04話.[姉になった気分]
クリスマス当日、私はお昼に終わったのをいいことに教室でゆっくりしていた。
早く帰っても誰もいないし、誰かがいてもなにも始まらないからこれでいい。
チキンを買って食べるとかそういう無駄な抵抗をするつもりもないので、いつもよりかなり早い完全下校時刻まではここにいようと思う。
ちなみに和と花帆は既に出ていった、どころか、クラスメイトは全員ここから消えている。
だから私はこの落ち着く場所を独占できているということだ。
まあ、クラスメイトからすれば友達と盛り上がることや、美味しい食べ物を食べられた方がいいだろうから、これは「はあ」って感じのあれだけど。
「もう十五時か」
今日はこれで帰らなければならないから移動を始めた。
これから更に時間つぶしをしなければならない。
独占しようとしていなくたって勝手にそういう状態になるのはなんとも言えない感じだ。
時間つぶしをしている最中、これこそ強がりなんじゃないかという嫌なあれが出てきて慌てて捨てる。
ショックなんて受けてなんかいないから勘違いしないでほしい。
それにゆっくり寝られるということは幸せなことなんだからと、結局、強がりみたいなことを言いつつ家まで歩いた。
風邪を引いたら馬鹿らしいからしっかり暖まった状態で寝た。
明日からとりあえず来年の六日まで学校には行けない。
それはつまり、毎日こうしてひとりで過ごすことになるわけで。
「……寂しい」
駄目だ、このままじっとしていると心が駄目になる。
なので、しっかり防寒対策をしてから外に出た。
今日こそ外食でもしてすっきりさせた方がいい。
多分、美味しいご飯を食べられれば単純な脳だから大丈夫なはずなんだ。
で、美味しいご飯を食べて帰っているときのことだった。
「真由……?」
「あれ、なんでこんなところにいるの?」
和と遭遇することになったのは。
何故? と考えたところで当然出てこない。
時間はまだ十九時というところだから解散したにしては早すぎるだろう。
「あ、もしかして花帆と待ち合わせをしていたとか?」
「そんなわけがないだろう、もしそうなら家から一緒に行動しているぞ」
「そうだよね、じゃあなんで?」
「真由はなにをしていたのだ?」
質問に質問で返さない、そうツッコミたくなったけど我慢した。
隠しても仕方がないから家からのことも含めて全て教えておく。
寂しくなったんだから仕方がない、隠したところでばれるんだから仕方がない。
「そうだったのだな」
「うん」
こうして会えたのがいいことなのかどうかは分からないままだ。
いつもだったら抱きしめているぐらいだけどさすがにそれはできない。
やっぱり私といないときの方が自然と楽しそうだからだ。
いまのままでは義務感みたいなのが出てきてしまって彼女を駄目にしてしまう。
「実際のところを言うと……抜けてきたのだ」
「え、楽しくなかったの?」
「ああ……、なんか楽しめなかったのだ」
こっちまで歩いてきていたのは気分転換のためにだったらしい。
彼女でもそういうことはあるんだ。
なにか不満があっても無難にやり過ごせる子だったから驚いた。
「……丁度いい、真由さえよければ一緒に過ごそう」
「いいの?」
「私が聞いているのだ」
「じゃあ私の家に来てよ、それで泊まってくれると嬉しいかな」
「分かった、それなら着替えを持って行かなければな」
私がわがままを言って付き合ってもらっているわけではないから問題ないと思う。
それに今日ぐらいは一緒に過ごしたところでバチは当たらないだろう。
これまでずっとクリスマスは一緒に過ごしてきたんだからこれが普通、なんだし。
「あんなところで真由と遭遇するとは思わなかった」
「私だってそうだよ」
家の近くならともかく全然違うところで会うことになったんだから。
ただ、彼女が話しかけてきていなければ気づかないままだった可能性もある。
まさかこんなところに彼女がいるわけがないという思考でいたからだ。
私と違って極端なことをしないでいられる強さを持っているからだ。
「来い」
「え? わっ」
近づいたら無理やり頭を抱きしめられた。
下手するとぼきっといくかもしれないからもう少し加減をしてほしい――というのは冗談として、これは花帆と過ごせなかったからこその行為なのだろうか?
仲のいいあの子と過ごせなかったから楽しめなかったと、そういうことだろうか?
あのグループに誘おうとしたぐらいだからその可能性は高い。
「なんで花帆を誘わなかったの?」
「今年は家族と過ごすと言っていたからな」
「そうなんだ、今年に限ってそうなるなんて和にとってはツイてないね」
「どういうことだ?」
ああ、花帆ばかりを優先すると私が悲しむと考えたからか。
彼女はいつまでも変わらずに優しい子だった。
今日だって遭遇していなければ誘ってきてはいなかったわけだし、いつも私の望みを叶えようとしてくれている。
「……真由、私は一緒にいたいのだ」
「うん、分かってるよ」
私にできることならなんでもする。
花帆はなにかと来るようになっているから確保しておくことぐらいはできる。
その後は私と違うんだから彼女自身が上手くやるだろう。
で、私はそんな楽しそうに一緒に過ごしているふたりを見て楽しむんだ。
「だから……学校でも遠慮しないで来てほしい」
「花帆は遠慮しないよ」
「は、……これはまたベタな返事だな」
彼女はこちらを離すと呆れたような顔で見てきた。
ん? と考えている内に再度抱きしめられて「真由といたいのだ」と。
ああ、もしまたそうすることができたならどれだけ嬉しいか。
でも、義務感とかそういうのからきている気がして怖かった。
仮にここで聞いたところで「そんなわけがないだろう」と言われるだけだ。
「あんなことを言われて傷つかないわけがないだろう?」
「でも、私は和のためを考えて……」
「残念ながら私のためには全くなっていないぞ」
あそこで離れておくのが結果的に彼女にとってはいいはずだったんだ。
一ヶ月でも時間が経過すればなんで一緒にいたんだろうと気付けるはずだった。
花帆だっていてくれるし、なにより、グループの子達だっていてくれる。
……ただ、私がちゃんと一緒にいればそっちでも百パーセント楽しめるんじゃないかという考えも出てきていて……。
いや違う、これはただの願望だ、私が一緒にいてもらいたいからだ。
「もうこれからは張り付いているからな」
「か、花帆の相手もしてあげて、あの子は和といられることを嬉しく思っているんだから」
ちょっと違う子達と盛り上がり始めただけであそこまで変わってしまうぐらいなんだから。
私の方にはあくまで思い出したときにだけ来てくれればいい。
……結局求めてしまうのはもう仕方がないことなんだと片付けておく。
だって、私は彼女のことが大好きなんだから。
「その花帆だが……ふっ、まあいいか」
「そんな言い方されたら気になるよ」
「いや、特になにもないのだ」
特になにもないならそんな言い方をしないでほしい。
昔からこうやって大事なことを言ってくれないことは多かったからそこは微妙だ。
私には言えないということならなにかがありますよ~的な言い方をするべきではない――って、これも同じことか。
「今日は楽しもう」
「そうだね」
せっかく一緒に過ごせているんだからそうだ、楽しまなければ損だ。
あ、そういえばと思い出して買ってきていた物を渡しておいた。
そうしたら「ありがとう」と笑って言ってくれて嬉しかった。
「はい――」
「真由たんどーん!」
もう今年も終わるというのに彼女は物凄く元気だった。
でも、硬く冷たい床に押さえつけられているのは正直微妙だと言える。
単純にどちらにとっても危ないからというのもある。
「昨日ね、結局和と過ごしたんだ」
「え、なんでそれを私に?」
「し、嫉妬されて荒れても嫌だから」
「ぶふっ、あははっ」
ちなみに彼女の方は強がったとかそういうことではなく、ちゃんと家族と過ごしたんだということを写真で教えてくれた。
最近の様子だけで考えればそれでもひとりで過ごしている可能性もあったからこれは少し意外だったかもしれない。
「確かに和ちゃんとはいたいけど、そこまで独占したいとは考えていないよ」
「え、あそこまで狂ったのに?」
「ちょいちょい、なんか言い方に悪意を感じるんですが……」
彼女は和以上によく分からない子だから対応が難しい。
分かっていることは相手が和のときみたいにしてはいけないということだ。
なにが地雷なのかが分からない、いつ爆発してしまうのかが分からない。
いまさらになってなんでここまで一緒にやってこられたのかが分からなくなってくるぐらいの相手だからなおさらそうなる。
「それより私にクリスマスプレゼントは? 和ちゃんにはあげたって聞いたけど」
「え、特にないかな……」
「えー! なにもないのー!?」
う、うるさ……。
そもそもどうしてあると考えてしまったのか。
あのときの態度や言動だって彼女の一部なんだ。
つまり、私に対してだけはああいう態度でいていいと考えているのと同じこと。
むかついたぐらいなのに用意をしているわけがないだろう。
「じゃあここからなにかを貰っていくから!」
一体、玄関からなにを貰っていくと言うのだろうか?
ここにあるのは靴とか消臭剤とかそれぐらいだけど。
それを言ったら「真由たんの馬鹿!」と言って階段を上がっていった。
恐る恐る部屋に行ってみるとそこには、
「ふへへ、いい物がいっぱいだぜ」
悪い人になった友達がいた。
今日ほど和を呼びたいと思った日はない。
でも、あれは昨日限定みたいなところがあるからそんなことはできない。
そもそも、先程帰ったばかりだからね。
「くんくん、うん? なんかここから和ちゃんの匂いがする」
「一緒に寝たからね」
「ほほう、それはまた素敵なナイトだったようですね」
とはいえ、ただゆっくり話していたというだけだ。
あの子もすぐに寝てしまったからそこまで盛り上がったわけではない。
「じゃあこれでいいや」
「え、枕は困るよ」
「貰わないから、これを抱いて寝るのー」
で、数分後にはすやすや寝息を立て始めてしまったという……。
仕方がないからこっちも床に寝転んでゆっくりしておくことにした。
雨が降っているとかそういうことではないのに何故かしんみりとしている。
これはなんの時間なんだろう。
彼女はどうして私のところに来ているんだろう。
体を起こして寝顔を見てみても分からないままだ。
「花帆」
自分のことすらあれなのに分かるわけがないと片付けてまた寝転ぼうとしたとき、急にぐいっと引っ張られて危うく顔と顔が衝突するところだった。
ただ、そのまま布団の中に入れてしまったから暖かくていいかもという感想が出てきた。
「……あのときはごめんね」
「もういいよ」
ずっと謝られるのも困るということを今回のことで知った。
あと、単純な自分だから謝られただけでむかついたこととかどうでもよくなってしまうんだ。
それに花帆にだってお世話になっているんだからあれぐらいは受ける必要があったのかもしれないということで片付けている。
「正直ね、和ちゃんがいなくても私みたいに乱されることなく過ごすことができる真由ちゃんに嫉妬していたところがあるんだよ」
「だってあれは自分からしたことだったからね」
自分から離れてほしいと頼んでおきながら寂しさとかを全面に出せるわけがない。
そんなことをするぐらいならそういう極端なことをしない方がよかった。
一緒にいながらでももう少しぐらいは上手くできたんじゃないかと自分でも後悔しているぐらいなんだから。
だから彼女が言っていることは間違いだ。
なにより、結局私は寂しさを抑え隠し続けることができなかったんだ。
「相手のことを考えて動けるのはいいことだよ、でも、それでずっと昔から一緒に過ごしてきた相手を遠ざけてしまうのは馬鹿だと思う。それに、私がそんなことを言われたら悲しくて泣いちゃうよ」
馬鹿なのは事実だからなにも言えない。
なにもしないときはとことんしないし、やっと動こうとしたらああやって極端なことしかできないから自分に呆れてくる。
それでも、あのときは間違いなくあの子のことを考えて行動していたんだけどな。
「花帆はもう馬鹿って言いたいだけだよね?」
「だって馬鹿なんだもん」
「ふふ、そんな馬鹿な人間のところにも来てくれるのは嬉しいよ」
私にはできないことをしている。
多分、仲間外れにしたくないのは彼女も同じなんだ。
ひとりにさせていると不安になってしまう、なんてこともあるのかもしれない。
それはつまり私の嫌な義務感から~というやつだけど、でも、なにもそれだけじゃないよね? と考える自分も出てきたんだ。
あの子ほどではないけど彼女とだっとずって一緒に過ごしてきたんだから。
今年を含めればもう四年も一緒にいるわけだからね、なにもないわけがないんだ。
「……まだ仲良くしたいって気持ちはあるの?」
「うん、あ、だけど二度目の失敗をしたらもう捨てるけどね」
「え、じゃあ……もうないってこと?」
「ううん、まだあるよ」
仲良くしたくないのであれば今日こうしてここには入れていない。
どーんとされていた後に外まで戻して扉を閉じている。
仮にこうして部屋まで突入されてしまっていたとした場合でもやりようはいくらでもある。
だから、それをしていないという時点で分かってほしいものだった。
「前にも言ったけどさ、私が面倒くさいから友達も面倒くさいぐらいなのが一番なんだよ」
あの子みたいにしっかりしすぎているのも問題なんだ。
その点、彼女はほにゃほにゃだから一緒にいて不安になることもない。
それにきっと和も三人で楽しく過ごせることを求めている。
そうなったときに私達が不仲だったら困るだろうからそういう意味でもできない。
「……私、相当面倒くさいよ? それでもいいの?」
「うん、これまでと同じように仲良くしたい」
彼女はわざわざ反対を向いてから「分かった」と。
勘違いされたくないからあくまで友達としてと言ったら、
「分かってるよ!」
すぐに戻してこっちの頬を引っ張ってくる彼女。
怒っている感じなのに笑っていたから気にしないようにしておく。
ちなみにまた誰かが来たから彼女が「はーい」と出ていった。
「和ちゃんが来てくれました」
どこか納得のいかないといった感じの顔をしている和が現れた。
部屋に入るなりどかっと私のベッドに座って、こっちを睨んできた。
理由が全く分からなかったから、恐らく向こうからすればアホみたいな顔だったと思う。
「どうして貴様がいるのだ」
「えぇ、いきなり来ておいてそれー?」
「はぁ、貴様はよく分からない女だな」
「分かりやすい人なんてあんまりいないんじゃないかなー」
なんで集まるとすぐにこうなってしまうんだろうか?
学校とかだとあんなに仲良さそうにできているのに、やっぱりどっちも面倒くさいかも。
素直にならないと損だということは今回の件でよく分かった。
私はまた喧嘩みたいになっても嫌だから止めておいた。
「大体、真由にも原因があるのだぞ?」
「え? なにかしちゃった?」
「……どうしてすぐに花帆を呼ぶのだ」
「それは花帆が優しいからだよ、私のことが放っておけないんじゃないかな」
私ももっとしっかりできるように頑張らなければならない。
矛盾しているけど、ふたりがいれば何故かそれができる気がした。
……ふたりはそこにいるだけで相手に力を与えられるんだから羨ましい。
私にもそういう能力があれば和だってもっと一緒にいてくれようとするのに……。
「花帆が優しい……だと?」
「あー、その言い方はなんか気になるなー」
「黙れ、こいつは優しくなどないぞ!」
また暴れだしたから今度は物理的に押さえて止めた。
やっぱりこうなるんだからと、年頃の妹がいる姉になった気分でいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます