第26話 おはなし

「ご想像にお任せします。」


(うーん、どうしたものか。この子を従者にしたら、面白そうなんだけれど。)


「ね、そういえばさ、どうして俺が貴族だと断定できたの?」

「はあ?…どういう意味です。」


「だって、俺は貴族だと一言も言っていない。もしかしたら、商人の子供かもしれないと思わなかったの?その可能性も、あったよ。」


ギルバートは––ギルは、少し顔をしかめたが、すぐに俺の質問に答えた。


「思いませんでした。確かに、オツキがいる、というので判断は難しいです。でもアン、貴方様には商人独特の早口が無かった。それに加え、訛りのない言葉。あと、商人の子供にしては服と体が綺麗すぎる。––––マーチェント家の者、という可能性もありましたが、そこの息子殿は貴方様の歳をもうこえていますし。」


ギルはじっくりと、そのレモンイエローの瞳で俺を眺めながらこれを言った。

実に、素晴らしい。

(この、観察力!そして態度もしっかりとしている。敬語も使えるし、逸材だ!)


「…そっか。ねえ、ギル君。」

「…なんです?」

俺はギルの顔を見つめる。


「俺の従者にならない?」


「…」


「駄目?…この「仕事」につけば、衣食住は安心。学業も滞りなくできる。」

俺は続ける。

「もし君が、この「家」を心配に思うなら、大丈夫。父様はこの領内に住む人々を、いつも想ってるから。それに、それでも気が済まないのならば、仕送りをするといい。従者の収入は、そこらの仕事より高い。…君は、それを見越した上で声を「かけて」きたんだろ?」


(そう、勘づいていたはずだ。それでも尚、自分から声をあげた。貴族についての考えは誤魔化したけれど、嫌ならば自分から近づかない。)


「……これは賭けだったんです。だから、貴方が話を持ちかけた時、チャンスだと思った。」

ギルが不敵な、だけど強い意志のある瞳をみせる。


「…ギルバート。俺の従者になってくれるか?」

「ええ、もちろん。」



➖五分後➖

「ほう、これは!」

「うっ、ツバキ、声大きい!」


「いやあ、驚きました!一目見た時からそうじゃないかと思っていましたが、まさか、」


「《トゥガ・ナリゥ》の子供とは!」


「トゥガ、なんだって?」

おいおいツバキ、俺には発音できないぜ。

トゥガ…なんとかって、なんなの?


「すごい!俺、初めて見ました!…あ、そういえばルーク様は知らないのですね。」

「うん、えーと、この子は一応ギルバート、なんだけれども…」

「…はじめまして。」


「ええと、はじめまして、ギルバートさん。……こほん。ルーク様にご説明いたしますと、《トゥガ・ナリゥ》とは、とある民族なのです。これを訳しますと、《朝日の民》という意味になります。レモンイエローの瞳と、それと同じ髪色を持つことからそう呼ばれているのです。彼らもそう名乗っているのですけれどね。ええまあとにかく、《トゥガ・ナリゥ》は少数民族なのですが、圧倒的な身体能力が有名で…。あぁ、その一族の子供に会えるなんて!その瞳を見れるなんて!」


ちなみにここまでツバキは早口である。

だが少しも息切れをしていない。


「ツバキ…水飲んだら?」

「…あの、ツバキ?さん。ええと、質問があるんです。」

「んんっ、なんでしょう。」


「俺はその、《朝日の民》の瞳しか受け継いでないのです。なのに、どうしてわかったんです?」

「あぁ、それは顔立ちから読み取れることもありますから。それに、貴方の瞳は、唯一無二なのです。希少です。それを間違えるはずがありませんよ。」


?ギルバートは、何を聞きたいのだ?


「…俺は、《朝日の民》について少ししか知りません。だからこの瞳の価値も知らない。貴方の瞳も俺と似た黄色だ。…違い、は?」

「…ふふ。いいえ、全くちがいますよ。俺のは椿のもつ黄色だ。君のは朝日の…レモンの黄色。」


「…俺、従者にはなります。けど、毎日貴方に《朝日の民》について教えてほしいんです。」

「…えーと、ルーク様?」


(ツバキになついたの⁉︎悔しい!)

「…ぐう。…ギルバートが、教えてもらいたいのは、お前だよ、ツバキ。」


「…ツバキさん。」

「……………よろしく、お願い、します?」

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