03話.[決めたのだった]
十二月になった。
依然として和はグループの子達と楽しそうにしている。
授業中はしっかり切り替えているし、賑やかだけど騒がしいわけではないからそう敵視されているわけではないだろうと片付けている。
「今日は調理実習、ちなみにキミと私は同じ班、だからよろしく頼むぜよ!」
彼女はよくキャラ作りに失敗していた。
お昼前に食べ物が食べられるから嬉しいのかもしれないものの、もう少しぐらい自分らしくいた方がいい気がする。
それすらやっぱり嫌だということなら話しかけてこなければいいのにね。
が、何故か彼女は毎日飽きもせずに話しかけてくるから馬鹿かな? とか失礼なことを考えてしまっていた。
とにかく、そういうことだから家庭科室に移動することになった。
班は自由にではなく決められたものだ、何故彼女と同じなのかが気になった。
席が近いわけでもないのに……。
「はいキミ非効率ー」
「そこっ、もっとてきぱきっ」
「はぁ、なんでキミはそうなのかなあ」
ちなみにこれ、一時間の間に全て私が言われたことだ。
でも、あの子が誰よりも上手に、そして効率的にやっていたから文句は言えない。
もちろん他の子とは仲良さそうに話していたから雰囲気も悪くはなかった。
私の方は嫌になったから食べることはしないでいた。
そのかわりに洗い物とかは全てやらせてもらったけど。
なんか書かなければならないやつには雰囲気でそれっぽいことを書いておいたからそう問題にもならないだろう。
「やれやれ、キミは駄目だねえ」
さすがの私でも呑気に対応することはできない。
簡単に言ってしまえばむかついている。
人生で初めて嫌われてしまえとか考えてしまった。
まあ、嫌われているのはこっちなんだけど。
「いい加減にしろ」
唐突にやって来た和は怖い顔をしていた。
そういう顔で見られても彼女は全く気にしていませんよーという顔だった。
ある意味メンタルが強いということだから少し羨ましい。
私だったら和に睨まれている状態で笑ってなんかいられないから。
「貴様は前々からそうだ、どうしてそういう絡み方しかできないのだ」
最近になって暴走している理由は和が他を優先し始めたからだと考えている。
彼女のおかげでなんとかなっていたのにその前提がなくなったから溢れたんだ。
だからこの子もある意味、被害者なのかもしれない。
「説得力がない」
「は?」
「他を優先して放っておいているくせに偉そうに言う資格なんかないでしょ」
「いまその話をしているわけではない、貴様が――」
花帆は頭の後ろで両手を組んで「そんな変な喋り方をしている子に偉そうに絡まれ方について言われてもねー」と更に煽った。
私的には和にも言えるんだと驚きだった。
これまでは絶対にそういうことを言ってこなかったのに冷静じゃない。
「結局大事なときにはいなくて『私は心配している』的な感じでいられてもね、この子だって信じられないでしょうよ」
「大事なときにはって……」
「私と同じで面倒くさいから切ったんじゃないの? その証拠に、朝の挨拶ぐらいしかしていないよね?」
切った相手に関わり続けるこの子はやっぱり馬鹿だ。
なんて、こんなことを考えているから切られるんだと証明してしまっている。
つまり、私達の間には結局……なにかがあったようでないのかなと。
だってそうでもなければ簡単に切れないでしょ?
「素直になりなよ、本当は邪魔だったんでしょ? この子から離れられて実は喜んでしまっているんでしょ?」
「うるさい!」
「それは和ちゃんの方だと思うなー」
元々感情的になりやすい子だからこうなるのは予想できていたことだった。
でも、このふたりが本格的に言い争いしているところを見るのは嫌だ。
花帆は気にせず更に煽っていく。
もう冷静ではないからいつもみたいに対応することはできないでいた。
「このっ!」
私のぽんこつ反射神経でも間に合ったからなんとかなった。
まさか手が出てしまうほどなんて普段を考えればありえないことだ。
もちろん痛かったけど、そのまま気にせずに腕を掴んで退室する。
逃げて逃げて逃げて、とにかくいまだけでも逃げられればいいから離れた。
「はぁ、はぁ」
私のぽんこつ体力ではそれだけで息切れをするぐらいだった。
彼女はうつむいてしまっているから……どうしよう。
ただ、いま冷静になりなよとか言ったら今度こそ私が殴られる自信しかなかったので、話し始めるのを待つことにした。
幸い、まだ花帆が現れたわけではないんだからゆっくりでいい。
「……す、すまない」
気にしなくていい、とかも言わなかった。
こういうときは私だったら黙って聞いてもらいたいからだ。
こういうときになにかを求める子であれば無意味どころか逆効果だけど、別に不安になる必要はないと考えていた。
「確かに花帆の言っていたように余計なお世話だったのかもしれないな、少なくとも側にいなかった私には偉そうに言われたくはなかっただろう……」
このタイミングで来てくれたのは普通に嬉しい。
だけどふたりが言い争いをすることになると分かっていたのなら、それを事前に止められるのなら私だったら止めさせてもらう。
まあ、事前察知なんてほとんどできないから意味のない妄想だ。
だって結局こうして巻き込んでしまったんだから。
「……な、なにか言ってくれ」
「花帆と仲良くしてほしい」
「だがそれは……」
「あの子は和といられなくて荒れているだけなんだよ」
絡まれても多少むかつく程度で終わるから問題ない。
それよりふたりが不仲になることの方が私にとっては問題と言える。
現状を変えられるのは彼女だけなんだ。
「私のことはいいから」
「真由……」
そのタイミングで花帆がこの場所にやって来た。
彼女の背中を押すと不安そうな顔でこちらを見てきた。
「花帆、花帆は和といられなくて寂しいんだよね?」
「そうだよ」
「うん、だからはい」
ちょっとあれだけど自分が格好いいとか思ってしまった。
ここで多くは語らずに去るあたりが特にね。
喉が乾いていたから真っ直ぐ教室には戻らずにジュースを買って飲んだ。
これまた甘いうえに冷たくて美味しかった。
「あれ」
ずっと違和感があったんだけど今日それがなんでか分かった。
何故なら和がグループの子とはいないで花帆といるからだ。
んー、私的にはこの方がしっくりくるけど、グループの子達からすればそれは不満かもしれなかった。
だってせっかく誘えたのに少し前の形に戻ってしまったことになるからだ。
まあでも、そこは本人達がなんとかすればいいことだから気にしないようにしておいた。
私が関わると悪いことにしかならないと分かったからね。
とにかく、テストがもう近いということで毎日勉強を頑張っていた。
家でやると集中力が恐らく続かないから放課後の教室に残ってやっていた。
で、そんなことをテスト当日までやっていたわけなんだけど、
「ごめん」
と、今度は謝罪タイムになってしまって困っていた。
それでも気にせずに勉強をして、無事にテスト本番もやり終えた形になる。
期末テストが終わったということで少し浮かれている私は、終わったのをいいことにひとりでご飯を食べに行ったりもした。
頑張ったご褒美だからケチらずに高い料理を注文して食べた結果、毎日こういう感じだったらいいのにとわがままな自分が現れてしまったが頑張って抑える。
大体、こういうのはたまに食べられるからいいんだ。
毎日続けていたらそのありがたみが分からなくなってしまう。
「どこに行ってたの」
「あれ、なんでこんなところにいるの?」
たまたまこのルートを選んでいなかったら出会えてもいなかったのになにをしているのか。
彼女は納得のいかないといった風な顔になり「質問に質問で返すな」と。
和と過ごせているのにまだなにか不満なようだ。
この前みたいに私がいるというわけではないのにわがままなのかな? と言いたくなる。
「ご褒美としてちょっとお高いお店に行ってきたんだ」
とはいえ、二千円ぐらいの料理を頼んだというだけ。
そのため、かなりお腹いっぱいの状態だから早く帰って休みたかった。
下手に動いていると腹痛になりそうなレベルだからそうなってほしくはない。
「なんでひとりで行くの」
「なんでって言われても困るよ」
無理やり出すなら、やっと和を解放してあげられたから、そう答える。
また、そう口にしている彼女が一番気にするだろうからというのもある。
どうせ私が近づいたら裏では嫌な感じになることは分かっている。
それを分かっていて敢えて近づく人間がいたらMと言われても仕方がないね。
「真由……ちゃんの家に行っていい?」
「なにもないよ? それでいいならいいけど」
ゆっくりしたかったから飲み物を渡してからは寝転んでいた。
テスト勉強だってとりえあずはしなくていいんだ、これはもう極楽すぎる。
残念ながら暖房機器があるわけではないけど十分心地がいい。
「なんで来ないの?」
下手をすれば彼女がいることを忘れてしまうぐらいには幸せな気分だった。
でも、こうして一緒にいるわけだからごろごろとしているだけでは駄目だった。
「和のためだよ」
「和ちゃんは真由ちゃんともいたいと思うけど」
近づいてきていないし、露骨に暗くなっていないし、それはありえない。
前彼女に言われていたように本当のところに気づいたのかもしれない。
それかもしくは、私がああやって言ったから近づかないようにしてくれている可能性もある。
和はそういう子だからその優しさを利用したくないというのもあったんだ。
「いま和の話はいいよ」
どうせここにはいないんだし、少なくとも今年中はいまのままだろうから。
自分から出しておいてあれだけど、名前を聞く度に会いたくなるから駄目なんだ。
自分勝手でいいなら私はあの子といることを間違いなく選ぶ。
他の人間に嫌われてもいいからあの子にだけは嫌われたくないとまで考えたことがあるんだ、なにも突飛で、勢いだけのものじゃない。
彼女がなにをしたいのかは分からないままだ。
他を優先されているというだけであの荒れ具合なのに自らそうなるように行動していてやっぱり馬鹿だと言いたくなる。
「それよりご飯は食べたの?」
「食べてない、ずっとあそこで真由ちゃんを待っていたから」
「なら作るよ、オムライスぐらいなら作れるから」
ささっと作って食べてもらっている間に部屋の掃除をしてきた。
テスト週間でそちらにばかり集中していたからちょっと適当だったからね。
やっぱり寝るところぐらいは綺麗なままであってほしい。
気持ち良く寝られないと次の日に頑張れないから日々少しずつやっておくべきだと思う。
「……真由ちゃん、入るよ?」
現れた彼女は物凄く弱々しそうな顔だった。
口に横に器用にソースをつけていたからティッシュで拭かせてもらう。
「そういえば花帆がここに来るのは久しぶりだよね」
「そういえばそうかも」
六年生のときに来たのが最後だからなんだか不思議な感じだった。
それぐらいから一緒にいるのに所詮こんなものかと呆れている自分もいる。
どちらかと言えば私が和和和とそちらにばかり意識を向けすぎていたのかもしれないけど。
踏み込もうとしなければ仲良くなることは不可能だ。
待っているだけじゃなにも変わらないし、まるでそういうことを期待していないように他者からしたら見えたかもしれない。
つまり、彼女があそこまで荒れてしまったのはやっぱり私が関係していたということだ。
なんでも自分のせいだと考えるのは傲慢だけど……。
「真由ちゃんは馬鹿だよね」
また始まったのかとため息をつこうとしたら彼女は慌てたような感じで「あ、ち、違うから」と言ってきた。
「……怒ってもいいのに怒らないし、こうして家まで連れてきちゃったからだよ」
「正直むかついたけど、仲良くできるなら仲良くしたいと思っているから」
まだ二度目の挑戦はしていないからというのもある。
あと、何気にこのままだとやられっぱなしでむかつくからというのもある。
意外とプライドというやつが強く存在しているから面倒くさいことになる。
自由に言ってきたし、相手は和じゃないから強気でいいかななんて考えていた。
ずっと同じような感じにはさせない。
それになにより、そこで抑えてしまうということは私らしくを貫けなくなることと同じだからできるわけがない。
「私も面倒くさいから相手も面倒くさいぐらいでいいと思うんだ」
「え、なんか酷い……」
「自業自得だよ、自由に言ってくれていた罰だよ」
今度ははっきりとそれが嫌なら近づいてこなければいいと言っておく。
なんでも我慢はできないし、絶対に脳に悪いからするべきではない。
彼女が少しでもいい意味で近づいてきてくれているということならしっかり向き合おう。
「花帆はどうしたいの? 和といられるだけじゃ足りないの?」
「んー……」
「和はいつも通りだよ、私がいなくたってなにも変わらないでいてくれるって分かったでしょ」
仲間外れにしているみたいで嫌だということなら最初からあんなことをするべきではない。
ただ、人間というのは簡単な失敗を何度も繰り返す生き物だから仕方がないという見方もできてしまうかもしれない。
そこを責めるということは自分を責めているのとほとんど同じだからね。
「……真由ちゃんのそういうところがやだ」
「やだと言われても……」
私は私らしく生きているだけだった。
いなくなることが百パーセントあの子のためになるとは言うつもりもない。
もしそれが事実なら悲しくなるし、不登校になりたくなるレベルのことだから。
それでも、これは間違いなく必要な選択だったんだ。
「あ、私が出てくるよ」
「あ、じゃあ」
なんかよく分からないおじさんとかおばさんだったりしそう。
宅配の人が来ることはないからそういう人しかありえない。
断りづらかったりするからありがたかった。
「ただいま」
「おかえ――」
「はは、和ちゃんらしいよね」
またこうして部屋で和と向き合うことになるとは思っていなかった。
でも、彼女がいるからだよね? 連れ帰るために来ただけだよね?
もし違う理由だったとしたらえー! と驚く自信があった。
「す、すまない、唐突に来てしまって」
「あ……いや、花帆と一緒にいたかったんだよね?」
「いや、……私がひとりで来たら花帆もいた、というだけだ」
聞いてみたら連絡はしていないということだった。
と、とりあえずは飲み物を持ってくることにする。
少しだけ息苦しくなり始めたから退室したかった、というのもある。
結局、こういうことをしてしまったら似たような感じになるということなのかな。
彼女達のことを考えて行動しているつもりが逆効果になってしまっていると、そういうことなのかもしれない。
「真由……?」
「あれ、待っていてくれればよかったのに」
彼女的にも気まずいということなのかな。
だったら、なんか少しだけ気が楽になる。
自分だけが慌てなければならないのは嫌だからという最低な思考からくるものだったけど……。
「私も手伝う」
「って、和の飲み物だけだから」
「いい、私が持つから戻ろう」
花帆とふたりきりでいることが気まずいということはないだろう。
だってもう一週間ぐらいは一緒に過ごしているんだから。
そのときはグループにいたときみたいに楽しそうにしているわけで。
まあ、これも考えたところで分からないことだから考えるのはやめた。
部屋に戻ったら花帆がベッドに寝転んですやすやしていた。
別に気にならないから布団をちゃんと掛けておくことにする。
「もうすぐクリスマスだな」
「そうだね」
「真由は……どうするのだ?」
「私は……」
ふたりが無理ならひとりということになる。
両親はわざわざそういうことで盛り上がったりはしないからだ。
去年までならなにも考えずに頼み込んでいたところだけどな……。
「和はどうするの?」
「私はグループの方から誘われているのだ」
「そうなんだ、花帆はどうなのかな?」
「どうだろうな」
つまり、今年はひとりで過ごすことは確定ということか。
でも、テストも無事に終わったわけだからそれでもよかった。
またゆっくり寝て過ごそうと決めたのだった。
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