第48話 なんで此処にいるんだい?

「……な、…お?」


鏡を見る。

この、この子は誰だっけ。


「ヒメ、ナ………?」


どっちだっけ。

どちらだったっけ。

どれが今の私だったっけ。


「…っ、」


口を抑える。

嫌な汗が吹き出していた。


「………わたし、」


賢者学園のとある女子寮の、とある少女の悪

夢である。


「…………わたしって、わたしは…‼︎」










*****


「もう授業が始まるぅ?」

「そうだ。我輩はそう聞いた」

「…ルーク様、言葉使い!」


おっといけない、失礼。


あれから数日。

というか2日後。



もう授業が始まるらしい。

え、最初の一週間はガイダンスとかじゃないの?

もう授業?早くね?早いわ。


そして、みなさん突然だが違和感を覚えたのではないだろうか。

そう、あの男…。


ギルバートが、このクラスにいるのだ!

何故か⁈我々は調査を行った。


「…ギルはなんでここにいるの?」

「従者・使用人科の課題です。今日一日、主人がいる者は、その主人についてまわれと。まぁいつも通りでしょうし、別に」


「ちょいと待ってくれ。君は誰だ?我輩は初対面なのだが???」

「ほらぁ!昨日言っといてくれヨォ」

「申し訳ありません。…えーと?」


ギルがアビィのことを一瞥する。

しばらくして、恭しく頭を下げた。

そして、『挨拶』をしだした。


「失礼致しました。“私”はギルバートと申します。この次期公爵となるルーク様におつかえしています。どうぞお見知り置きを」

「いやいや。我輩はアビィ・シヴァという者だ。平民出身だが、よろしく頼む。きっと主人同様賢いのだろうな、君は」


…………お、おぉ?

今のは大丈夫なのだろうか。煽りに値しないのか?


「それは、それはそれは。滅相もございません。此処では、貴方とは“友人”として関わりたいものだ。…改めて、よろしく」

「…ふむ。煽りに強い、と。頭の片隅に針で刺し止めておこう。…よろしく、ギル」


ぴくりと、ギルの肩が揺れた気がしないでもないが…。

(いやいやいや、きっと気のせい。そうだ気のせい。それ以外にあり得ない)




「あのー、ところでアビィ。授業の内容って知ってる?」

「ん?…確か基本的な魔法を習うのではなかったか?…や、その前に『検査』があったか」


おいおい。言うくらいなら責任もてよぉ。


「…うん、覚えてないな!…多分『検査』の後に授業だった気がするが」

「よくそんなんでクラスメイトに情報を与えられるな」

「ヤメナサイ、ギル。オレコワイ」


とんでもない怒りオーラを出しながら、ギルがぶつぶつと何か呟いている。

おっかない。しばらく近寄らんとこ。

まぁ、アビィもアビィだが。


…あ、ヒメナはこの事を知っているのだろうか。一応教えとこうかな。


「ギル、俺放課後にヒメナの事茶会に誘うから。招待状の準備をよろしく」

「かしこまりました。カードは?」


「うーん。久しぶりにお誘いするし、彼女の瞳の翠色で」

「インクは?ニープ屋の物を?」


「うん、ニープ製の夜インクで。あ、宛名とかは金インクね」

「承知いたしました」


…ふー、誘うと決めたには俺も菓子の用意をしなくては。ここにはもう準備を進めてくれていたメイド達はいないんだから。

菓子といえば、ケイシー先生やステラ、ヒルト師匠は元気かな。

ケイシー先生とステラは定期的に、こっそりとお菓子を俺にくれていたよなぁ。

ヒルト師匠は、めっちゃたまにだけど、めっちゃゼッピンの菓子をだしてくれてたし。


「幸せだったんだなぁ」

「………過去に思いを馳せているのだろうが、なぁルーク」


「ん?なんだよアビィ」

「……いつも、いつもあんなインクまで指定しているのか」


ん?カードのことか?


「そりゃあ、年がら年中ということじゃないさ。だけど、今回は久しぶりだったから」

「…ふーむ。我輩は一生理解できないな」


「上等」

「だろぅ?」







いやはや、なかなかに面白い奴である。

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