第33話 一時間前の出会い

「貴方がギルバートね」

「…はい?」

「ちょっ、ヒメナ⁈」


お茶会の終わり、俺たちは公爵家の図書室へと足を運んでいた。

すると突然、ヒメナがギルに話しかけたのだ。

いや、話しかけるのはおかしくないな。

うん、テンションがおかしいのだ。


ヒメナの顔は険しく、腰に手を当てている。

ヒメナの今日のドレスは緑を基調としていて、袖は白く膨らみのあるデザインだ。「可愛いでしょ」と自慢していた。

それで最初、ヒメナはうきうきとしていた。

しかし、カミングアウトしたあたりから険悪なオーラがでている。


「…はい、なんでしょうか。ヒメナ・マーチェント伯爵令嬢様?」

「ルーク…様と、私の秘密を知っているのよね?」


直球!

空には穏やかに雲がながれているというのに、ここはあたかも稲光のはしる雨のしたである。

険悪ムウド☆


「…ええ。ルーク様直々にお話をお聞きいたしましたので。」

「誰にも言わないのよ?」


「勿論です」

「………へぇ?私のウサギを乱暴に扱っていたくせに?」


ぴくり、とギルが反応する。

(どういうことでしょう。ボクにはわかりません。早く図書室に着きたいです)

目的地への廊下が、やけに長く感じる。


「このゴリラ!私のヒノデをよくも!」

「…申し訳ございません」


「ヒメナさん…?どうしたの」

「くすんくすん。こいつが私の家族をひっこぬいたのよお!」






〜1時間前〜


「ふう。それにしても、ルークの話って、なにかしら?もしかして、死神とかについて新たにわかったこととか?」


ヒメナはそう考えながら、指定された茶会の会場(庭でのガーデンテーブル茶会だが)へと向かっていた。


「全く、タソガレったら。急に体調をくずすなんて、大丈夫かしら?本当、困っちゃう。…早く治るといいのだけれど。」


はたと、ヒメナは気づく。

従者代わりに連れてきた、大切な家族がいないのだ。うさぎだが。

先程までリードで繋いで一緒に歩いていたのに、いつの間にか消えている。


「…ヒノデ?」

ノオォォオオオ!

だめ、嫌よ⁈

なんで居ないん⁈リードの役割どこへ⁈


「どどどど、どうしましょう?」

すると、ギーッという悲鳴が聞こえた。


「ヒノデ⁈どこにいるの⁈」

無我夢中で悲鳴のした方へと駆け出す。

果たして、その先には––––


「きゃ、きゃーっ⁈ひひひヒノデ⁈」

首根っこを掴まれ、ぶらさげられているうさぎがいた。あの茶色の毛と、己とそろいの翡翠の瞳。間違いなく、ヒノデだ。


ぶら下げられている先には、人の腕があった。

少年だ。少年がヒノデの首根っこを掴んでいるのだ。

無表情で、何も読み取れない。

しかし、レモンイエローの瞳が印象的である。


「な、なにをやってるん…ですのっ⁈」

そうだ、相手はルークではない。

乱暴な言葉は家の名に関わると気づき、急いでお嬢様言葉を使う。


「ヒノデを離しなさい!」

………


「聞いてるの⁈」

…少年がこちらを向く。


「……あぁ、貴女が例の。」

「は?ともかくやめてくださらない?その子は私の家族よ?その!うさぎを!離して!」


すると少年はヒノデを一瞥し、「はあ、家族…ですか」と呟いた。


(なんっ、なんなのよ⁈)

「いえ…失礼。このうさぎが公爵家の庭へと侵入してきたものですから。つい…」

「侵入じゃないわ。私は正式に、このスケヴニング公爵家の御令息、ルーク様に招待されました。」


「うさぎの話ですが?」

「…あぁん?」


おほほ。つい語気が荒く…

などと取り繕うも、ヒメナの心は活火山へと変貌していた。


(は?は?なんなんコイツ?うさぎ様の持ち方間違えとりますが?炎上案件だが?)

(かーっ!最近の若い奴は!もしもしポリスメンしたろか)

(てか離せや?私の家族をなんだと思ってんねん⁈?許せない…っ!末代まで【月一で小指をタンスの角にぶつけてしまう呪い】で祟ってやる…!)


人間とは、怒り狂うと本来の性格が変わってしまうものである。

だからついついエセの関西弁がでてしまうことも仕方ない。



「ふっ…。いえ、申し訳ありませんでした。リードがありながらも、一匹でいましたので。それに、この庭の草花を食もうとしていたのも相まり、ついつい…。」

「は、鼻で笑いやがって…。いえ、おほほほほ…。」


「森へお帰り…」という有名ゼリフを言わんばかりの雰囲気で、少年はヒノデを下に降ろした。

その間もヒメナは怒っていた。


「…本当、嫌だわあー。躾がなってなかったのね。それはホント、詫びるわ。でも、アンタの態度も躾がなかなかねえ…?」


うんうん、まずいのは承知している。

貴族社会で、他貴族家の使用人にこんな事を言うなんて、批判されかねない。

しかし、いやどうしてもヒメナは許せなかったのだ。

うさぎ好きだからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る