第40話 嫌

「す、凄え…!何これ?」


いよいよ外出日。

騎士は三人、しかしそうとわからないような服を着せた者たちをつけられた。

その騎士たちは、前のこともあり、俺たちから距離をとっている。

実質俺とギルしかいないようなものだが…。

ギルが剣において優秀ということで、許可されたそうだ。


「これ、ケイシー先生の授業でも習いましたね。確か…豊穣祭で、ここまでの規模を開くのは10年に一度の筈です。…あの?」

「はい!忘れておりあせん!ン勿論です!」


……ッスーーー…。


「…行こうか、ギル」

「はい」




街には色とりどりの布があり、屋根から屋根へという様にかけられていた。

赤、青、黄色…

(確か…赤は太陽、青は水、黄色は小麦を表すのだっけ。…綺麗だな)


「ん?ねえねえ、ギル。あれ何?」


俺が指を指す方を向いて、ギルはなんとも言い難い顔をした。

ただ、ステージにて飛び回る女性と、髭を生やす男性しかいないのだが…。

どちらも両腕に翼の刺青がある。


「…大道芸人達ですよ。各国を渡り歩きながら、金を稼いでるんです。

…あの女性と男なら…【比翼の鳥】の頭夫婦ですね。あそこは必ず二人組にさせるし、翼の刺青をいれさせるので」


「………え、なんでそこまで知ってるの?」


ギルに問うと、しまったとばかりに口をおさえた。

いや、それは…などと濁している。


「知り合い?あれでも、ギル、教会出身だよな?来たことあるの?」

「あー、うー、…」


いやなんやねん。

別に怒ったりしないよ?

ギルが俺のお菓子たちを制限しない限りは。

ほら、兄ちゃんに話してみい?

飴ちゃんあげよか。







「…俺、6歳までは母親と暮らしていたんです。…だから、母の仕事の関係で、見かけたことがある…だけで」


「…え?そうなの⁉︎初耳!

てことは…お母様は《朝日の民》、なの?」

「いえ。母は特徴であるこの瞳を持ち合わせていませんでした。だから、そうなのは父だと思います」


「こんなこと聞くのなんだけどさ、どうして、ギルは教会に預けられたの?」


…自分で言っておきながら、嫌になる。


なんで俺、こんな事を答えさせようとしてる

んだろうか。


駄目じゃないか。

親しき仲にも礼儀あり、というじゃないか。

踏み込むな。






やめろ。






傷の舐め合いをしようとするな。







俺にはもう、

会えずとも俺を産んでくれた母親、

同じ転生者として支えてくれるヒメナ、

俺を小さい頃から育ててくれていたハンナ、

俺を本当に想ってくれているツバキ、

腹黒味があるけど忠義のあるセス、

俺に学びを与えてくれるケイシー先生、

本気で剣を教えてくれるヒルト師匠、

頑張って俺を護ってくれたステラ、





厳しいけど優しくもある父親がいるじゃないか。








嗚呼、嫌われる。




「ごめん、嫌だな、こんなこと。俺、なんかやっぱり変だ。すまないな、ほんと」


「…ルーク様?…俺は別に嫌じゃありませんよ。やむを得ませんでしたから、あの時は」


俺の手をしっかりと握りしめて、ギルは進んでいく。

辿り着いたのは、小さな噴水だった。


そこに腰掛ける。沈黙。

周りの騒々しさが際立つようだ。


けれど、手は離されていない。

ただそれだけのことに安堵する。



(いつからこんなに、臆病になったのか)




「ルーク様は、俺に前世の事を話してくださいました。

だから…せめて俺に、過去のことを話させて下さい」

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