002
和花の働く執務室はビルの五階に位置する。
出勤退勤時は必ず階段を使う和花だが、来客に階段を使わせるわけにもいかずエレベーターを使うことになる。
だがもう何度目かのエスコート。今日も何事もなく乗ることができた。この調子なら普段の移動もエレベーターに乗れるかもしれない。和花は胸の前で拳を握り、そう自分自身を奮い立たせた。
「橘さん、帰りもエスコート頼むよ」
連絡を受け、和花は会議室へ急ぐ。
待っていた三井にペコリと頭を下げると、また三井と共にエレベーターへ乗り込んだ。一階まで送り届け挨拶をするまでがエスコートの仕事なのだ。
カツカツと廊下を進みエレベーターの前まで来る。普段と変わりなくエレベーターが到着し、そして三井と共に乗り込み扉が閉まる。
と同時に、
「ねえ」
と声をかけられ和花は驚いて肩を揺らした。
小さく振り向くと三井は和花のすぐ近くまで寄っていて、和花はその近さに思わず後退りをした。けれど和花の背中はすぐに壁についてしまう。
「君すごく可愛いね。よかったら連絡先交換しない?またチーム長にもお世話になるだろうし、良い関係を築きたいなぁ」
チーム長に挨拶していたときの丁寧さはすっかり消えていて、和花と二人きりだからだろうか、営業スマイルが消えてニヤニヤと馴れ馴れしく近寄る。
逃げ場を失っている和花が恐怖で震えそうになったとき、ちょうどエレベーターが一階に着いた。
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