第43話 悪夢

「お誕生日おめでとう、橋本君!」

あれ?俺は、何をしてたんだっけ。


「おめでとう、橋本。お前もこれで晴れて17歳か。…俺の方が三ヶ月先輩だが」

…妃?なんで、ここに。


「山田に…妃…?どうして、」

俺は…あれ?

俺は誰だっけ?


「え⁈だって今日は橋本君の誕生日なんでしょ⁈誕生日会しようって言ったじゃん。それに友達なんだから、祝わせてよ〜!」

そう、山田…。

目の前のこの少女は、『山田美弥子』。

才色兼備で、俺が唯一、成績においても人格においても勝てなかったクラスメイト。

学年の、学校のマドンナ。


「まさか、遠慮してんのか?するだけ無駄だって。相手はコノ美弥子だぞ?」

山田の後ろでニヤニヤとしてるのは、俺と並ぶほどの成績の男、『妃 龍雄』。

人気者で、人たらしで、山田に恋してるのがバレバレの奴。

でも何故かクラスメイトでも俺しか気づいてなくて、だからよくからかってた。



俺たち三人は生徒会の繋がりで、なんだかんだ仲が良かった。

何をするにも互いに相談して、間違いを犯せば注意して。

三人とも勉強、勉強勉強勉強、だったけど。

でもだけど、絆があった。

大好きなふたりなんだ。


「いや、誕生日つっても、どうして」

「あ、サプライズ嫌いな人だった⁈ごめん!気持ちが先走っちゃって…」

「美弥子、俺は言ったからな」


「いや…。そんな、」

「まぁ、美弥子も祝いたい一心だったんだよ」

「ごめん!あ、ケーキはあるから!」








ぽろ、

「ごめん、なんか、嬉しくて」


「ふぁっ⁈な、なんで橋本君泣いてるのぉ」

「あー、美弥子が泣かせたー!」



「妃にも原因はあるからな、このばかども」

「は⁈俺、⁈」

「ひどっ!」








久しぶりに食べた、甘い甘いケーキ。

誕生日ケーキ。


ショートケーキの1ピースだったけど、今までのなかで一番だった。


ささやかだけど、プレゼントも貰ってしまった。


山田からは使いやすいらしい付箋セット。

妃からはメモ帳と、五色カラーペン。


「ありがと…ホントに。嬉しいわ」

「なんかしょぼくてごめん!勉強に使えるのがいいと思ってたから…」

「俺のはちゃんと文房具屋で買ったからな」

「え〜⁈私だって!」





「ははっ!いーんだよ!…めっちゃ嬉しい!」

祝ってくれた。

『おめでとう』と、言葉をくれた。











そんな小さな事が、酷く嬉しかったのを覚えている。













「それでね、橋本君」

「?、なんだ?」




「わたしたちから、にげないよね?」

「…は、?」


にげないよね?

ニゲナイヨネ?

逃げないよね?


頭で繰り返す。



「はしもとの言う通りだ!なぁ、きらり!」

「…妃?」



「あぁそうだ。はしもとくん、はっきり言ってウザかったのよ。わたしに追いつこうと、足掻いてくるんだもん!」

「??」



「きらり、お前、おれの邪魔する気だったんだろ?おれがミヤコのこと好きなのしっていて…!」

「なに、いって」



「逃げないよね逃げないよね逃げないよね」

「俺たちずっと一緒だずっとずっとずっと」


「手っ、離せっ」


腕を掴まれて、動けないっ…!

足…、


「っあ」


あか、い、沼?

錆のような、においの、沼?










気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いキモチワルイキモチワルイ!


吐き気がする


せりあがってくる


嫌だ、嫌だ


二人からの贈り物を、どうして吐き出せよう



「きらり!」

「はしもとくん!」


二人が歪な笑みを浮かべる。







大好きな、ふたりなんだ。


だから、それなら、


別に、




『ルーク』






*****




「…あ、あ、あ…?」

「ルーク様!」


「…あれ、お前は、」

「は⁈、ギルバートですよ⁉︎」


「ギル、バート」

「ルーク様、酷くうなされていらしたので。水です、どうぞ」


みず。

みず、

水。


「…あー、俺は今ルークか」

じゃあ、さっきのは、夢。


「……前世ですか」

ギル…。変わらず輝く朝日の瞳。


「いや…。うん、少し、夢を」





夢として、悪夢として思い出された。

本当は、何より幸せな記憶だったのに。


悪夢として書き換えられた。



ということは、



(このネックレスの効果は本物、ということか)

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