第19話 師匠

カンッ カキン

木の、木刀のぶつかり合う音が響く。


「うわ、師匠!…っと、しつこいですよ!」

「ぬはははは!これしきで参っているようではいかんぞ!」


「––––ルーク‼︎」


俺、ルーク。

俺、9歳。

––––絶賛剣の練習中‼︎‼︎


うんうん、俺も成長したなぁ。

そんで剣の練習始めてもう3年よ。

ツライよ‼︎


「––––ここまで!」

師匠が練習終了の合図をする。

1日2時間の剣の練習の後は、ケイシー先生の授業。

(うぅ〜。体使った後に頭を回転させろと…鬼畜)


みなさんお気付きでしょうが、俺が師匠と呼んでいるのはもう3年の付き合いとなる

ヒルト・フーガ

        …殿である。

なんかこのひと酷いんですよお。


6歳。

俺はドキドキしながら剣の練習初日を迎えました。

ヒルト殿であると紹介され、挨拶したら、

「俺の事は師匠と呼ぶといい‼︎ぬはは!」

と言われた。

正直ヒイタケド、まあ公爵の紹介だし信用できるのだろうと思うことにした。

ポジティブが大事。


だけどそんなことも言っていられなかった。

初日からとばしすぎなんだもん、あの人。

柔軟15分。

走り込み30分。

素振り30分。

この中で取られる休憩は10分。

これは2年間続けられた。


今はこのセットに追加で

師匠と手合わせ 20分。

剣は楽しいけれど、疲れてしまう。

ここが悩みどころー。


中学生時代、剣道は授業であった。

けれどこう、なんか根本的に違うのだ。

身体の使い方?

呼吸の仕方?

素人にはわかりかねるが、違うのだぁ…。


ま、とにかくヒルト師匠は結構キツイメニューを組んでくる。

俺は文化部だったので、運動部であれば余裕だったのかと考える…。

ヒルト師匠はかっこいいのに、性格が残念である。

ルックスはそれなりだが、引き締まった、細いながらも筋肉のついた身体。

背も高く、瞳も活力に溢れている。

錆色の髪も少し伸びているが、ひとつに纏めているし、清潔そうな服装で毎回ここに訪れてくる。

本人は「そろそろ髭を生やそうかな…」とか言っていたが、無くてもかっこいいと思う。

剣バカだけど‼︎‼︎


「…性格さえなあ。」

俺がぼそりと呟くと、早速師匠が反応した。

「なんだ?ルーク。剣で困った事でもあったか?」

「…いえ、特には。」

「ん?そうなのか?剣は1日休むとすぐに腕が鈍る。だから少しでも、剣に触れることが大切だ。」

「はーい。ええと、次は明後日ですか?」

「あぁ。本当は毎日来なければならないのだろうが…明日はいつもの用事でな。すまん。」


師匠は毎週一度だけ休む。

決まって金曜日、師匠は用事があると言う。

休みがあるのは嬉しいが、剣の練習は欠かせないので自習のクオリティが心配である。

(やべぇ…。俺も師匠化してきているのでは?)


「ええと、それではこれで稽古を終了する!礼!」

「ありがとうございました!」



「…ルーク様。」

はっ‼︎

「すみません、先生…。俺今…。」

「…ふふ。…寝てましたね。あちらの世界へ旅立っていました。」

(わ、笑われた…。)


「…今日はここまでにしましょう。あまり詰めすぎるのも良くありません。…最近は剣も練習時間が増えたと聞きましたし。」

「…あー、すいません…。」

先生と午後の授業中なのに、寝てしまった…。

「…次はお気をつけて下さい。」

「はい…。」


先生は昔よりずっと話してくれるようになった。

楽しいし、嬉しい。

「マギ」について知れるし、いいことだ。


とんとん。

先生を見送った後、部屋に帰ろうとしたら肩を叩かれた。

振り返ると、ハンナとソフィアが居た。

「ん?なあに、ハンナ、ソフィア?」

ハンナは俺が赤ん坊の頃から変わらない美しい、凛とした顔だ。

(歳をとらないのかなぁ⁈)

ソフィアは最近大人っぽくなったと聞くが、子供っぽいところは全然ある。

(歳をとらないのかなぁ…。)


「ええと、ルーク様。ご主人様…公爵様がお呼びです。」

ハンナが答える。

「はい!なんでも、大事な用事だそうで…至急という事でしたので、お伝えに参りました!」

ソフィアが付け足す。


「ふむ。父様が。ん、了解。ありがと、二人とも。」

二人に手を振り、俺は執務室へと向かう。

だいたいそこにいるでしょ。

「それにしても、いったいなんなのだろうか…。」


––––扉を開けた先。そう、執務室には、予想外のサプラァイズが待ち受けていた。

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