでここまで違うんだろう、全く努力をしてこなかったというわけでもないのにさ……。
「貴様のそれは少し足りないな、私にもうざ絡みをしないようにする、だろう?」
「えー、和ちゃんにはしていないでしょ」
「私にしていないということなら真由にはしすぎてしまっている、ということか」
「うん、事実そうだからね」
とはいえ、あれからはただ近づいてきているだけとも言える。
家で過ごしているときも比較的落ち着いているため、いまのままいてくれればよかった。
変に丁寧なキャラになってもそれはそれで調子が狂うというものなんだ。
「和ちゃんの場合は真由ちゃんにべたべた触れないようにする、だよね?」
「それは違う、何故ならこれは当たり前のことだからだ。そうだな、今年の目標は今年も特に問題が起こらないように頑張る、だな」
私は……あ、極端な行動をしないようになりたかった。
あれは結果的に周りを振り回すことになるから駄目なんだ。
あとはふたりの力になれるようになりたい。
一緒にいるだけでとまでは言わないから、求められたときに役に立てるようにしたかった。
これならまだ難しすぎるということもないだろう。
「あとは絶対に真由から離れない、だな」
「本当に好きだねー」
「好きだ、だからなるべく不安にさせないように頑張ろうと決めたのだ」
それなら私にできることは近くにいるということだ。
そうしなければ逆に彼女が不安になってしまいそうだから仕方がない。
こう言ってくれて嬉しいとは思っていても、……ラッキーとか考えたことはない。
それにやっぱり彼女といられないのは嫌だからどちらにしても駄目なんだ。
私にとっての当たり前というやつを自ら取り上げようとしているんだからおかしくなって当然だと言える。
だから安心してふたりに囲まれながら寝ることにした。
正直、たったこれだけのことで初日の出を見ることよりも価値があった。
「寝ているな」
「寝てるねー」
私達がいるというのにすやすやと寝ていた。
現在はまだ五時といったところだから寝ていていても全く問題はないのだが、少し気になるのは確かだった。
救いな点は、いつもうるさい花帆も静かでいてくれているということだ。
まあ、正月から馬鹿騒ぎするような人間はいないだろう。
「結局、怒らなかったんだ」
「真由だからな」
私が面倒くさい絡み方をしてしまったときもそうだった。
その割にはよく謝ってくるからなんだこれは……という感じになる。
私としてはもっと堂々としていてくれればよかった。
一緒にいてやっているのだぞ、そういう感じで十分だった。
だって私達がいてあげている、からではないからだ。
「あんな絡み方をしてもまだ仲良くしたいって言ってくれたんだ、真由ちゃんって昔からずっとそうなの?」
「ああ、責めてくるということはほとんどないぞ」
「そうなんだ」
とはいえ、決して損なことばかりということはなかったと思う。
もちろん、本人ではないわけだから実際のところどうなのかは分からない。
でも、私が「真由」と声をかけると嬉しそうにしてくれたから……。
「そういえばなんでそんな喋り方にしたんだっけ?」
「……異性にからかわれたからだ」
「でも、そうしていたら余計に絡まれない?」
事実、そういうことは沢山あった。
だが、高校生になってからは一気になくなったから気にしていない。
ちなみに、家族相手には普通に話しているから両親は外でこんな話し方をしているということを知らない。
「……それに真由が格好良くていいと言ってくれたからな」
「なんでも真由ちゃんですな」
「ああ、それぐらい大切なのだ」
申し訳ないが、花帆と真由だったら間違いなくすぐに真由を選ぶ。
それぐらい一緒に過ごしてきた時間が違うということだ、それぐらい私達は仲良くやれてきたということだ。
真由だって私のことを考えてああしただけで、本当なら一緒にいたいはずなのだ。
だからこれからは気にせずにもっと行く、なるべくひとりにしない。
こう言ってはなんだが、あのグループなんかより優先すべき対象だったというのになにをしていたのかとツッコミたくなるぐらいだった。
そのせいで面倒くさい花帆にこの子が絡まれることになってしまったわけだし、私がしてしまったことというのは結構重い。
「真由ちゃんばっかりを優先する和ちゃんは微妙だな」
「安心しろ、真由は私達が仲良くすることを望んでいるのだからな」
それに、彼女だって友達なわけだからどうせ適当にはできない。
こちらとしても意外と気に入っている、というのが現実だった。
ただ、そんなことを言えば確実に調子に乗るので、絶対に言ったりはしないが。
とにかく、私達は三人でずっと一緒にいればいい。
例え周りに嫌われてもふたりがいてくれればなんとかなる、できる。
「贅沢だね」
「真由だけがそうというわけではない、私だって色々なことを望んでいるからな」
兎にも角にも、一緒にいなければ始まらないことだ。
「花帆は本当に行かないのか?」
「うん、結局言ってしまえば太陽だからね。そりゃ確かにいつもお世話になっているけどさ、寒いのを我慢してまで見る価値はないかなーって」
「ふっ、それを言ってしまったらお終いだろう」
「ははは、でも、真由ちゃんが誘ってきたら分からないかな」
なるほど、それなら誘ってくれることを願っておこう。
これ以上話していると起こしてしまうからリビングに移動することにした。
エアコンの使用は許可されているから遠慮なく使用させてもらうことにする。
何気に真由の家はそういうのがないから辛いところもある……のかなと。
「ほら」
「ありがとう」
温かい飲み物を飲むと不安でもないのにほっとする。
ついでにぼけっとしたくなるが、彼女がいるから間違いなくそれはできない。
「私、真由ちゃんと仲良くしたい」
「きっと喜んでくれるだろうな」
こちらは変な絡み方をしてくれなければそれで十分だ。
仮にそれで彼女を選んだとしても納得できる、少なくとも面倒くさい絡み方はしないと約束しよう。
流石にそこまでわがままな人間というわけではないし、真由を困らせるぐらいなら自分が離れた方がマシだから。
だが、その前に行動するかもしれないと考えている自分もいた。
「意外なのは花帆がちゃん付けで呼んでくることだ」
「あー、別にこだわりがあるわけじゃないんだけどね」
少なくとも真由みたいなタイプこそちゃん付けで呼びそうなのにそうではないということに不思議な気分になる。
もっとも、毎回そうではなくてこう考えたときのみのことではあるが。
ちなみに、私の場合は真由から名前で呼んできてくれたわけだから花帆とは違う。
「そうか、そろそろいいかもね」
「ああ、別に気にしないだろうからな」
止める権利はないし、また、権利があっても止めるつもりはない。
ただ普通に仲良くする分には自由にしてくれればよかったから。
だから真由さえよければ受け入れてあげてほしかった。
「うぇ、なんで和ちゃんが寝てるの……」
残念ながら彼女が運ぶことになってしまっていた。
結局あの後も全く寝ていなかったみたいだからこうなっても仕方がない気がする。
ちなみに本人は置いていけばいいと言ったんだけど彼女がそれを受け入れなかったんだ。
結果、こうしてある程度の場所までお正月から鍛えるようなことになってしまっている、ということになる。
「でも、花帆も来てくれて嬉しいよ」
「うっ、なんで真由ちゃんってそうなの?」
「仲良くしたいからだけど……なにかおかしい?」
「おかしくないけどさー」
まあ、結局のところは贅沢思考をする人間だったということだ。
あれもこれもそれもと求めてしまうそんな人間。
だというのに自分の方はできることが全くないというもどかしい状態だった。
なにをすればふたりは喜んでくれるのだろうか?
一緒にいるだけでいいだなんて自惚れるつもりはなかった。
「ここら辺でいいよ、見られればそれでいいからね」
何気に彼女達の家の近くは高い場所になっているからここでも問題ない。
というか、和の部屋のベランダから見ても十分楽しめたんだ。
それでも私達はこうして毎年集まっている場所にまた来ていた。
ここで見た後は大晦日と違って結構長く会話をしてから帰るからそれもわくわくするというものだ。
「交代しよ、このままじゃ花帆が疲れちゃうから」
「ありがとう、でも、大丈夫だよ」
……彼女にばかり安心して身を任せている和を見たくなかったというのもある。
でも、ここで意地を張ったところで仕方がないからやめておくことにした。
それにあともう少しで太陽もはっきり見られるようになるから問題ない。
それで多少は暖かくなるから和もきっと起きてくれることだろう。
「真由ちゃん、私、真由ちゃんと仲良くしたい」
「いいの?」
「うん、今度は絶対にあんな態度にはならないからさ」
仮にあれが素だということならそれでも構わなかった。
あれは和といられない寂しさからきているものだとは分かったというのもある。
もう知らなかった頃とは違うし、私も私で少しずつ成長しているから上手く対応できるんだ。
だから今度驚くことになるのは彼女の方だ――なんてね。
「いいんだよ、花帆は面倒くさいぐらいが丁度いいから」
「うぅ、なんか責められてるよぉ」
違う、彼女も彼女で安心できていいということだ。
そうでもなければ今日誘ったりなんかしていない、昨日だってそうだ。
多分、この子が考えている以上に私は彼女のことを好きでいる。
ただ、いまのままでは伝わってこないみたいだからもっと一緒にいる時間を過ごして本当のところを知ってもらうしかない。
勝手に決めつけられるのはさすがの私でも不愉快だった。
「もし勝手に離れたりしたら和ちゃんに協力してもらってぼこぼこにするから」
「え、怖いな……」
「ふふ、冗談だよ」
そんなことにならないように頑張るから問題ない。
仮に嫌になって離れることを望み出したら私としては止められない。
私自身を嫌になってしまったら和がいたってきっと変わらない。
考えれば考えるほど不安になっていくから慌てて捨てた。
「花帆」
「ん?」
「好きだからいてね」
そう言ってから和を起こしたうえに背負わせてもらった。
私にだってできる、物理的に支えられるんだと知ってほしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます