第28話 恋
「…といったところですかね。恥ずかしながら、知識がこれほどしかないもので。」
ツバキは話し合えると、机の上のコップをとり、中身を飲み干す。香り的に、紅茶だろう。
「いえ、ありがとうございます、ツバキさん。俺、自分が《朝日の民》なのに、なにも知らないでいたので。少しでも知れて、嬉しいんです。」
「…そうですか。役に立てたのならよかったです。」
ギルはだけど少し寂しそうに微笑む。
(こいつ的にも、思うところはあるんだろうな。)
「ありがとうな、ツバキ。じゃ、俺達はもう部屋に戻るよ。」
「…あぁ、はい。わかりました。」
………
「ね、ツバキ」
「はい?」
「さっき部屋を飛び出して行ったの、もしかしてハンナ?」
………………
「………ええ、まあ。」
「え、あの、ハンナさんって、メイドの…主に、ルーク様のお世話を担当していた?」
「そ。そのハンナが、どうしてツバキの仕事部屋から、勢いよく飛び出してきたの?」
ツバキは答えない。
「…なにか、嫌がることを強要したんじゃないよね?」
「っ違います!断じてそんなことはありません!…ただ、ハンナに…」
うつむくツバキ。
「ハンナに?」
「髪飾りを、渡したんです。いつも世話になっているし、それに…渡した髪飾りが似合うと思ったから。」
俺とギルは顔を見合わせる。それはおかしい。髪飾りを渡しただけで、逃げ出すだろうか。
「他に何か、言ったんじゃないの?」
「……いや、特には…。」
「ツバキさん。ハンナさんに髪飾りを渡しただけで逃げられる、というのは少しおかしいのでは?」
(よく言った!ギルもそう思ってくれていたか!…となると、残る可能性は…)
「…ツバキが、ハンナに嫌われているとか?」
ガガガガーン!ガ、ガ、ガ、ガーン!
「そん、な…。そんなに嫌われているのか…⁉︎」
「ツバキさん…」
「ツバキ…」
「「どんまい(ですね)」」
〜後日〜
まあ流石にほっとく訳にもいかなく…。
俺とギルで、事の真相を探ることにした。
まず、ハンナを呼びます。(俺の名前で)
次に、ツバキを投入します。
完成です。
驚き!10分くっきんぐう!
ツバキがハンナに近づく。
「…ハンナ。えと、君に、聞きたいことがあって。」
びくりとする、ハンナ。
いつもの威勢もどこへやら。
「……なんですか、ツバキ。」
「どうして、逃げたの?この前。」
「…それは、ごめんなさい。驚いてしまって。だって…私…。」
「もしも!」
「もしも、君が俺のこと嫌いなら、好かれるよう頑張る。可愛いものが好きな趣味も極力控えるし、変な発言もしない!だから、逃げないで…」
ツバキの顔が歪む。
「ツバキ…。誤解ですよ。そんなに怯えないでください。」
「…私が逃げようとしたのは、自分の感情からなんです。」
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
その日。
ルーク達がツバキのもとを訪れる少し前。
コンコン
「失礼します、ツバキ。どうしたんですか、わざわざ。」
「あ!ハンナ!…ちょっとね。渡したいものがあって。」
ハンナに椅子に座るように言う。
「渡したいもの?なんです?」
「これ!髪飾り!…ハンナに、似合うと思って。この前出かけた時に、買ったんだ。」
ツバキが渡した髪飾りは、シンプルながらも美しいデザインだった。
銀色で、花の形を模している。針金のように細い金属で形作られ、中心にはそれは綺麗な硝子飾りがついていた。
「ね、綺麗だろ。ハンナの髪に、映えると思ったんだ。…他に可愛いのも見つけたんだけど、これに惹かれて。」
「…こんな、素敵な物を、私に?いったいどうしたんですか。だって今日は、私の誕生日でもないですよ?」
ハンナは髪飾りを包み込むように持つ。
本当に綺麗だ。
「あぁ、もう!だから言っているじゃないか。…君に似合うと、思ったんだよ。」
「…嬉しい。ありがとうございます。私、大切にします。」
ハンナの胸は何故か、いつもより速い鼓動をしている。
(ツバキが、私のために…)
好きだなぁ。
(⁈…好き?……ツバキのことが、好き?)
ツバキは微笑みながら、何か話している。
だけど、心臓の音がうるさすぎて、うまく聞き取れない。これは、どういうことか。
(好き…。ルーク様のことが、好き。ご主人様のことも、好き。今はなき…奥様のことも好き。ソフィアのことも、メイド長も、執事のことも好き。だけどこれは、敬愛だ。…ツバキへの、好き、は?)
「…ハンナ?どうしたの?」
「えっ」
ツバキが立ち上がり、こちらへ近づく。
駄目だ。今は駄目なんだ。顔が赤いのが自分でもわかる。今、近づかれたら…。
「〜〜〜っ!」
バン!
逃げるように部屋を飛び出す。
その時、誰かとすれ違ったような気がするが、思い出せない。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
「あの日、私気づいたのです。私はツバキのことが、好きなんだと。」
息を吸う。
「恋してるんです、貴方に。」
言った。言ってしまった。
(…ふぁ⁈ハンナ、ツバキに恋してたん⁈知らんかった…。)
俺は驚く。
「断られるのは覚悟しています!でもっ」
「そんなの、俺だって好きだ!」
「のあっ⁈」
あ。
声を、出してしまった。
隠れてたのに。
「ルーク様⁈どうしてっ。あ、グル⁈」(ハンナ)
「やべバレた。」(ルーク)
「何してんですか!」(ギル)
「ハンナが、好き!」(ツバキ)
カオス‼︎
(ちなみにカオスは混沌だって。かっけえ!)
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