第39話 切れ切れの集中力

「あいでっ!」


バシン!と小気味良い音が響いた。

俺の頭に師匠の一撃が入った。


「ルーク様!」

「おい、ルーク、何をしてるんだ。何故俺の攻撃を受け流さなかった?防御しなかった?戦場なら、とっくに死んでるぞ」


「すいません…最近眠れていなくて…」

「は⁈ルーク様、睡眠不足なんですか⁈報告を受けていませんが⁈」

「ルーク、いったいどうしたんだ?」


…面目ない。本当に申し訳ない。

はあ、本当、駄目だなあ。

あれから、ずっとこうだ。


「…ルーク、そんな事なら今日はもう休め」

「え、できます!師匠、俺、できますよ!」


「自己管理もできていないのに、何をどうすると言うのか。剣とは、万全の状態でなければ、昇華できんのだぞ」

「…でも、だって、…」


「ギル、悪いな。振り返りを今度入れる。

その時までにルークはちゃんと休養をとること。…無理は、するもんじゃない」

「わかりました。では、ヒルト殿。…ほら、ルーク様…!」


「「ありがとうございました」」

「お疲れさん!また励めよ!…今度、な」




***



「…と言うように、北国は非常に寒い地域であるため、防寒着に動物や魔物の毛皮を使う場合があります。…ルーク様」

「ふぇ?」


「…聞いて、いますか?」

「…今日もいい天気?」



……あれ俺これやった?


「…ギルバート君…これは…?」

「…はあ」



「ルーク様、ケイシー先生の授業中ですよ?」

「…あ、」


やべ。

完全に意識がトんでた。

スペースニャンコもびっくり。


(そうだよ、授業中だよお。…やべえ。うわ、申し訳ない…何やってんだ俺…)


ケイシー先生はため息をついて、

パタン、と授業用の本を閉じ俺の座っていた机へと近づいてくる。


そこへ少し屈み、俺の目線に合わせてきた。


「ルーク様、お疲れですか?…先程、ヒルト殿にもお会いし、稽古の様子をお聞きしました。

…大丈夫、ですか?なにか、悩み事でも…」


「え、えっ、あ、いや、なんでも…ないです。すいません…」

「ルーク様…。なにか、あったら、必ずご相談ください。私は…私、必ず貴方のお力になりますから」



「は、は…。ありがとうございます」



*****




「あ゛〜、駄目だ。ヤバい、ヤバすぎる。俺ダメダメだあ…」


はあい、俺、9歳児。

先日の本が盗まれた事件で集中力が切れ切れです。


(…前世でもこんな事はなかったがあ?)



ちちち、と庭に小鳥が何羽か降りてくる。

青、黄色…。マーブル模様かよ。

綺麗だなあ。



(…いや、あったか、一度だけ)




「ルーク様!」


びくう!

今世紀普通のびくう!


「なあなあな、な、なんに⁈」

「…ちゃんと言葉を喋って下さい。…まさか、そこまで知能が低下した?」


「ひどい!なんて事言うのよお!それがあ、それがっ、主人に対する言葉あ⁈」

「…はあ」


ため息と共に「うげえ」という顔をしないでくださる?それ、イジメって言うんですのよ?

精神的イジメですわよ?

いや本当イジメに苦労してる方からしたら、軽いもんだろうけどお!


「…本の、せいですか」

「いや…俺のせい。俺が悪い。こんな事でショック受けてる俺が悪い…

うわあ、本当もうやだあ!」


「…ルーク様って、そう言う方なんですね」


ギルが俺の側に来て、再度溜息をつく。

頭がしがししてるけど、大丈夫そ?


「どゆこと?説明求む」

「…知らなくていいです、もっと追い詰めそうなので」

「ええ…悪口ですかコンニャロウ…」


「違いますよ。ただ…」

「?」



じーっと、俺を見つめるギル。

窓から夕陽が差してくる。

その向こうには、美しい、この世に少ししか存在しないとされる、双方の瞳。

朝日と夕陽。

その混ざりは、こんな風に見えるのだろうか。



「…明日、気分転換でもどうですか?公爵閣下にはもう許可を頂いています」

「え?あ、うん。…気分転換ねえ」



気分転換かあ。

外に出たらラムプシ食べたい。

たまのお菓子にしかでないんだもん。



「…近くでイベントがあるそうです。俺たちは明日そこに行く予定なのですが、他に行きたいところは?」



「ラムプシの屋台!」





公爵邸に、大きな大きな声が響いた。

俺がその後ギルに鉄拳(精神的)(言葉で)をくらったのは、その0.3秒後の事である。

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