第36話 白の客人







『まずい、せめてこの本だけは…』

空が紅く染まり、稲光が轟いている。


『あぐっ…⁈っ、あ、足に矢が…‼︎』

青年の足に刺さる矢。


『くそっ、…隠しの魔法を使うか…‼︎』

青年の唱える呪文。

それは彼のもつ本を白く包み込んでゆく。

そして、本は消える。


『…っ⁈あ、…』

直後、彼の胸を突き刺す––––


***

「…なにこれ。変な夢。」

ハーイ!俺、ルーク・スケヴニング!

朝からなんか妙な夢みて気分は最悪☆


失礼いたしました。

真面目に、ね。

そう、真面目に、ね。


「失礼致します、ルーク様。至急、聞いていただきたいことが––––って、何してんですか」

入ってきたのはギルバート。

そんな冷たいレモンイエローの瞳を向けないで!

レモネード飲みたくなる!


かくいう俺は、無駄に広いベッドの上で、前転の途中みたいな格好をしていた。


「…うる、うるせー!ギルの突然の訪問に驚いたの!」

「言葉使い改めましょうね」


と言っている間にも、俺をベッドから引き剥がすギル。


「てか、どしたん?至急の用事って?」

「あ、そうでした!…公爵閣下の…あ、いえ旦那様?のもとに、不思議な客人が訪れていて。妙に胸騒ぎがしたものですから」


「ふーん。父様の呼び方定着…ていうか、決まってないね?もう一ヶ月経つぜ?」

「話を逸らさない!………それに、私の主人は、貴方だけと思っているので」


わあお、熱烈ぅ。

まあ、野郎からの言葉ですが。

俺は嬉しい…!もしかして、ツバキより慕われ始めたのでは⁈


しかし、どうしてこう公爵家の従者は…。

セスもそうだったよな。

「私の信じる人は…」みたいな事言ってたし。


…………

「よし、準備するか…」


***

皆さんお待ちかね!

俺のファッションショー☆


今日の俺は青を基調としてるよ!

袖にフリルがつく長袖の白いシャツ、

重ねるのは金の刺繍のついた青いベスト。

ズボンは黒だが、裾にベスト同様金の刺繍つき☆


うん、いつもの服ですね。

ほとんど変わらん。

この服何着もあっからな。

代わり映えせんわ。


しいて言うなら、申し訳程度のイヤリングな。

いつもこんなのしてないんで。

客人がいるからね‼︎


イヤリングは雫の形。水色。

以上。


***

コンコン。

執務室の扉を叩く。


…お話中かな?

入って良い感じ?ダメ?


「うっ⁈…ルーク様、何を…。気でも狂いましたか?」

ヒドイ!

中の音を聞こうと扉に耳をつけてるだけじゃん!


しかし音はない。

「んんん!居ないみたいだヨ。入ろうヨ」

語尾が上がるぜ。 

「ちょっ、防音魔法の可能性もあるでしょう…!おやめください…、やめろっ!」


ギルの制止もむなしく、かちゃ、と扉は容易に開いた。

中には客人を強迫する公爵が––––いなかった。


「およ?誰も居ないだと?」

「…は?……本当ですね。誰もいらっしゃらない」


どうしたものかと部屋を出ると、ソフィアが目についた。

「あ、ねえ!ソフィア!父様たちを知らない?客人がいるって聞いたんだけど。」

「ルーク様!…ご主人様ですか?それなら、図書室の方へと…」


(…ん?図書室…?)

「ルーク様、これ…」

「いやあ、まさか、ね…?」

「?お二人とも、どうしたんです?」


………決めた。


ダッシュ‼︎‼︎

猛ダッシュ‼︎

嫌な予感がしまくりです‼︎

ギル君もいつもの真面目さは何処へやら。

超ダッシュ‼︎‼︎


***


「ぜっ、はあーっ。……ギル…あとこの廊下を行けば、図書室…だ…」

「そう、ですね…。……ん?」


俺が廊下への一歩を踏み出そうとしたその時。

グンと、後ろ…いや、正確には斜め後ろに引っ張られた。


「ギル⁈なにして…」


(しっ!ルーク様!近くの茂みに隠れますよ!)

(何で⁈)

(向こうから人が来るからです!…不気味な格好の。)


茂みの上から覗いたら、確かに不気味な、それでいてシンプルな格好の者達が、廊下を歩いてくるところだった。


(あいつら、なんだ?図書室から出てきたけど…。あ⁈父様もいる!セスも‼︎)

(おそらく、例の客人では?それにしては、奇妙すぎる格好ですが)


…その客人は、白かった。

白すぎる程に、純白を纏っていた。

静かにゆったりと歩を進めている。

彼らはその白いフードを、顔を隠す様に深くかぶり、ローブのような服も、装飾はついていなかった。

唯一といえば、目深に被るフードに、目玉の刺繍があった事だ。

(あれ…?どっかで…。そうだ、【世界録】の裏表紙に描かれていた…)


「ルーク様。もう行きました。出ましょう」

「あれ、マジ?…なんだったんだろ、今の」


…公爵もいたけど、変な感じだったな。

「…それにしても、ギル。確かめないとな」

「そうですね。…胸騒ぎがしすぎるので」


***

「…ない。」

「……え?」


【世界録】が、なくなっている。

それだけが、存在を消している。


「どういう…。……まさか。」

「そのまさか、かもしれない…」


この世界の異分子の内である一つが、消えているのだ。

何故あの本を…。

いったい、誰が。

いや、あの客人共だろう。

しかし、何故?この本の存在を…。


「…目玉つながり?」

彼らは、もしや––––



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