第41話 ギルの記憶

俺は…俺は、大道芸人の息子でした。

母がそうだったんです。


母は【竜姫】という芸名で、小さいドラゴン達と共に演技を披露していました。


綺麗でした。

今でもその姿は鮮やかです。




母が相棒の名を呼ぶと、頭上高くから火を纏うドラゴンが降りてきて。

母の頭上を二、三周して腕へと着地するのです。

それがまあ美しくて。

それだけなのに、母の動作は洗練されていました。


後は…。

そう、ステージに張られた綱の上を、母が歩き、跳び上がりそして回転しながら落ちるのです。そこを少し大きめのドラゴンが受け止め、大きな大きな咆哮をあげるのです。


格好よかった。心から憧れましたよ。





でも…だけど、所属していた芸団の、団長が野盗に襲われて。狙うように他の団員達も殺されたり、行方不明になっていきました。小さな芸団だっから。すぐに壊滅的になってしまいました。

これは、当時居た町でも騒ぎになっていて。


母も、狙われました。

だけど返り討ちにしたらしくて。

ふふ、凄いですよね。


それで…もとは二十人いた団員が、その時にはもう半分になっていて。





理由はうすうす気づいていました。


狙いは俺だったんでしょうね。




《朝日の民》の子供が、こんなところにいる!

あの『色』は貴重だ。

“そういうの”が趣味の連中には、きっと高く売れる。

駄目でも目玉を穿り出して売れば良い。




そんなところだったのでしょう。


それに勘づいた母は、俺を連れて逃げ出しました。

団員達には何も言わず。

わかっていたとは思いますよ。あの人たちは本当に優しくて、俺をずっと可愛がってくれていたから。


それであの教会にたどり着きました。

夜でした。


月が高く高く昇っていて。

星は瞬いていて。


あぁ、置いていかれるのだなあ、

と、ぼんやりと思っていました。


最後に母が俺を抱きしめて、言ったんです。


『愛しているわ。貴方のそばに居られないことを、どうか許してね。良い子にしてるのよ。大丈夫、みんな優しい人ばかりだから。』




『貴方はあの人に…貴方のお父さんに似てるわ。

…もし、誰かに助けてもらったら、恩は必ずかえしなさい。誰かに傷つけられたら、倍にしてやり返すのよ。

…いつも私が言っていたことも、忘れないでね。

私の可愛い可愛いギル。…それじゃあね』


教会に引き取られて、そこでしばらく過ごして、ルーク様と出逢って、お仕えして。







「…それで、今に至るわけです」



喋り終えて、ギルが空を見上げた。


俺はなにをしたかったのだっけ。


「…ごめん本当。ありがとう、ギル」

「いえいえ。

…きっと、ルーク様は寂しかったのでは?構って欲しかったのですか?」


によによとしながら聞いてくる。


「はあ?そんなんじゃないし!」

「ふふっ、冗談です。

…こんなのも、良いものですねえ」


こんなの?どんなの?


「そういえば、ルーク様はラムプシをお食べになりたいのですよね。ならば屋台へ急ぎましょう」


「ん」



*****





「…ハァ、ハァッ!…ら、ラムプシだあ!」

「…禁断症状ですか?やめてください」


だって、久しぶりの好物だぞ?

初めて食べた時は普通だった。

だけど、オヤツとかで回を重ねるたび、癖になっていった…。

今では好物ランキング上位だぞ?

興奮するのも無理はない、うん。


「おねえさん、ラムプシをふたつ」


「あいよ。お友達同士でお出かけかい?いいねえ、こういうのが良いんだよ」


お代を払い、一つをギルに渡す。



「あー、むっ!……おいひいええ、いう!」

「食べ終えてから喋ってください…」


んー、幸せ。


ギルにしたこと、悪いと思ってるから、こんな事だけど罪滅ぼしになると良いな。

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